深夜のコンビニでツインテール銀髪碧眼美少女エルフと金髪美少年エルフを雇ったら売上が急上昇。でもこいつらって、むさい爺さんとゼロカロリーライターだぜ
@tumarun
第1話 ラファラファラファ、ラファー
どうして、こうなった?
あの日は深夜勤だった。
喜劇の始まりは、
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
今は、深夜26時30分 当てもなく人を待つ。
なんでえ、今日は作家の兄ちゃん来ねえのか。
折角、こんにゃく、仕込んだのによお。
ラファラファラファ、ラファー
自動ドアが開いて、寒風が入り込む。
こちらの熱い視線を一瞥もせず、島什器の列を抜けてソフトドリンクコーナーに向かう客がいる。
(兄ちゃん、いらっしゃい)
いつもの深夜帯、いつものゼロカロリーのビタミンドリンクを所望かと思えばリーチインのガラス戸を開けて、何やら青いラベルの飲料を手に取っている。
そのまま、一品惣菜やケーキ、サンドイッチ、おにぎりが並んでいる壁側の什器の棚も見るとはなしに、レジまで来てしまった。
そしてキャッシャーに商品が置かれる。
「いらっしゃいませ。お会計でよろしいですか?」
もう少し、買ってもらえれば、販売のノルマを達成するのになぁ、
「あー、あと、おでんを貰えますか。こんにゃくを二つ」
にいちゃんの為に仕込んだんだ。うん、うん、売り上げの、ご協力感謝だね。
「いつも来てもらってありがとな。今夜はあれですかい?、出汁の染みた蒟蒻で晩酌ですかい」
「それも良いですね。温ったまりそうだ。でも、みた通り下戸だし、これからが仕事なので」
にいちゃんは寂しそうに笑う。仕方ない、ここで時間を潰して仕事の邪魔をするのも忍びない。
「いつもはビタミンドリンクでしたよね。今日はこれですかい? その青いのは…」
商品にあるバーコードへスキャナーをあてながら聞いてみた。
「ああ、これ? 乳酸菌サイダーですよ。あっ! ダメじゃないですか! 店員さんが客に商品の名を訊いちゃ」
全部の商品の名前なんて覚えてなんていられないよ。にいちゃん。あんたは、ここに幾つの商品を扱っているかをしってるか?
「へへ、面目ないです。乳酸菌サイダーですね。確かに、これもゼロカロリー。一本取られました。そう言えば、お客さん。見たところ、一回り細くなったんじゃないですかね」
しまった。客のプライバシーに関わること言っちゃいけないんだ。
「わかりますか? 痩せたってことですよね。よかったぁ。今、間食を抜いてダイエット中なんですよ」
にいちゃんは何気にスゥェットの上から腹を摩っている。よかったな。気にするようなことじゃなくてよかったよ。
「ところで、お聞きしたいんですがいいですか? ……夜中のおでんは太らないのですよね?」
いきなり言いにくそうに話し出す。誰かに言われたのかな。太ってるって、
「具材によりけりでしょ。こんにゃくは大丈夫だと聞き及んでますが」
当たり障りのない答えをしていく。蒟蒻自体にはカロリーは殆どない。
だがな、出汁の塩分が問題なんだ。高血圧とか、高血圧とか、高血圧とか。
でも食いたい時は食いたいものを食べればいいんだよ。まあ、自己責任さね。
「飽食の時代に好きな物を食べないなんて、さながら修行僧だねえ」
おっと彼が気色ばむ
「ダイエット中なら当たり前だと思うけどなあ」
言葉に力が入り出した。気分を害したかな。すると、
ラファラファラファ、ラファー
自動ドアが開いて、新たな客が入ってきた。助かったあ。
「長居は無用。邪魔者は消えますね」
と彼も仕事途中だと気づいたんだ。ドリンクとレシートを受け取り、そそくさと出口に向かった。
「またのお越しを」
明日もおでんを用意しておきますぜ。ねぇ旦那。
そして兄ちゃんは去って行く。
コンビニエンスストアは回転率が命。千客万来でさあ。
それでも深夜帯に来る客にしては、融通が効かない。しぶチンだね。
だが、今夜の客と秘密の内緒話。為になるなぁ。ダイエット中だっていう兄ちゃん。案外、グルメ本とかを執筆中だったりして。有名なルポライターなのかも
現在、深夜27時00分の丑三つ時。まだ、朝凪の時間が来るには、まだ間がある。
長い勤務の余韻を楽しもうじゃないか。
ラファラファラファ、ラファー
チャイムが鳴って自動ドアが開いて、寒風が入り込む。
客が入ってきた。長い銀髪をツインテールにした青い目の女の子が入り口で立っている。
(可愛い子だね。いらっしゃーい)
キョロキョロと店内を見渡すと儂のところで視線が止まる。
すると目を怒らせて、ズカズカと近づいてくる。スウエットのパーカー越しにでも胸が揺れているのがわかるほどの巨乳。
思わず頬ズリしたくなるの。
それがピンクの唇を開くと、
「やい! 店長。さっきのサイダーに何を盛りやがった」
「はっ?」
「だから、さっきの乳細菌サイダー」
「えっ」
儂は驚いた。あの売れ残りのサイダーは、いつも来る作家擬きが買っていったもの。他には誰にも売っていない。
「帰りに飲んだら、ゾワゾワってして、家に帰って鏡を見たらこうなったぞ」
高校生くらいの女の子かな、高い金切り声を上げて、がなり立ててきた。
くりくりっとした大きな目、真っ白い肌に鼻筋は通ってすっきりしている。そして柔らかそう唇。
そんな可愛い子が頭から湯気を出しそうな勢いで怒りを露わにしてる。
