第19話 心強い味方
うつみんの買い物に付き合い、勇気を振り絞ってゲットした連絡先、呼び名の変更……、俺にとっては嬉しいこと続きだった。
いつの間にかマンションに到着し、気付けば別れの時……。
――もう着いてしまった……。
シュン、として歩いていると、隣でクスクス笑ううつみんの姿が目に入ってきた。
「え?なんで笑ってんの?」
「ふふふふふ……。だって、さっきまではあんなにテンション高く話してたのに、急に静かになるし、なんかシュン、ってしてるし……。ふふふ、和くんって犬みたいやなぁ……って思っちゃった」
「なっ!……そんなにわかりやすいのか……」
思いもよらない事を指摘され、俺の顔に熱が帯びてきたのを隠すように、うつみんに背を向けた。
「照れちゃって~可愛いやつめ!」
クイクイ、と肘で俺の脇腹を小突いてくるうつみんを避けるようにしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「通行の妨げになるので、じゃれあうのはお止めくださぁい」
「祐希っ!」
驚いて振り返ると、上下でお揃いメーカーのジャージを着た祐希の姿があった。
「祐くん、おかえり~」
「ただいま」
至って冷静に対応するうつみん……。
――ちょっとは驚くとかないわけ?なんでいつも俺だけこんなにドギマギすんだよぉ……。
「ほいじゃ、またね!」
部屋に入ろうとするうつみんに向かって、俺は思わず声を掛けていた。
「うつみん!……今度また家、行ってもいい?」
うつみんも祐希も、目を見開いて驚いているように見えたが、俺は気にせずうつみんの返事を待っていた。
「……別にいいけど、私……休みバラバラだよ」
「んなことわかってるし……。ちゃんと確認の連絡はするよ」
「なら……いいよ!」
「うっし!」
小さくガッツポーズをしいた姿を、祐希とうつみんに見られ、またしても恥ずかしくなる始末……。
その後、俺たち兄弟はうつみんと別れ、お互いの家へと帰った。
「なんかいつの間にか距離縮まってんね」
祐希が靴を脱いでる俺に向かって言ってきた。
「……俺、頑張った」
「よしよし、いい子いい子」
「おいっ!やめろっ!」
「ははは。……本当、和の行動力には驚かされるわ。……俺、応援する」
「おう!よろしく頼む!」
◇◆◇◆◇
俺が思うに、和希の恋が上手くいく可能性は限りなく低い。
理由その1、高校生×社会人の恋愛なんぞ聞いたことがない。大学生ならともかく、社会人ぞ……。
理由その2、歳の差18歳……!?ましてや男側が年下過ぎる時点で、女性であるうつみんは恋愛対象として和希の事を見ていないであろう。
理由その3、金銭的問題。おそらくはこれが一番の問題点であろう。うつみんの仕事は看護師、つまりは普通の会社員よりも稼いでいるであろう、と前に父親が言っていた。詳しくは聞いたことがないが、経験年数もあるうつみんはきっと、俺たちの両親よりも稼いでいる……。一方、和希と俺は高校生だ。せいぜいバイトで月数万稼げる程度であろう。実際、俺たちは何度もうつみんに奢って貰っている……。つまりは……うつみんにとって和希は、年下の弟的感覚なのではなかろうか。
これらのことを踏まえると、和希とうつみんの恋が上手くいく可能性は限りなく低い。だけど、俺の中ではその限りなく低い可能性をひっくり返してほしいとも思っている。
俺たち双子は自分で言うのもどうかと思うが、モテる。
実際、同じ学校の女子たちは、俺たち兄弟のどちら派なのかでよく揉めていた。抜け駆け禁止だの、挨拶しただけでわーきゃーされていたのだが、そんな事は全く気にしないのが俺たちの良さでもあった。
恋愛にさほど興味を示さない和希のターニングポイントは、おそらくうつみんとの出会いだろう。
お茶目な性格、ずぼらな一面、誰とでも仲良くなれる人柄……これらを全部引っくるめて、和希はうつみんに恋をしている。和希は最近ようやく気付いたみたいだが、俺はもっと早い段階で気づいていた。
俺ができることなんて限られているが、願わくば、和希の恋が実りますように……。
◇◆◇◆◇
夕飯を済ませ、部屋に戻った俺はさっそくメッセアプリを開き、うつみんに送る内容を打ち込んでいた。
――何て送ろうかな……。気軽に連絡するにしても、友達に送る感覚……っていうわけにはいかないだろうし……。
あれこれ悩んだ結果、俺は無難な内容を送ることにした。
『次の休みはいつなん?』
送信してドキドキしながら返事を待つも、なかなか既読にもならなければ返事も帰って来なかった。
――聞く内容……まずかったかな……。
俺が起きている間に返事は帰って来ず、ほぼふて寝するように、俺は23時過ぎに布団へと潜り込んだ。
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