第11話 対戦




 その日の放課後。

 美波はお気に入りのゲームセンターに、冴子を連れて来た。


「イメージより静かなのね」

「そう?」

「もっと耳が痛くなるの想像してたわ」

「メダルコーナー以外はそんなにね~」

「でも向こうから大きい音が……太鼓?」

「あー、太鼓叩くゲームがあるから」

「太鼓叩くゲーム?」


 適当な会話をしながら、ふたりは店内を見て回る。


「いーんちょは何かやりたいのある?」

「美波さんに合わせるわ。私じゃ何があるか分からないし」


 そこで冴子は軽く首を傾げ、


「そういえば麗さんと勝負がどうのって話してなかった?」

「あー、実は私、格ゲー好きなんだよね」

「それは?」

「う~ん……じゃあ、やろっかな。いーんちょは後ろで見てて」


 ふたりは格闘ゲームの筐体が並ぶコーナーに移動する。


 1プレイ分のお金を入れ、美波は得意のキャラを選んで、ゲームスタート。


「相手の動き変じゃない」

「ひとりプレイだから、相手はコンピューターだよ」

「ゲームってコンピューターの方が強いんじゃないの?」

「最初はレベル低く設定されてるから」

「なるほどね」


 雑談しつつも、美波は危なげなく二本先取して最初のステージを突破する。


 その後も順調にふたり目、三人目とクリア。


「美波さん上手なのね」

「え~そんなことないよ~」


 と言いつつ、褒められて悪い気はしない。


「私にもできるかしら?」


 美波のプレイを見ながら、ふと冴子がそんなことをぽつりと呟く。


 それを聞いて、美波は目を輝かせた。


「いーんちょならできるよー。じゃあほら、ここ座って座って」

「え? でもまだ途中なんじゃ……?」

「いーからいーから。操作教えるね」


 美波は自分の席に冴子を座らせ、レバーの握り方やコマンドを教える。


 そのついでに彼女の手に振れてみたりして。


「こう?」

「そうそう、上手い上手い」


(いーんちょ指長~肌白~)


「美波さん手撫ですぎ」

「あっ、ごめんごめん」


 それからひと通り教えたあと、冴子ひとりでコンピューターと対戦させてみる


 と、勝った。


「いーんちょやるー!」

「結構楽しいわね」


 喜ぶ美波を見て微笑む冴子。


「いーんちょコマンドミスんないね~。やっぱ指長いからかな?」

「それ関係あるの?」

「分かんない。でも、手の動かし方が綺麗なんだと思うよ~」


(いーんちょゲーム嵌まってくれないかな~。そしたらもっと遊べるのに)


 するとそこへ、『乱入者登場』の文字が画面に現れる。


「何かしらこれ?」

「誰かがいーんちょと戦いに来たの!」

「人? コンピューターじゃないのね」


 頷く冴子は、冷静にレバーを握り直す。


 一方、美波はオロオロし、


「大丈夫? 替わろっか?」

「負けたら1プレイ分返すわ」

「いや、それは別にいーんだけど……」


(こんなん絶対初心者狩りじゃん! 絶対性格悪い奴!)


 相手のクソ煽りで冴子がゲーム嫌いになったらどうしよう……それだけが心配だった。


 美波がハラハラと見守る中、対戦がスタートする。


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