第4話 気まずさから逃げないギャル




 映画後。喫茶店にて。


「最後カンドォしたねぇ~」

「そうね」


 映画の感想で号泣する美波に、冴子はそっとハンカチを差し出す。


「ありがどぉ~」


 美波は涙を拭い、スンスンと鼻を鳴らす。


「いーんちょはどうだった?」

「おもしろかったわ。最後の伏線回収とか」

「伏線? 回収?」


 用語が分からず、美波は首を傾げる。


「最後、ヒロインのために友達が集まってきてくれたでしょ?」

「あそこよかったよねぇ~」

「ええ。で、あそこで友達が来てくれたのって、それまでのヒロインのがんばりがあったからじゃない?」

「うん」

「それがとてもよかったわ」

「それなら分かる~」


 そのシーンを思い出してか、美波は笑いながらまた泣いてしまう。


 感情豊かな彼女を見て、冴子も微笑み、


「落ち着いたら、外出る?」

「うん! 買い物しよ、買い物!」


 それからふたりはコーヒーを飲んで、表通りに出る。


 決まった目的地はない。


 アクセサリとか小物とかを見て回ったり、映えスポットに行ってみたり。


 気になったお店を見つけては入っていき、あれこれ手に取っては沢山話す。


「でね~この新色が~」


 マニキュアを手にいろいろ教えてくれる美波を見て、冴子は、


(楽しそう)


 と、まず思い、次に、


「かわいい」


 と、口に出した。


「でしょ~!」


 美波はマニキュアの話と勘違いしたらしく、満面の笑みで頷く。


 彼女は気に入った色を数個買い、冴子と一緒に店を出る。


 そこからはまた行き先も決めず街をぶらつく。


「……」


 美波はふと隣の冴子を見て、


(やっぱりいーんちょって美人だなぁ~)


 と、思う。


 そのまま見続けていると、こちらを振り向いた冴子と目が合った。


「こっち見てどうしたの?」

「あっ、えっとえっと」


 見蕩れてたなんて恥ずかしくて言えず、顔を真っ赤にして焦る美波。


「ねぇ」


 そんな美波をまっすぐ見ながら、冴子は口を開く。


「な、何?」

「美波さん、私に言いたいことがあるんじゃない?」

「えぇ!?」


(いーんちょエスパー!?)


 ビックリしてますます冷や汗を流す美波。


 しかし、次に冴子から発せられたのは、予想外のセリフだった。


「私の服、本当はあんまり似合わないんでしょ?」

「え?」

「いいの。分かってるわ」


 冴子はため息を吐く。


「正直、ファッションとかよく分かってないの。これも雑誌を見て適当に一式買っただけだし」

「……」


 美波はしばし呆然として言葉を失っていたが、


「……いやいやいやいや!」


 数秒後、再起動してブンブンと首を横に振った。


「その服が似合ってないとかあり得ないから!」

「気をつかわなくていいのに……」

「つかってないし!」


 うがぁーと美波は反論し、冴子に顔を近づける。


「てかマジそんなことないから。あと私以外に学校でそれ言っちゃダメだからね」


 ヘタしたら謙遜風嫌味と思われかねない。


(いーんちょって、もしかして鈍感?)


 人の目というか気持ちというか、その辺り鈍いのかもしれない。


「あと言っとくけど、雑誌のコーデがそのまま似合うって、モデルさん並って意味だからね?」

「あ……」


 言われて気づいたのか、冴子はようやくしまったという顔になった。


 本人は本当に適当に買ったつもりだったのかもしれない。


「……そうね。美波さんの言う通りだわ。ごめんなさい」

「いやいや別に謝らなくてもいいってば!」


 しゅんとなる冴子をフォローする美波。


 自分が落ち込ませてしまったかと慌てる気持ちもありつつ、


(いーんちょレア顔キュンなんだけど)


 と、心の隅で思ってしまい、若干罪悪感。


「……よし!」


 気持ちを切り替え、美波は冴子の手を握る。


「美波さん?」

「いーんちょ、これから服買いに行こっ!」


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