第18話 一歩前進
学校からの帰り道、少しだけ寄り道しようと商店街へと向かうと、俺の前方を歩く内海さんの姿を発見した。
――内海さんじゃん!またとない
俺は急ぎ足で内海さんの背中を追った。
「内海さんっ!」
「ん?……おぉ!和くん~今帰り?」
「うっす」
「……寄り道目的だな」
「あ……バレた」
「どっか行くの?」
「何も考えてなくて……目の前に内海さんを見っけたので来た感じ」
「そうなんだ」
内海さんと並んでしばらく歩いた後、俺は勇気を振り絞って内海さんに話しかけた。
「あのっ!」
「どした」
「……れ……連絡先を……連絡先を教えて欲しい!」
「おぉ……別にかまへんよぉ」
そう言いながら鞄の中をごそごそし始めた内海さん。
――言えたっ……!やっと言えた!帰ったら祐希にも報告や!
俺は連絡先を知れる、というだけで気持ちが昂っていた。
「祐くんに聞いてくれても良かったのに」
――……は?祐希……俺よりも先に、内海さんの連絡先を知っていた……?あいつっ!!
嬉しい気持ちから一変、祐希に対する怒りが込み上げて来た。
「内海さんって、祐希と連絡取ってるんですか?」
「取ってないよぉ!教えて、って言われたから教えただけ。何の連絡もないし、こっちから送る義理もないしねぇ」
その言葉を聞いただけでも、俺の心は晴れやかになっていた。ほんの些細なことで感情の浮き沈みが訪れる俺は、まだまだお子ちゃまだな、と痛感したのであった。
俺のスマホメッセアプリに内海さんの連絡先が追加され、嬉しさのあまりまじまじと画面を見ていると、ぐいっ、と腕を引っ張られた。
「歩きスマホなんかしてると自転車に
「……あざす」
「そんなに熱心にスマホ見てぇ。……もしかして彼女?」
「は?んなわけねーじゃん!っつか、俺に彼女はいねぇし!意味わかんねぇこと言うな!」
慌てふためく俺の様子を見ていた内海さんは、お腹を抱えて笑い出した。
「くはははは……態度悪っ!……ふふふふ」
「笑いごとじゃないし!」
「ごめん……ふふふふ」
「……なんなんだよ……もぅ」
同じ目的地かもわからないまま、俺たちはしばらく並んで商店街を歩いていた。
しばらく歩いていると、内海さんの足が止まった。
「私、ここに用事があるんだ」
そこには、昔ながらの看板が掲げられており、店内も少し古びたオーラが出ていた。
「なんすか、ここ」
「漢方のお店」
「漢方?」
「そぅ!頓服で飲む漢方、取り扱ってる店が少なくて……家にあるストックもきれそうだから出たついでに、ね」
「へぇ……」
「……えっと……和くんは別に用事があるんでしょ?」
「あぁ……特にないから、ここで待ってる」
「あらそう。じゃあちょっと待ってて……ダッシュで買ってくる」
そう言うと内海さんは店の中へと入り、店主に用件を伝えていた。
――ってか、単純に内海さんとの時間を過ごしたいだけなんて言えるわけないじゃん!一緒に歩いてるだけでもドキドキしてんのに……。俺の心臓、どうにかなりそうだわ……。
内海さんが戻って来るまでの間、俺はスマホに映る内海さんのメッセアプリのアイコンを見ていた。
――だいたいこういうアイコンって、自分の写真かお気に入りの景色が多いはずなんやけど……内海さんのアイコン……、
「お待たせっ!」
後ろから急に声をかけられ、びくっ、とした姿にまたしても内海さんは笑い出した。
「ふふふふ……そんなに驚くこと?」
「そりゃあ、急に後ろから声をかけられたら驚くやろ!」
「もともと後ろにある店に居る、ってわかってるのに?」
「違うことに集中してたらそうなるでしょ!」
「そうかなぁ……ふふふ……まぁ、ごめんやで」
「もぅ……それより、このアイコン何なんですか」
俺はスマホ画面を内海さんに見せた。
「何って、目やん」
「見たらわかるわ!何の目なんさ」
「蛇の目」
「蛇……の目?」
――俺の理解が追いつかない……。なんで目だけなん?そもそも蛇の目をアイコンにする意味って……何?他の人から何にも言われへんの?
「特に意味はないんやけど、この目、なんかかっこいいなぁ、というだけのことで設定した」
「……何も言われへんかったんすか?」
「人のアイコンなんて気にしてないやろ」
――やっぱり考え方が変わってるというか、ずれてるとも言うべきか……。
「用事は済んだし、私は帰る。和くんは?この後どうすんの?」
「俺も帰るわ」
こうして来た道を俺たちは並んで帰ることにした。
「あのさ……」
「ん~?」
「内海さんって呼び方、変えてもいいかな……」
「いいよぉ。なんて呼んでくれるん?」
「祐希はうつみん、って呼んでるから……俺も……そう呼びたい」
「いいんでない」
連絡先の交換、呼び名の変更……、俺にしてみればこの数十分の間で心の距離が前進したのではないかと思うくらい充実した時間となった。
――ええ感じに進んでるんじゃなかろうか!これは帰って祐希に報告せんと!
俺の足取りは軽くなっていた。
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