第15話 朝の教室の会話




 冴子は学校に登校する。


 通学路を歩き、校門をくぐり、教室へ向かう。


 特に何があるわけでもなく、普通に目的地に到着。


 さて、今日の一限目は何だったか……。


「夏服ーーーーー!!!」

「っ!」


 突然の絶叫に、思わずビクッとしてしまう。


 驚いてそちらを見ると、逆転ゴールを決めたサッカー選手のようなポーズで、美波が体を震わせていた。


「いーんちょの夏服…いい」


 美波は両手で顔を覆い、さめざめと泣き始める。


 どうやら震えていたのは、歓喜に打ち震えていたらしい。


 相手が彼女と分かり、冴子は呆れたようにため息を吐く。


「おはよう美波さん。朝から大声出すのはどうかと思うわ」

「ごめんいーんちょ。おはよ!」


 まだ若干興奮気味なのか、いつもよりテンションの高いままの美波。


 彼女の友達の麗は、やや引いた表情で一連のやり取りを見ている。


 冴子は教科書を机に移し、軽くなった鞄を脇のフックにかける。


 さて、空き時間に予習でもしようか。


 そう思い、冴子は一限目の数学の教科書とノートを広げる。


 そのまましばらく例題を解いていたが……ふと隣の美波がこちらを見ているのに気がつく。


 隣の席に座り、頬杖をついてずっと冴子を眺めている。


 十分ほどはそのまま放置していたが、飽きもせず彼女が見つめてくるので、


「美波さん、夏服が好きなの?」

「え?」


 急に質問を振ったからか、彼女は驚いたように目を丸くする。


「えっと~夏服? まぁ、程々かな?」

「そうなの? 熱心に見てるから、よっぽど好きなのかなって」


 冴子がチラリと横目に見やると、美波は恥ずかしそうに頬を掻き、


「それはその~いーんちょを見てたっていうか~」

「そうなの?」

「うん」

「私のことなんて毎日見てるじゃない」

「えー、でも夏服だしー」

「夏服だと何か変わる?」

「変わるよー! 半袖になって見える二の腕とか、肌白ーいって思うし。制汗剤のシトラスがこっちまで香ってきて~」


 早口に喋っていた美波だったが、その頭に後ろの席の麗が下敷きをペシリ。


「さすがにキモいし。委員長も引いてっから」

「えっ? 嘘! いーんちょ引かないでー!」

「別に引いてないから」


 凄い喋るなとは思ったけど。


 でも、やっぱり美波はおもしろい。


 そう思いながら、冴子は数学の予習に戻った。


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