第27話 裸の背中に触れる間柄




「海とか去年ぶりだな~。いーんちょは?」

「さあ? 十年ぶりとか?」

「え~! それって小学生くらい?」

「入学前だった気がするわ」

「へぇ~」


 そこで美波はハッとして、


「もしかして…いーんちょ海嫌い?」

「どうして?」

「だって、全然海来ないなんてある?」

「別に。泳ぎたければプールがあるし」

「そうだけど~」


 不安そうにする美波に、冴子は苦笑い。


「とにかく、嫌いなわけじゃないから。安心して」


 冴子はそう言うと、美波の手を取る。


「行きましょう」

「う、うん!」


 ふたりでビーチサンダルを履いて砂浜に出る。


 適当な場所にシートを敷いて、パラソルを立てると、あとはそのまま海に入った。


「冷たっ。きもち~」


 波が足下を潜り抜け、指と指の間を砂がくすぐる。


 こそばゆい感覚に思わず笑いながら、美波は冴子を振り返る。


「いーんちょも気持ちい?」

「ええ」


 冴子は微笑みながら、波でできる白い泡を見下ろしている。


(美人だから、絵になるなぁ~)


 その様子人しばらく見惚れていたが、そこでふと美波はあることに気づく。


「ヤッバ、日焼け止め塗ってないじゃん!」

「え?」

「一回あがろあがろ」


 美波は慌てて海から引き返し、パラソルのところまで戻る。


「はい、パパッと塗って、早く海戻ろ」


 美波は冴子に日焼け止めを一本渡し、自分も手足や首元に塗っていく。


「ン~~~」


(背中塗りづら~)


「ごめん、いーんちょ。背中塗ってもらっていい?」

「いいわよ」

「ありがと、助かる~」


 美波は冴子に背中を向けて座る。


「じゃあ塗るわね」


 そう言って、冴子の手が美波の背中に触れる。


「うひっ!」

「美波さん?」

「ご、ごめん。クリーム冷たくって」


 それは事前に分かっていたことだが……。


(いーんちょの手で塗られると、なんか変な気分になっちゃう)


 美波はそんな風に思いながら声を我慢している間も、冴子は手を休めない。


 ヌルヌルと手早く均一にクリームを塗っていく。


「紐の下も塗るわね」

「うん…っ。あのさ、いーんちょ」

「何?」

「もっとゆっくり…私、背中弱いかも」

「ああ…そういえばそうだったわね」

「ありがと……え? もしかして、知ってたの?」

「だって」


 ふと冴子は指先で、美波の背中のラインをツツーッと撫でる。


「ヒャンッ!」

「いつもここを舐めると、美波さんすごく反応するじゃない」

「~~~」


(いつも余裕なくて気づいてなかった…)


 だって何をされても気持ちよかったし。


 なんだか恥ずかしくなりながら、美波はおとなしく残りの日焼け止めも塗ってもらうのだった。


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