誰か、状況教えてくれないか。
「そのサイダーが原因とは限らないですよ」
興奮が冷めやらぬ彼女には落ち着いて話をするしかない。
「わからないから、戻って来たんじゃにないか」
「お客さん! 落ち着いてください」
女の子は更に騒ぎ始めてしまう。
困って、誰かいないかとキョロキョロしているとキャシー台に無料交換として置いているボトルのキャップが目に入る。
特定の商品を買うと、そのレシートで新しいドリンクと交換してくれるというもの。アミノ酸補給ドリンクが、今回の景品となっている。
その中の一本をとってキャップを緩めて、
「お嬢さん。まあ、これでも飲んで落ち着こうじゃないか。先ずはそれからだよ」
ボトルの飲み口を両目の間にぶつけようかと近づける。彼女の目が寄ってボトルに注目する。
「えっ、なに、これを飲めって。くれるの」
儂は大きく首肯してボトルを突き出す仕草ををした。
彼女は、それを受け取りボトルからキャップを外し口に当て傾ける。透けて見えるPETボトルからトクトクとピンクの唇に白い液体が流れ落ちていく。
「ふー」
一息で飲み干すことはできなかったけど、現金なもので、あれだけプンスカ怒っていたのに、
「えへへ。美味しい」
ペットボトル一本で彼女の機嫌が元に戻った。
「はっ!」
かに見えたが、すぐに正気に戻ったようで、
「違う、違う。ドリンクに絆された訳じゃないぞ」
地団駄を踏んで再び、暴れ出した。
「あんたのとこの、乳酸菌サイダーを飲んでこうなったんだから、なんとかしろ」
と喚きたてる。元の木阿弥になってしまった。あまりの腱膜に両の手の指を広げて相手の意気を遮りながら、
「あれが原因とは限らないでしょう」
反論を試みるのだが、
「なんだとぅ」
焼け木杭に火がついてしまった。
「飲め」
「はぁ」
「飲めって言ってるんだよ」
「さっきの乳酸菌サイダーだよ」
「なんで?」
「原因がわからないなら飲んでみるまで。試すんだよ。あんたが飲んで、なんともなければ、違うんだろうよ。帰ってやる」
「私が?」
「ここには、あんたしかいないじゃないか」
確かに他に来店客はいない。
「早くしろっ、出ないと保健所にでも行って訴えるぞ」
彼女の目が座っていた。
本気だ。
儂は、レジカウンターを抜けて、ヨタヨタと老体に鞭打ってフロア奥のリーチインへ向かう。件の乳酸菌サイダーを取り出して、おっとり刀で戻った。
「よおし、早く飲め、飲むんだよ」
彼女が催促をしてくる。飲まざるを得ないだろう。仕方なく儂も飲むことにする。
キャップを緩め、口にボトルを近づける。
「早くしろ」
仕方ないと一気にボトルを傾けて、喉に流し込んだ。
「がはっ」
しまった。サイダーの炭酸が喉に引っかかてしまって咽せてしまった。多少、口から吹き返してしまったけど、飲むことは飲んだんだ。
「さあ、飲んだぜ。嬢ちゃん」
口元に残った吹き返しを手で拭う。
「何にも起きなかったら、帰っていただけますか」
「わかった」
緊張する沈黙の時間が進む。壁掛け時計の秒針が数回まわる。
「何にも、起きやせんぜ…」
体には何も起きていない。気分が悪くなることもなかった。
それを伝えようとすると彼女の様子がおかしい。
自分の両腕を抱えて、しゃがみ込んでしまっている。
「あああああ」
うめき声をあげて、震え出した。
「お客さん⁈、大丈夫か?」
状態が怪しい彼女へ近づこうとしたのだけど、
「なんだこりゃ」
最初に見た時は銀色の髪をしていたんだが、今は金髪に変わっている。体も一回り大きくなったように見えた。
「ああああああああ」
叫び声も太いものに変わっている。
「お客さん?」
と、彼女?へ声をかけた途端。
「?」
儂の体に電気が走る。背筋にビリビリと怖気か這い回る。
なにか、体がおかしい。吐き気さもする。ぐるぐると腹の中からかき回されている。腹を抱えてしゃがみ込む。
「あああああ」
たまらず出たうめき声は、甲高い女性の声。あの嬢ちゃんと同じだった。
全身が痙攣をする。体の中を何かが這いずり回る。ごっそりとなんかと入れ替わる感じがする。
「ゔゔゔ、ゔゔゔ」
体の中がおかしすぎてうめき声しか出てこない。
既に時間が過ぎる感覚も無くしていた。1時間、いや2時間。実のところは10分ほど。
いきなり体の中の違和感がなくなる。顔を上げて周りを見ようと瞼を開いてみる。
「あれっ?」
周りが綺麗に見える。白色のものが濁って黄色に見えていた。
それがないんだ。
声だっておかしい。濁った濁声じゃない。喋る時に感じてた喉に痰が絡む感じがしないんだ。
匂いだってそうだ。水を吸って置きっぱなしの雑巾の匂いじゃない。甘い香りが感じられるんだ。
「一体どうしちまったんだ」
聞き間違いか、しわがれた濁声が、鈴を転がせるよな声の変わっている。
なんか聞いたことがあるかと思ったら、さっきまで儂の前どでがなりたてていた彼女の声だ。
徐に立ち上がると、膝も痛くないし腰もいうことを聞いてくれる。
だが、今ままで見た物が高い位置にあるように見える。
違う、儂の目の位置が高さが低くなって折るんだ。
バックヤードにへの境のある、アクリル板には、銀色の長い髪を後ろに流した青い目のとびっきりの美少女が映っている。
一度は両目を閉じて真っ暗にしちまったが、片目をウインクすると、映った子もウインクする。
儂だ!
