第23話 夏休みが始まった……けど




 夏休み。


 美波は毎年課題が最終日まで終わらなくて焦る。


 そんな話を軽く振ったら、冴子が手伝ってくれると言った。


 毎日とは言わなくても、スケジュールさえ立てれば問題なく終わると。


 そのスケジュール管理のついでに、一緒に課題もやろうという話になった。


 もちろん、勉強ばっかりじゃつまらない。


 なので、午前中にノルマまでやって、午後になったら遊びに行こう。


 そんな風に軽く計画を立てた。


 そうして、約束通り午前中は冴子と一緒に課題をやった。


 お昼は簡単にそうめんを作って食べ、少し腹ごなしにダラダラと時間を過ごす。


「外暑そーだね~」

「そうね」


 窓の外の日差しを見ながら、美波と冴子は益体もない会話をポツポツと続ける。


 勉強で頭を使ったせいか、クーラーが効いてるのに妙に気怠い。


 午後になったら遊ぶぞーと話していたのに、何でか気持ちが萎えていた。


 ……いや、というか。


 単純に、ふたりきりでいたい。


 外で遊ぶのも楽しいだろうけど。


 勉強中から、正直ずっと冴子から目が離せない。


 夏になって薄着になった彼女の肩や鎖骨が、気になって仕方なかった。


(やばっ…触りたい)


 でも遊びに行くと約束したし。


 冴子にその気はないのかも。


 けど彼女もそろそろ出る準備をしようってなかなか言わない。


 もしかして……いーんちょも……。


 そんな期待。


 思わずノドが鳴りそう。


「……!」


 一瞬、冴子と目が合った。


 チラッとこちらを見た彼女……その視線に引き寄せられるように、恐る恐る手を伸ばす。


「いーんちょ……」


 呼ぶと、彼女はまたこちらをチラッと見やる。


 彼女は何も言わないが、逃げもしない。


 ただジッと美波の次の行動を待っている。


 今度は堪えきれずツバを呑み込んだ。


 彼女の肩に手を回した。


 互いの距離が近づく。


 肩が触れ合い、少し制汗剤の匂いが鼻腔をくすぐる。


 そのまま美波は吸い込まれるように、冴子の唇に自分の唇を――


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