第16話 昼のクラスメイトの会話 1




 美波とつき合うようになってから変わったこと。


「ねぇねぇいーんちょ」

「何?」

「英語の宿題やった?」


 頻繁に美波と話すようになった。


 内容は日によっていろいろ。


 特に話題に振りやすいのか、宿題や予習してきたと聞かれる頻度が高い。


(勉強の話なら嫌がられないと思ってるのかしら?)


「もちろん」

「すごーい。ねぇ、あとで見せてもらっていい?」

「別にいいけど」

「やったー。ありがといーんちょ」


 美波は嬉しそうに笑顔を見せる。


 その時、彼女の後ろの席の麗が呆れた顔をして、


「美波、この前も委員長に見せてもらってなかった?」

「え? そうだっけ?」


 美波とつき合うようになってから変わったこと、その2。


「委員長もコイツ甘やかすと無限にたかられるよ」

「そうなの?」

「末っ子で甘えん坊なの、コイツ」


 こんな風に、麗と話すことが増えた。


 前は席が近くても全然話さなかったし、お互い興味なかったのに。


 間に美波を挟んでではあるが、以前より気安い関係になったような気がする。


「気をつけるわ」

「いーんちょ真に受けないでよー! 麗もヒドくなーい!」


 抗議の声を上げる美波。


 こうして、冴子の周りは少し騒がしくなる。


 これも彼女とつき合ってから起きた変化かもしれない。


 冴子自身、クラスで孤立しているわけではないが、特別親しい相手がいなかったのもまた事実だ。


 休み時間にいちいち騒ぐ相手など、ほとんどいないまま学生生活を過ごしてきた。


 別にそれをどうこうと思ったことはないが、美波の登場は少しばかり日常のルーティンに変化を与えた。


 それが好ましいのか好ましくないのかは別として。


 さて、そんな違いはありつつも、学校の時間割は一向に変わらない。


 午前中の授業はつつがなく終わり。


 昼休み。隣で美波がうんうんと唸っていた。


「どうしたの?」


 英語の宿題は無事に写せて問題なかったはずだけれど。


「これ~」


 そう言って美波が見せてきたのは、進路調査の紙だった。


 見れば、第一志望から第三志望まで空欄……まるで捗っていないのが見て取れた。


「まだ決めてないの?」

「だってー私の頭じゃ行けるとこなんてあんまないもーん」

「あんまりないなら悩む必要ないんじゃない?」

「うぇ~いーんちょヒドー」

「???」


 何がヒドいのか分からず、冴子は首を傾げる。


 美波は机にだばーっと突っ伏し、ふと冴子の方に顔を傾けて、


「そーいえばいーんちょって来年外国行くんだっけ?」

「そうよ」


 冴子は頷く。


「何で外国に行くのかって聞いていい?」


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