第21話 忘れていた現実

 週末の予定が楽しみで頭がいっぱいだった俺……。

 教室に入るなり、クラス内の空気が重たいことに気付き、尚弥に何があったのか確認しようと話し掛けた。


「尚弥、なんか空気重くね?」

「そりゃそうだろ……。まさかお前……忘れてるんじゃねぇよな!?」

「は?」

「うわぁ……まじかこいつ……さすがだわ」

「何だよその言い方」

「……明日から3日間、中間テストあるって知ってた?」


――はて……、中間テスト?そう言えば、祐希も夜な夜なテスト勉強して寝不足とか言ってたかな……。ん?……だいたいどこも同じ時期なのか!?


「中間テストの存在忘れてたっ!」


 尚弥に言われて初めて中間テストの存在に気付いた俺は、頭を抱えながら狼狽えていた。


「……そんな気がしてたぜ。俺も時間割を見て、今日気付いたからな。失恋してる場合じゃなかったわ……ははは」

「何も勉強してねぇ……ってか、赤点とかあったっけ?」

「確か、30点以下が赤点のはず……」

 

 クラスメイトが俺に教えてくれたのを機に、教室内はざわざわし始めた。


「テスト範囲ってどこからどこまでなんや」

「中間ってことは、5教科やんな……完徹すればいけるんじゃね」

「赤点取ったら補習あるんやろ……バイトに支障が出る」


――皆中間テストの存在を忘れていたのか……。そりゃそうよね……この学校、別に進学校でもないし、そこまで皆勉強できるようには見えないし……。赤点さえ回避すればいいか……。


 席に着くまでに教室内を見渡し、クラスメイトの反応を見ながら俺自身もどう乗り切るかを考えていた。


――無難に教科書を読み返して、基礎問題でもしてれば赤点くらいは回避できるっしょ。


 教科書をパラパラめくりながら考えていると、俺の目線よりも下にいかつい尚弥の顔があった。


「和希く~ん」

「キモッ……」

「ちょっとひどくないですかぁ。僕、名前呼んだだけなんですけどぉ」

「はいはい……んで、要件は何?」

「僕ちんと一緒に勉強しませんかぁ。一緒にすれば捗ると思うんですぅ」

「……いや、捗るどころか邪魔するじゃん、絶対」

「一緒に試験勉強しようよぉ。ねぇねぇ」

「わーったから……その顔やめろ。……うざい」


 こうして尚弥と一緒に勉強をする、という約束をし、俺たちは授業を受ける態勢を整えた。いつもなら、昼休み後の授業は睡眠学習だったクラスメイトのほとんどが授業に集中しているように見えた。そのことに驚いていたのは間違いなく教師だろう。


 授業を終えた俺と尚弥は、どこで勉強するか協議した結果、普段は使わない図書室で勉強することにした。


「この学校にも図書室って存在したんだな」


 尚弥の一言に笑いそうになりながら答えた。


「どの学校にもあるでしょ……。まぁ、俺も小学生のときに使った記憶しかないわ……。それも、漫画で読む歴史本しか読んでなかったと思う」

「あぁ!そんな本あったな!」


 空いてる席に座った俺たちは、中間試験の範囲とされるページを見返しながら黙々と問題を解いていた。各章の終わりに設けられている問題を解き、配布されたこれまでのプリントを見返したりしていると、いつの間にか下校時間になっていた。


「下校時間となりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください」


 アナウンスとともに流れてきた下校を知らせる音楽を聴いた俺たちは、荷物をまとめ学校を後にした。


「なぁ和希」

「ん?」

「俺に新しい恋、できると思う?」

「お前ならできるんじゃね?……ってか、失恋してる場合じゃない、とか言ってたのはどの口ですかぁ」

「はっはははは。確かに~」


――尚弥は基本的に明るい性格だし、誰とでも仲良くなれる。女の子たちと遊ぶ機会も多いみたいだし、きっとすぐに新しい恋とも巡り合えるっしょ。


 心の中でそう言いつつ、俺は無言で尚弥の肩をポンポンと軽く叩いた。


「なんだよぉ」

「お互い、テストで赤点取らないようにしような!」


 尚弥と別れた俺は、トボトボとマンションに向け歩いていた。


――授業内容もまともに聞いてない俺に、果たして赤点回避はできるのだろうか……。


 憂鬱な気分になりながらも、俺はうつみんとの約束を糧に夜遅くまで勉強に励んだ。

 迎えた中間試験——。


 基礎的なことを押さえていたこともあり、中間試験は予想以上に問題を解くことができた。試験最終日には、心なしかクラス内もいつものごとくガヤガヤと賑やかになっていた。


『今日、13時頃には行けそうなんだけど、大丈夫?』


 俺は朝、うつみんにメッセを送った。

 ものの数秒後——。


『はいよ!ピンポンよろ!』


――相変わらず返信が早い……。しかも短文……。これ文章というよりも単語やん。


 朝から俺の気持ちは高らかだった。

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