儂が美少女になっている。
よく見ると銀色の髪の毛から尖ったものが出ていた。この縁の丸まり具合は耳の縁みたいだ。じゃあ耳なのか。耳が尖っておるのか。
すると、意識外から
「アミノ?」
男が声をかけた。声変わりしたばかりの低く掠れた声で。
そして、儂の視界が廻る。その視界に金色の髪をした青い目の少年、大人の階段を登り始め目の、美少年が映り込む。
もちろん、髪の毛から尖った耳が見え隠れしている。
「ラクト?」
儂の口から、鈴の鳴るような声がした。儂は喋っていない。ラクトと問われた少年の顔が破顔した。
「やったよ。アミノ! 成功だ。僕たちは、この世界に来たんだ」
「やったね。ラクト! 私の言う通りになったでしょ。怖くないって」
儂の口から喜色が混じる言葉が紡ぎ出される。ふたりは手を取り合い、その場で踊ろようにとんだ。何度も跳ねた。
一通り、跳ねダンスを終えると、
少年が口を開く、
「聴こえていますか? 僕たちの声をきいいている方達」
「話せますか? 私たちの声で喋る方達」
少女が語りかける。
「経緯を話させてください」
「わからないことは口に出してください」
2人は虚空に話しかける。誰もいない観客席へセリフを語り出すように。
彼と彼女が言うには、自分たちは観光客なんだと。
最近多く来た、こちらからの異世界への転生者からの情報であちらの世界=異世界でコンビニが話題になっていること。
自分たちは、そのコンビニに興味があって体験ツアーに参加したこと。
こちらには転写と言う魔法を使ったこと。
転写は、儂たちがいることという存在自体を魔法で上書きをしていくということ。
上書きされても、元の存在には影響がない。存在をプリントしたTシャツを着るようなものだと抜かしよった。
転写のキーに分子式、構造式のベンゼン環が、あちらの世界の魔法組成にそっくりということでACID 酸の組成を使ったということだった。
難しくて分からん。
なんとなく乳酸菌、アミノ酸とさんの漢字が使われてきるなあって思っただけだ。
パスポートも政府発行のもがあると。自分たちの生命と存在を保護することを要請すると訴えてきた。
政府はとうとう、この地球に飽き足らず、重なる世界=異世界までインバウンドの需要を見込んで、極秘裏に観光を推進したらしい。
なんてこったい。
こんな事、納得できん。すぐ帰れというと、私らじゃ分からん言葉を呪文のように唱えて拳大の黄色に輝く石を出現させる。
魔法で出したという。
「これは、この世界で金というものだそうです。私たちの世界では道端で幾らでも転がってきますが」
納得できないが理解させられた。協力するのは、やぶさかではないと。
そうして彼と彼女はこのコンビニで働かせることとなった。
もちろん当事者の、もうひとりの作家もどきにも協力をなあ頼んだ。
あの大きな塊で頬をぐりぐりとされれば…誰だって首を振る。
働く時間は、深夜勤が多かったったり、夜型になってしまっていたりとして、朝の早番の入れ替え時間に入ってもらう。
不思議と体の超過勤務だけど疲れないんだね、これが。
なんか体の中の異物の新生物がなくなったし、摩耗したところも新品のように戻された。背筋が伸び、髪も黒くなりふさふさになっている。
若い頃の肉体を取り戻したよ。
そうして、ふたり、それとも4人?が働き出す。
不思議と早朝勤の時の来客数が増えた。通勤通学の若い学生や社会人が何かにつけて倚るんだね。
美少年、美少女がレジカウンターへ立っていると話題に登ったということだ。
ラファラファラファ、ラファー
「いらっしゃいませえっ。ようこそ(o^^o)」
深夜のコンビニでツインテール銀髪碧眼美少女エルフと金髪美少年エルフを雇ったら売上が急上昇。でもこいつらって、むさい爺さんとゼロカロリーライターだぜ @tumarun
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