しゃべるな!

 ※※※※

 次の日、私は念の為コーちゃんを押し入れにしまい込み、振動機能程度じゃカバンに入れないようにしてからランチに出かけた。


 早めに着いたので先にチェーンのファミレスに入り、パスタとドリンクバーを注文していると、紗奈さんはすぐにやってきた。


「やっほい。ごめんね遅れて」

「ううん。私が早く来すぎたから」

 紗奈さんもすぐに注文をしてドリンクを持ってくる。

 コーラを勢いよくズズズッと吸うやいなや、真面目な顔になってなぜか急に私を睨みつけた。

「あの!あたし、あの後冷静に考えてみたんだけど!」

「え?」

 急に怖い顔をされて私はたじろぐ。ほのぼの女子会のつもりだったのに。

「な、何?」

「一昨日のあれ、何だったの?」

「一昨日?あ、あの椎名将真さんにトラック乗せてもらったあれ?」

「そう!なんかぬいぐるみ渡して、仲良さそうにして!」

 紗奈さんは強い口調で問い詰めてくる。

 うう、久々の同世代女子とのランチおしゃべり会だと思ったのに……。やっぱりあれ気になって問い詰める為に呼び出したのかぁ。

 私はちょっとシュンとしながら説明した。

「いや、その。仲良さそうとかじゃなくてですね。……えっと、ちょっと生前の椎名将真さんと知り合いでして、それで弔問に行って……えっと、ぬいぐるみは遺品?みたいな?」

 説明もうまくできない。幽霊になったとか取り憑くだとか言って、馬鹿にしてるのかと怒られるのも怖いし。

 紗奈さんはふうん、と頷く。

「実は春希さんの彼女とかじゃ?」

「違います!」

 私は慌てて否定する。

「最近知り合ったばかりだし。ていうか椎名兄弟は私に多分興味ないよ。私の身体にしか」

「身体目当て……!?」

「あ、そういう意味じゃない!」

 さらに慌てて私は訂正する。

「その、労働力として!みたいな!」

「はあ」

 納得したんだかしてないんだかよくわからない曖昧な顔をして紗奈さんは頷いた。

 そして、ふう、とため息をついた。

「ごめん。つい、問い詰めるみたいな口調になっちゃった」

 本当だよ。でも、少し落ち着いてくれたようで、紗奈さんはストローをくるくる回しながら言った。

「いや、あたしてっきり、春希さんと親しそうだったから、月菜ちゃん春希さんの彼女かと思っちゃってさ。別にあたしは春希さんのリアコじゃないから彼女がいてもどうでもいいんだけど、でも、月菜さん、ねぷた祭り行かないレベルの子じゃん?そんな子が春希さんの彼女だなんて、暗殺したくなっちゃうからさぁ」

「あんさつ」

「だから、もし月菜さんが彼女なら、あたしが徹底的に教え込もうっかなーっていうちょっとしたおせっかいを考えててね」

「ちょっとした」

 私は紗奈さんの恐ろしい発言をオウム返しするしかできなかった。

「まあ、違うからね。私はそういうのじゃないから。……そういえば紗奈さんはなんかねぷたの配信?とかしてるんだって?凄いね、なんか有名なんでしょ」

 私は紗奈さんのご機嫌を取るように言ってみた。すると、紗奈さんは見たことがないくらい真っ赤になった。

「え……やだ!何で知ってるの?恥ずかしい!」

「え?有名なんじゃ……」

「やだぁ。オタクだと思われるから隠してたのにー」

「え?隠してたの?」

 ダダ漏れ……っていうか大洪水だったけど。

 真っ赤になってる紗奈さんをよそに、私は紗奈さんの名前をスマホで検索してみる。まあ、本名でやってるわけじゃ無いだろうからヒットしないかも……ってヒットしたわ。

 紗奈のねぷたChannel。

 本名でやってんだ。っていうか顔出しもしてんじゃん。

「やだ!見ないでよー。隠してるんだから!」

 顔出しして本名でやってるのに隠してるつもりとか、ネット社会ナメてんのかな?

「ていうか、多分色んな人にバレてるんじゃない?将真さんも春希さんも知ってたよ。ねぷた関係者の中で有名みたいだよ」

「ええ!!」

 紗奈さんは更にリンゴみたいに真っ赤になった。

「うそ、そんな。登録者数はそんなに多くないからバレてないと思ってた」

 皆、見るだけじゃなく登録もしてあげて。

「でも、別に変なチャンネルじゃないしいいじゃん」

「そういう事じゃないんだよぉ」

 紗奈さんは顔を両手で覆って嘆いていた。


『全然素敵だと思うよ。俺は紗奈さんの配信見て感動したもん』

「え」

 突然私のカバンから声がした。……まさか……。いや、でもコーちゃんは押し入れにしまったはずなのに。

 私は恐る恐るカバンを開けた。すると。

「ひぃぃぃっ!!」

 私は思わず悲鳴を上げた。

「月菜さん?ど、どうしたの!?」

「あ、いや、その……」

 紗奈さんがビビったようにたずねてきたけど、私はあまりの衝撃で声が出なかった。

「何?なんかさっき声が聞こえた気がしたんだけど……」

「ち、違……」

『はじめましてぇ、紗奈さん!』

「やめて!しゃべるな!!」

 私はカバンに向かって怒鳴る。

「ねえ、月菜さん大丈夫?真っ青だけど」

 紗奈さんが心配そうにこちらを見つめる。

 そりゃ真っ青にもなりますよ!カバンの中では、コーちゃんじゃなくて、……口と舌のある大人の玩具に取り憑いたシイナが、器用に口を動かしてしゃべっていたのだから!!

 絵面が相当気持ち悪い!!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る