第21話 夜の独り言 1




 その日の夜。


「ただいま」

「おかえり。遅かったね」

「まあね」

「ご飯冷めちゃったよ」


 妹の友香は不満げに頬を膨らませる。


「ごめんなさいね」


 適当に謝って、冴子は冷や飯をささっといただく。


「ごちそうさま」


 お風呂の前に明日の予習でもしよう。


 そう思って部屋に戻ろうとした時、


「あれ? おねぇ、首」


 友香は冴子を見ながら、自分の首筋を指差す。


 冴子の首には、彼女が指差したところに絆創膏が貼ってあった。


「ケガ?」

「ちょっと引っ掻いちゃって」

「ふーん……気をつけなよー」

「ええ」


 冴子はヒラヒラと手を振って、改めて部屋を出て行く。


 階段をのぼりながら、絆創膏を軽く撫で、


「気づかれたかしら……」


 と、独り言を呟く。


 けれど、もし気づいていたなら、妹の性格ならもっとしつこく聞いてきただろう。


 なら、大丈夫か。


 たぶん。


 まあ仮にバレていて、その上で黙っていてくれるなら別にいい。


 面倒がなければ、構わない。


 そういう意味では、そもそも跡をつけないで欲しいという話だけれど……。


「……」


 あの時の美波を思い出す。


 彼女の紅潮した頬が、とても印象的だった。


 たどたどしく私に触れる指先がくすぐったく、何かある度に「平気?」とか「大丈夫?」と尋ねてきた。


 余裕のある表情には見えなかったけど……暴走せず、ずっとこちらを気遣ってくれていた。


 あれは慣れとかではなく、単に彼女の性格なんだろう。


 一方、自分は上手くできていただろうか?


 今日したのはお互いに一回ずつ。


 自分ははじめてだったので、とりあえず感覚に任せてみた。


 美波の反応を見た限り大丈夫だったように感じるが、どうだろう……?


 彼女はかなり敏感だったような気がする。


 まあ、比較対象が自分しかいないから、そう感じるだけかもしれないが。


(もうすぐ夏休みだし……次のために、そっちも勉強しておこうかしら)


 そんなことを考えつつ、冴子は自分の部屋に戻っていった。


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