第2話 周囲の反応・麗の場合




 昼休み。教室。


「委員長とつき合うことになった?」

「そ~なの~」


 美波は腕をブンブン振って、喜びをアピールする。


 友人の麗は頷きつつ、紙パックのストローに口をつける。


「ふーん、なんか意外」

「意外って何~?」

「いや、委員長ってそういうのキョーミないと思ってたから」


 ジュルジュルとジュースを飲みながら、麗は肩を竦める。


「え? でも私が告白に行く時、めちゃ応援してくれてなかった?」

「んー? ありゃまぁ、死んだら骨は拾ってやる的な?」

「ヒドー!」

「いや、だって委員長ってひとりが好きなタイプじゃん」

「えー? そうかなー?」


 美波は首を傾げる。


 そんな彼女の顔を、麗はビシッと指差して、


「あんた忘れたの? 去年の文化祭。打ち上げ行く人募った時、委員長ひとりだけしれっと帰ったの」

「あー」

「あーってあんたね」


 麗は美波の額を指でグリグリ。


「あれにはクラス一同ドン引いたもんよ。興味なくても顔くらい出すもんじゃない?」

「でもあれってほら、確か翌日になんかのテストがあるって言ってたじゃん」


 美波は麗の手を避けて、最後のおかずをつまむ。


「ちゃんと目的があるんだから、断ってもいーんじゃない? 別に強制じゃないし?」

「まぁそりゃ……ってか、細かいことまでよく覚えてんな」

「だって、ずっと見てたし」


 それを聞いて、麗は諦めるように肩を竦める。


「まぁいーとして。それより外国だよ外国」

「委員長の話?」

「当たり前。留学? 引っ越し? 何にせよ、来年には日本にいないんでしょ?」

「そう言ってたね」

「美波はそれでいいわけ? 一年以内に別れんの確定じゃん」

「それいーんちょにも言われたー」


 ごちそうさまと手を合わせ、美波は弁当箱を片づけ始める。


「でもさ、最初からつき合わなかったら結局〝0〟じゃん? だったら、つき合った方がよくない?」

「……」


 笑顔で答える美波に、麗は無言でストローを吸う。カラの紙パックがベコッとへこんだ。


「なんつーか……あんたらお似合いな気がしてきたわ」

「えーそう?」

「変人同士って意味で」

「ヒドー!」


 美波はポカポカと麗に抗議の意味を込めてじゃれる。


 それを面倒そうにはたき落としながら、麗はふとこちらに近づく人影に気づいた。


「美波さん」

「あっ! いーんちょ」


 その声だけで、美波は相手が冴子と気づいて笑顔で振り返った。


「先生に次の授業の準備頼まれて。少し手伝ってくれない?」

「いーよ」


 美波は頷いて席から立ち上がる。


 冴子はふと麗の方に視線を向け、


「悪いけど、彼女借りるわね」


 麗はどーぞどーぞとジェスチャーでふたりを送り出す。


 美波は麗に手を振り、冴子の隣をトコトコついていった。


 廊下で出て、しばらく歩いて。


「美波さんの考え方、私も好きよ」

「え? 好き?」

「やり始めなきゃ何でもゼロのままって話」


 美波の反応をスルーして、冴子は淡々と話を続ける。


「ちょっとだけ美波さんに興味が湧いたわ」

「えっ? じゃあ、今までは?」

「ただのクラスメイトのギャル」

「ひえー」


 美波は心底驚いた風に目を丸くする。


「そんなんで、どうして告白OKしてくれたの?」

「お試しって、そんなものじゃないの? 知らないけど」


 冴子はクールな態度のまま首を傾げる。


「う~~、まぁでも興味持ってくれたなら一歩前進だね!」

「そうね」

「じゃあさ、前進ついでに――」


 美波は立ち止まって、冴子の手を握る。


 そして。


「――今度の日曜日、デートしようよ」


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