第11話オスタリア王国編⑥

 オスタリア王国は国王亡きあと、女王が政治を取り仕切っている。贅沢を好まず、常に国民に寄り添った政策を打ち出す女王は、庶民から親しまれ愛されている。

 臣下たちも皆忠実で、国政に真摯に向き合う女王をサポートしている。その結束力は固く、一国が家族そのもののようだ。

 軍事力を持たないオスタリアが、資源と技術力を武器に外交で大国と渡り合ってこられた理由が垣間見える。


 これまでの状況から一変し、大国からの圧力により窮地に立たされていたオスタリアは、1人のデーモン族の男をきっかけに転機を迎えることとなる。

 オスタリア女王がハイランド王国からの結婚申し込みを断ったのは、俺が孤児院のベッドに帰還してから10日後のことだった。


『予定通りだな。カリオスがうまくやってくれたおかげだ』

「いえ。私はリュウ様に命じられるまま動いたにすぎません」

 誰もが寝静まった孤児院で、カリオスは静かに頭を下げた。


 この男は本当に真面目で謙虚な性格だ。

 ビスタに見習わせたい……。


 あの夜、カリオスはオスタリア女王、ヘルミナ・アデライトに接触し伝言を伝えた。

 俺も水晶玉を通して一部始終を覗いていたが、違法採掘を行っているアイゼル軍をせん滅したことを伝えると、ヘルミナはたいそう驚き困惑した表情を見せた。

 

 魔族がなぜオスタリアに加勢したのか?

 その目的は大国同様、魔鉱石に違いない。


 そんな疑念を抱かれても仕方のない話だ。


「なぜ?」と問いかけるヘルミナに対し、カリオスはいつもの冷静な口調で話を続けた。


 魔族が衰退の一途をたどり、現状のままだと10年以内に絶滅してしまうこと。魔族の中にも人間に危害を加えず、大人しく友好的な者がいること。クエスト報酬目当ての冒険者たちに狩られ、日々命の危機に瀕している魔族と現状のオスタリアが重なって見えたこと。


 オスタリアに加勢したいきさつを話し終えると、ヘルミナは涙ぐんでいた。


 もちろん全てウソだ。下位のゴブリン族やトロール族ならあり得るが、上位の魔族が全滅するわけがない。魔族は人間を家畜や食料、繫殖用にしか見ていない。オスタリアの未来になどこれっぽっちも興味は無いのだ。

 

 しかし、俺はオスタリアを救うことに決めた。


 そして、魔族への同情を見せたヘルミナにカリオスがつけこんだ。


 無事に交渉は成立し、人間に友好的な心ある魔族たちは、アイゼル軍から奪還した鉱山を居住区として借り受けることになった。


「なぁにが友好的で心ある魔族よ。マジでウケるんだけどぉ」

 ベッドの前にビスタが現れ、ケラケラ笑う。

『お疲れさん。向こうはどんな感じ?』

「楽してエサにありつけるから、ゴブリンどもは上機嫌よ」


 その後、アイゼル軍は三度派兵を行ったが、ビスタとカトレアに無力化され、ゴブリンとトロールの餌食となった。


『繁殖はうまくいってる?』

「アイツら年中無休で発情期だから。あ~キモッ」


 アイゼル軍についていた娼婦たちを繁殖用の母体にしたが、うまくいっているようだ。

 ゴブリン、トロールの子は妊娠から4日で生まれる。サイズは人間の子供の3分の1程度だ。生まれてからの成長が早く、半月ほどで成体となる。


 アイゼル軍は彼らの餌となり、装備品も拝借できる。まさに一石二鳥である。


 カリオスはヘルミナと密約をかわした。

 有志の魔族たちがオスタリアを守ること。国民には決して危害を与えないこと。

 オスタリアは国境の鉱山を魔族に貸与し、このことを他国に口外しないこと。


 俺は国と軍隊を手に入れた。

 誰にも知られず、時間を費やし静かにじっくり刃を研いでいく――。


 

 

 

 

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