第3話死刑囚、転生する③

 長髪の男がゆっくり顔を上げて俺と視線を合わせる。

 細身の体に端整な顔立ち、一見女性にも見える美しい男だ。


 こいつ……顔色悪いな。


『いえ、これはデーモン族特有のものでして、決して体調がすぐれないわけではございません』

 再び俺の頭の中で男の声が聞こえた。


『うわっ。お前、俺の心が読めるのか?』

『いえ、思念による会話です。限られた上位の存在にのみ可能なスキルです。急を要するため無礼を承知でリンクさせていただきました。どうぞお許しください』

 男は、ひざまずいたまま頭を下げた。

『すまん。まったく話についていけないんだが。人違いじゃないか? 俺、多分普通の人間だぞ。しかも赤ん坊だし』

『たしかに種族は人間ですが、内から溢れ出る魔力のオーラは魔王の覇気を帯びております。すでに聖教騎士団も動き始めました。失礼』

 男は立ち上がると宙に浮く俺をそっと抱き上げた。

『えっ。俺、聖教騎士団って奴らに狙われてんの?』

『ご心配無用です。上級悪魔である私、カリオスがお守りいたします』

『待て待てっ。初対面のお前がなんでそこまでする?』


 俺はカリオスを疑った。実に礼儀正しく忠誠心にあふれたこの男が嘘をついているようには見えない。

 しかし、俺を助けるメリットはなんだ?

 そもそも本当に俺は命を狙われているのか?


『実に、500年ぶりなのです』

『えっ?』

『新たな魔王生誕を星の巡りが告げました。500年前、魔王様にお仕えした我が父は人間との戦争に敗れ、魔王様と共に命を落としました。以来、魔族は衰退の一途をたどっております。ここで、あなた様を失うわけにはいきません!』

 カリオスの真剣な表情に俺は圧倒された。静かな口調ではあるが言葉に気迫がこもっている。


 部下には二種類の人間がいる。金や権力目当てで従う者。リーダーを信頼し忠義に生きる者。

 組織のトップだった俺の部下は全員前者だった。部下のモチベーションを保つため報酬に金品を与え、報奨に地位や肩書を与えてきた。内部でもめないように苦労したものだ。

 カリオスは俺のかつての部下とは明らかにタイプが違う。おそらく、大した志も持たない俺とは馬が合わないだろう。

 でも、こういうタイプは嫌いじゃない。


『なあ、カリオス』

『はっ。いかがされましたか?』

『俺はお前の思ってるような大したヤツじゃない。それに、魔族の未来とか全く興味ないし』

『魔王様……』

 カリオスが弱弱しい声を発する。

『でも、俺は決めたぞ。この世界は俺が征服する。魔族だろうが人間だろうが、逆らうヤツは容赦しない!』

『おぉぉぉ! そのお言葉を待っておりました。このカリオス、魔王様の敵を討ち滅ぼす剣となりましょう!』

 カリオスが目を輝かせて声をはずませた。

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