第9話オスタリア王国編④

 水晶玉に鉱山内部の映像が映し出された。


『おぉっ。便利だな、これ』

「ビスタの視界が投影されております。水晶をなでていただくと、カトレアの視界に切り替わります」

 カリオスが解説する。


 ゴブリンの群れが作業中の鉱夫たちに襲い掛かる。突如現れたモンスターにパニックを起こし、叫び声を上げながら鉱夫たちが逃げ惑う。ゴブリンは鉱夫をこん棒で殴り倒し、体にかじりついて肉をはぎ取った。倒した鉱夫にゴブリンがむらがり、容赦なく捕食していく。坑道に悲鳴が響き、血しぶきが飛び散る。

 

「おら、かかってこい! ゴブリンごとき俺が一掃してやるぜっ。元冒険者をなめんなよ!」

 1人の屈強な男が仲間をかばい、つるはしでゴブリンを薙ぎ払った。

 細く小柄なゴブリンたちが尻込みし、後ずさりする。


「はぁ~。めんど」

 ビスタがため息をつきながら男に近づいていく。

「なんだぁ、姉ちゃん。もしかして魔族か? さてはお前が首謀者だな。女だからって容赦――」

 話し終える前に男の頭部が吹き飛んだ。

 ゴブリンたちが倒れた男に群がり、肉にかじりつく。


『……全く見えなかったんだが』

「ビスタが男の顔面を殴りました」

『えっ? ただのグーパンってこと?』

「さようでございます」


 あいつ、俺が寝たらグーパンって言ってたよな……

 マジで危ねぇ。


「おい、カリオス。見てんだろっ。手ごたえ無さ過ぎてつまんねぇし。こっちはもういいだろ?」

「ダメだ。お前の任務は鉱山内部の人間を1人残らずゴブリンに食わせることだ。完了次第、カトレアとの合流を許可する」

 カリオスが厳しい口調で答えた。

「あいあい。マジめんどいわぁ」

 ビスタはふてくされた様子で答えると、疾風のようなスピードで前進し、抵抗している鉱夫たちを一撃で倒していった。


 うっ……ビスタの移動速度が速すぎて見てたら酔ってきた。

 カトレアの方に切り替えよ。


 水晶にアイゼル軍の野営地が映し出される。

 カトレアは上空で待機しているらしく、野営地全体が見渡せた。

 兵士たちが焚火を囲んで酒を飲み、大騒ぎしている。派手な女たちの姿も見える。

 カトレアが野営地に下り、ゆっくり歩いていく。


「おいおいっ。すげぇいい女だなぁ。どこの娼婦だぁ? 今晩、俺のテントに来いよ」

 一人の兵士がカトレアの腰に手を回し密着する。

「あら、素敵なお兄さん。それじゃ、私がいっぱい楽しませてあげる」

「うはははっ。おいおい、こんな場所でおっぱじめるのか? 姉さん、かなりスキモノだなぁ」

 突然、兵士がうっとりした表情で地面に倒れこんだ。

「ねぇ、そこのお兄さんたち。私と遊んでちょうだい。カワイイ女の子も大歓迎よぉ。みんなで楽しみましょう」

 野営地にカトレアの艶やかな声が響く。

 テントの中にいた兵士たちも外に出てきてカトレアを見つめた。

 男女問わず、外にいる者たちが顔を上気させてその場に倒れ、ピクピクと体を痙攣させた。

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