第19話 放課後の恋人の会話 2




 美波の家に着いたのは、午後四時半頃だった。


「お邪魔します」

「は~い」


 靴を脱いで玄関に上がる。


 とりあえずリビングに通されるが、家に人の気配はなかった。


「ご両親は?」

「仕事ー」

「そう」


 冴子は特に意味もなく、周囲を観察する。


(椅子が三つ。ひとりっ子なのね)


 まあ、そんな感じはする。


「お待たせー。私の部屋行こ」


 ジュースとコップを取ってきた美波は、そのまま冴子を自室へ案内する。


 美波の部屋は、冴子の部屋とはだいぶ違っていた。


「かわいい部屋ね」

「そお? えへへ」


 ぬいぐるみとか、クッションとか、ポスターとか、雑誌とか。


 ほかにも小物とか化粧品とか、どれもかわいらしいデザインをしている。


 それはそれとして。


「それじゃ、いーんちょ手ぇ出して」

「はい」


 冴子は美波に手を差し出す。


 彼女はその手を握って、しばし見つめ……


「どうしたの?」


 なかなか動かない美波に冴子は首を傾げる。


「いーんちょって意外と手小さいね」


 そう言いながら、美波は冴子の手をにぎにぎする。


 にぎにぎにぎにぎ


「……美波さん?」

「あっ! ご、ごめん! 気持ちよくて」


(そんなに?)


 冴子には分からない。


「こほんっ、じゃあ始めるね」

「お手柔らかにね」

「りょ。まずは爪を整えるところから~」


 そうして始まる爪のレッスン。


 甘皮の処理、爪の整え方、ベースコート、マニキュア、トップコート。


「基本はこんな感じ~」

「意外と大変ね」

「まぁね~。でも綺麗にできると気分アガるよ~」


 冴子は美波の指をチラッとみる。


 彼女の指には淡いピンク色が塗られ、少しだけラメも入っていた。


 校則に引っかからない程度に、でもできる限りのオシャレ。


「美波さんって、毎日こんなことしてるの?」

「え? いやいやないない。一回やったら一週間くらい保つから」

「そうなの?」

「あっ、でも油断すると剥がれやすくなっちゃうから注意ね」


 その注意すべき点なども教えてもらい、ひとまず今日のレッスンは終わった。


 気がつけば、もう六時前だ。


「結構遅くなっちゃったね。時間だいじょぶそ?」

「妹に連絡はしてあるわ」

「そっか。じゃ、駅まで送るから……」


 美波は立ち上がろうとして、


「あいたっ!」


 長時間座っていて足が痺れたのか、一歩踏み出したところでよろけてしまい、


「わわっ」

「!」


 そのまま、冴子の上に覆い被さった。


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