第18話 放課後の恋人の会話 1




 また時間が過ぎ、滞りなく今日の授業も終わった。


 特にすることもなく、家に帰ろうかと冴子が教科書を鞄に詰めていると、


「いーんちょ」


 美波がひょこっと顔を覗かせてくる。


「何?」

「帰りどっか寄ってかない?」


 陽気な声で、彼女は遊びに誘ってくる。


 こうして誘われるのはもう何度目かも分からない。


 それを断ったことは、これまで一度もないのだけど、


「いいわよ」


 と、冴子が返事をすると、美波はいつも、ほんの少しだけホッとしたように頬を緩める。


(何でかしら?)


 冴子は心の中で首を傾げるが、そうした疑問を顔には出さない。


 それからふたりは並んで学校を出て、遊びに行くため電車に乗る。


「今日はどこ行くの?」

「ネイルのさー、夏の新色入ったみたいだから見たいかな~」


 冴子は無言で頷く。


 すると、美波はこちらの手に視線を向けて、


「そういえばさ、前にいーんちょもネイル興味あるって言ってたよね?」

「うん?」


 そうだったかしら、と冴子は記憶を振り返る。


 話の流れで言ったような気もするが、正直あまり覚えていない。


 ただ、冴子の「うん」を美波は肯定と思ったようで、


「ならさ、いーんちょも何か買って試してみない?」

「でも、あれってマニキュアがあればいいってものでもないんでしょ? 必要な小道具とか、私持ってないわ」

「そんなのウチに来れば貸してあげるよー」

「そう?」


 冴子は少し考える。


(これって、家に誘われてるのかしら?)


 前に冴子の家に来てもらったことはあるが、あれは勉強会だったし。


 付き合い始めてそろそろ二ヶ月。


 美波は何を考えているのだろう……?


「……なら、お邪魔しようかしら」

「ホント? あっ、じゃあお菓子とかも買ってこー」


 もしかしたら何も考えてないかも。


 何はともあれ、なんだかそういうことになった。


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