side:陽斗

第5話



俺がちーちゃんと呼び始めたのは、単なる気まぐれだった

高校に入って隣の席になった美人な子

それが第一印象だった

黙っていると纏っている雰囲気は冷たい印象を与えるが、話してみるとそうでもない

ただ話しかけるまでが勇気がいるらしく、ハードルが高すぎると友人らに教えてもらった

そんな中俺はラッキーだった。授業でのペアワークで必然的に俺と一緒に取り組むことが多くて、話す機会も増えた

授業は捗るし何より新しい表情が見れた時は密かに今日はいい日だな、と思えるくらいには友達として好きになっていた


仲良くなってきてたくさん新しい表情も見れるようになって、不意に呼んでみたくなった

『ちーちゃん』

「は?それ俺のこと?」

『うん、可愛いっしょ?』

「全然なんだけど」

なんて言いながらそれからは事あるごとに、その呼び名で読んでみる

徐々に千影の中に定着していっていつしか文句を言われることはなくなった

俺だけが呼ぶ特別な呼び名

何かが俺の中に根づいた気がした

この頃から少しずつ自分のその根が身体中に広がっていくのを感じる日々

全身へと広がり言いようのない感情が溢れ出そうになった頃、これが恋なんだと自覚した

多分生まれて初めての恋


自覚した時には既に親友というポジションを得たと感じるくらい近くになった距離にいた

もちろん今まで付き合ってきた人のことも話していたし、俺が性にだらしないってとこも知ってる

噂で聞いてるかもしれないし、過去に俺自身も千影に話したりしていたから。

失敗した、と思った

気がつかなかったけれど、初恋の相手に自分のプレゼンの仕方を間違えていると。

そんなだらしない俺を千影が恋愛としてみてくれない

でも逆に言えばもしかしたら、何かの間違いで靡いてくれるかもしれない


一か八か本気だとバレないように、軽くかる~く誘ってみることにした

柄にもなくバクバクとしている心臓の音を悟られないように揶揄い口調で

『ちーちゃん、俺またフラれたー。慰めて?』

「またかよ。たく、そんなこと言ってどこかの誰かさんはモテるから次があるだろうよ』

『そんなことないけどさ。千影が付き合ってくれたら続くんだけどね?』

「...馬鹿言ってんなよ」

びっっくりした。今の間は生きた心地がしなかった

嫌われたら生きていけない

「大体な俺と付き合うとかどんな状況だよ。

今回のお相手には相当お熱だったのか?大丈夫?トチ狂った?」

相変わらず辛辣なこった

勇気を出した俺の砕け散っていく心の音が聞こえた気がした


それからというもの偶然を装って同じ大学に行けるように密かに準備してそれらしい言い訳をしたし、行った大学でも懲りずに千影にちょっかいをかけ続け淡い期待を抱いて毎回お誘いをする

そこでは恋人は作らず、授業以外は千影べったりしていた為大学内で俺の隣に千影が居ないとつっこまれるくらいまでには定着した

千影の隣は俺じゃないと嫌だ

高校の時よりもライバルは断然多い

そんなひょこりと現れたやつに千影を渡してたまるもんか

各方面に目を光らせ千影に惚れそうなやつは俺に惚れさせるように手をまわしたし、どうしても厄介なやつとは本当は嫌だったし相手にとって最低なことだけどそういうこともした


就職をするとなった時も色々な理由をつけてどうにか千影を丸め込むことに成功して、同棲ルームシェアすることができた

千影は基本在宅な為、家に帰ると大好きな人が出迎えてくれるというとんでもない幸せな生活

この頃になると牽制も何もしなくてもすむことから、恋人も作らず俺の右手が恋人になる日が続いた

居もしない架空の恋人と別れたから、慰めてというのは相変わらず言い続けていたそんなある日

まさか千影から抱いてほしい、と言われるとは思わなかった

言われた時はキャパオーバーで夢でもみてるのかと思ったけれど、真っ直ぐ目をみて伝えてくるもんだからじわじわといいようのない気持ちがこみ上げてきてその場で大喜びしたことは記憶にこびりついてはなれない

