第6話 学習するゴーレムの衛兵

 行くと決めるとすぐに席を立つフラタニティ。


「もう行くのか?」

「あぁ。いつでも出発できる。準備などなくても魔法で解決できるからな。業務に関しても引き継ぐようなことは何もない。他の子には好きに研究させておけばいい。」

「それもそうだな。で、行き先は?」

「まずは、農業の町イタリだ。」

「なんだ。すぐ隣じゃないか。日帰りか?」

「いや。歩いて行く。」

「正気か?飛べば数時間だが、徒歩だと数日はかかるぞ。」

「旅とはそういうものだ。嫌なら来なくて良いぞ。」

「しかしだなぁ。」


 何か言いたげなヘルパーだが、何も言い返してこないところを見ると付いてくることを決めたらしい。フラタニティも最初は飛行魔法で行くことを考えていたが、魔法に頼らず魚を捕まえていた昨日の少年を思い出して、魔法に頼らず歩くことにしたのだ。その行為に意味があるとは思わない、ただの気まぐれだ。


 ヘルパーと共に旅に出るため数年戻らないことを告げられた研究員のほとんどは、突然の出来事に口と目を丸くして無言で見送ってくれたが、頭の回転が速い何人かは一緒に来ようとしたり、引き留めに来たりしたが、最終的には渋々従ってくれた。





 フラタニティとヘルパーは、町の外へ出るために研究所を出て真っ直ぐ関所へとやってきた。2人の持ち物は少なく、町ですれ違った誰もがこれから旅にでるとは気付かないほどだった。


「見ろ。ヘルパー。あの衛兵は私達が発明した魔法によって生み出されたゴーレムだぞ。」

「あぁ。見れば分かる。今更驚くべきことでもない。この町の労働のほとんどはゴーレムに換わっている。この町だけじゃない。報告では今やほとんどの町人は仕事をせずに自分の趣味に時間を割いている。今やゴーレムがいないと生活がままならないほどだ。だが、術者の腕も落ちたのだな。」


 ヘルパーがいいたいことはよく分かる。ゴーレムの衛兵が2体だ。分かりやすく道の両側にいる。だが、ゴーレムの出来が悪い。


土屑で出来上がったゴーレムは門の左右に鎮座している。立っているのではない。文字通り鎮座しているのだ。立派な槍を持ったゴーレムは槍をクロスさせ許可の無い人の往来を拒んでいる。その槍を振るえば魔物を通すことは無いだろうが、追い払うことは出来ても討伐することは出来ない。なぜなら、そのゴーレムには魔物を追いかけるための足が無いのだから。


 二足歩行のゴーレムを生み出すのはそれなりに人の造形に詳しくなければいけない。


「まぁ。そう言うな。見た目など些細なものだ。重要なのは、その役割をきちんと果たしているかだ。魔物が町に入ることを防げれば良い。」

「だが、昔の衛兵の方が強いぞ。」

「今は、それ程強さを求められないのかもね。平和になったから。」

「平和になったか。素晴らしいことだな。俺なら1分で突破出来るぞ。これは油断だ。」

「油断があるか。」

「そうだ。改善すべき事案だ。」


 油断がある。それは、フラタニティがまだ幼いヘルパーにいつも言い聞かせていた言葉だ。魔族や魔獣はいつ襲ってくるか分からない。まだ、そんな時代に生まれたヘルパーにいつも言い聞かせていた言葉だ。


「ヘルパーがそう思うなら、今度、教会にそう提案することだね。私は問題ないと思うけど。」

「分かった。帰ったら早急に提案するとしよう。」


 ゴーレムの衛兵に魔法開発局のペンダントを掲げて関を通ろうとするフラタニティは、衛兵に止められる。今の時代、成人さえしていれば町の出入りは自由にできるはずだ。


顔をかしげながら何やら思案しているゴーレム。土屑で出来たゴーレムは喋ることが出来ないため、意思疎通が出来ない。


困ったな。魔法開発局のペンダントを見せれば成人している証明になったと思ったのだが。


「そのペンダントは俺ので、これは孫じゃ。」


ヘルパーがそう話すとゴーレムは納得したのか、槍を引きすんなりと通ることができた。


「ヘルパー、お前の言っていたことが正しかったようだ。術者はまだまだだな。魔法構築をきちんと行えていない。学習して知能を取得するゴーレムのはずだが、正しい知識を蓄積できているとは思えない。」

「フラタニティ。あのゴーレムは、立派だ。子供がペンダントを掲げても通さなかった。しっかりと役割を果たしている。」

「私は、230歳だが?」

「そうだな。だが、俺が付いてきて良かっただろ。」

「うるさい。」





 門を出て数時間は歩いた。そろそろ昼食の時間だが、フラタニティは歩く反動を利用して耳たぶをブラブラと揺らしながらヘルパーの前を歩いている。不機嫌な証だ。


 先ほどのゴーレムの一件で気に触ったのだろう。フラタニティは本当に230歳なのか疑わしくなるほど子供っぽい内容で怒ることがある。そのあまりにも子供っぽい内容に、長年一緒にいるヘルパーでも怒りの原因を察することは困難である。


「悪かった。フラタニティ。230歳なのだろう。そろそろ機嫌を直したらどうだ?」


 ヘルパーの問いにしばらく考えてから、振り返って答える。


「おい。納得がいかないぞ。あのゴーレムに対してもいいたいことがあるが、ヘルパー貴様にもだ。なぜ、私がお前の孫なのだ?」


 その一言でやっと、ヘルパーはフラタニティが何に怒っているのか理解する。


「その方が、スムーズに通れた。時間短縮だよ。」

「はぁ。そう決めつけるのは早計だ。もしかしたら、見た目にとらわれずに通行を許可してくれたかも知れない。お前が保護者だというのは、トラブルになった後にこじつければ良かった。」

「合理的ではないな。」

「研究者だろう?成功だけでは新たな発見にたどり着けない。」

「必要な失敗だと思えんだけだ。そもそも、俺が衛兵だとしてもお前1人だと通さん。それほど、お前の見た目は子供なのだ。」

「だが、まだ結論は出ていなかった。」


まるで、子供の喧嘩だな。このお子様は自分がゴーレムに子供と判断されるか、大人と判断されるかがそれ程までに気になっていたらしい。


「次の町で試してみると良い。俺は離れたところにいよう。」


 そうヘルパーが提案することでやっとフラタニティの耳たぶは揺れることをやめた。







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