「……ええっと。ごめん。やっぱりいいや。なんだか私らしくない」

 花村咲はその目の涙をそっと指で拭ってから、自分の目の前にいる宮森実にそう言った。

「やっぱりいいやって、その大切な話はもういいってこと?」実は言う。

「そう。その通り」

 実の鼻先を指差して、にっこりと笑って『いつもの花村咲』は明るい元気な声でそう言った。

「なんかさ。今日はいろいろとごめんね。ちょっと疲れてたのかな? 宮森に迷惑かけちゃったね」咲は言う。

「迷惑なんてかけてないよ。……まあ、確かにちょっと今日の花村は変だったけどさ」と実は言った。

「でも、大丈夫。変な私はもういないから」

 笑顔で咲は実に言う。

「そうなのか?」

「そう。こういうのはもう、今日で終わり」

 そう言って咲は席から立ち上がって、自分のカバンを持って帰り支度をする。

「そっか。……ちょっと残念だな」実は言う。

「残念ってなにが?」

「ああいう健気で弱気な花村も、新鮮でよかったんだけどな」同じようにカバンを持って席を立って実は言う。

 すると咲は少しだけ黙ってから、「……ばか。そういうこと、冗談でも本気で恋をしている女の子に言うもんじゃないよ」と少しだけ変な顔をして実に言った。

 それから二人は一緒に教室を出て、家路についた。

 その帰り道、二人は一緒に校庭に咲く桜並木の桜を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る