少し先のその日が待ち遠しくて絶対にその日には仕事が入らないように仕事をフルスピードで終わらせていった日々




そしてついにやってきた待ちに待った千影を抱ける日。当然のように一睡も出来なくて、薄っすらとできた隈

だけど目だけは冴えに冴えまくってまあテンションは最高におかしかった

長年夢見てきた千影の身体をドロドロに溶かして、自身のもので華開いていく身体

言いようのない高揚感が沸き立つ。

俺が知る限りでは男の経験がないはずなのだが何故かすんなり入る俺のモノ

自慢ではないが粗末といえるような大きさではなく、これまでの慣れている相手ですらしっかり解してもキツかったくらいだ

それを理解した瞬間に弾け飛ぶ俺の理性

好きな人と身体を繋げることがこんなにも嬉しくて、胸がいっぱいでまるで童貞のように盛る

それとは裏腹に俺が初めての相手じゃなかったのか、とかその相手は誰なんだ、とかドロドロとした醜い感情がどんどんと沸いてくる

俺があんなにも目を光らせていたのに…?


そもそも千影は何故あんなにも断り続けていた誘いにのろうと思ったんだ?だがこの際そんなモノはどうでもいいか。今この瞬間こいつを抱いてるのは俺なんだ。その事実は変わらない

過去は変えられないけどこの先の未来は変えられる

それならばカラダから堕としていくのもアリかもしれない。少なくとも俺に抱かれたということは、関係性が変わってもいいということで今は俺のことがスキじゃなくても、俺なしで生きれないようなそんなカラダにして回数をこなして徐々に覚えこませれば。長期的にみれば全然悪くない勝率だ。

ここまで長い間待ったんだ、ここからだって全然待てる

そしてあわよくばこいつが孕めば、、、ふとそんな夢物語のようなことが頭をよぎる

男性でも子どもが出来る体質もなくはない

そんなに都合よく目の前の相手がそうだなんて思わない

ただ、ただちょっと夢見るくらいはいいよな。と魔が差した

半分くらい意識がとんでるのを横目にそっと外したゴムを新しいのに付け直さずにそのまま挿入する

そこから先は奥の奥に俺の欲をぶつけ続けた

もう何回出したかも分からないが、体力も限界でうっすら空いた目は優しく俺を捕らえる

微笑んだ千影にそっとキスをおとすとそのまま夢へと旅立っていった

その顔が千影を見る同棲生活最後の日だったなんて思いもせずに。


その日のことはこの先一生忘れもしない

翌日目を覚ませばもう昼頃だった。隣にいた温もりが嘘だったんじゃないかと思うほど幸せな気持ちで部屋を出た瞬間感じる違和感

焦った気持ちを抑えることなくリビングへと向かう。…あいつがいない、落ち着け。

そのままの足で千影の部屋へと急いだ。いつもはするノックも忘れドアを開けると、その部屋は綺麗に片付けられていた

「な、んで、、?」

その場にへたり込む

幸せだった空間は一瞬にして絶望へと変わってしまう

正直立てなくなるくらい抱き潰した自覚はあった。中出しした挙句後処理もする余裕も無くなるくらいにはな。


連絡、あそうか携帯

「プルルルルル、お掛けになった電話番号は現在使われておりません」

クソッなんでだよ、なんでなんだよ

なぁ千影。なんで俺に出てくこと言わないんだよ?携帯変えるまでしてとか徹底的すぎんだろ

そんなに俺が嫌だったのか?それなら昨日のはなんだったんだよ、あの笑顔の意味はなんだ

それとも昨日のことで、こんな無様で格好悪い俺に幻滅して嫌いになった?

こんなにも近くにいて隣にいたのに、俺がお前を1番知ってるはずだったんだ

それなのに俺にはお前の気持ちが分からねーよ、頼むから教えてくれ






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