第17話 友の終恋

 ダブルデートの一件以降、俺は尚弥と口を聞かずに過ごしていた。


「なぁ、お前等って喧嘩でもしてんの?」


――まぁ……そう思うよなぁ……。


「別に喧嘩はしてないけど、ちょっと色々あってね……」

「ふぅん。……女か」

「……何が正解なんてわかんねぇよ」


 実際、前田さんへの気持ちがないまま付き合ったとして、それは相手に対して失礼にあたるのではないか……。お互いの気持ちが通じ合って初めて恋人という関係へと発展するのではないか……。俺自身、考えなしで答えたつもりはないが、もしかすると前田さんの考えていることは違うかもしれない……。とまぁ、ここ数日色々と考えてみたものの、何が正解かはわからずに今に至るわけだが……。


「一ノ瀬って、今まで彼女いたことあんの?」

「あぁ……一瞬あったかも……ん?あれは付き合うに入るのか……?」

「なんだよそれ!」

「そういうお前はどうなんだよ」

「俺ぇ?俺はね……今の恋人はこの子!」


 と言いながらスマホ画面を見せてきたため、よくよく見てみると、そこに映っていたのは見た事のあるVTuberの姿だった。


「……そういう趣味ね」

「ちょっ!言い方ひどくないですか」

「俺にはわかんねぇ」

「いいよこの子たちは!配信動画がいくつもあってね、俺のおススメは……」

「聞いてないし!っつか興味ないし!」


 そうやってクラスメイトと話をしていると、神妙な面持ちで近づく尚弥の姿が目に入って来た。


「……和希」


 いつもよりも増して声のトーンが低めの尚弥に驚きながらも、顔色変えずに答えた。


「何かあった?」

「……ちょっとだけいいか」

「……おぅ」

 

 俺は尚弥に連れられ、屋上へ続く階段へと向かった。

 しばらく沈黙が続いた後、尚弥は重い口を開いた。 


「俺……紗江に振られた」


 階段に座り込むなり、小声でとんでもないことを言う尚弥の言葉を理解するのにほんの数秒かかった。


「……はぁ!?あんなにラブラブやったのに!?」

「うん……はぁ……」

「なんで振られたんさ」

「……下手くそ……って言われた」

「何が?」


 俺の言葉に、尚弥は見開いた目をしたまま俺に顔を近づけて来た。


「何が……って、恋人同士がすることは1つでしょ!」

「手ぇ繋ぐ……っつてもそんなのに上手いも下手もないしな……あぁ、わかった!チューだろっ!」

「は?俺たちは初めて会った日にチューしてますけどぉ」

「……まじか」


――尚弥ってそんな奴だったんだ……。かなりぐいぐい行く奴だとは思ってたけど、普通付き合う前にチューするか?やべぇ奴だな……。


「和希く~ん。何か俺に対して失礼なこと考えてませんかぁ?」

「……なんも考えてねぇわ!」

「ならいいけど……」


 少しだけ考えた結果、俺の頭にふと思い浮かんだことがあった。


「はっ!尚弥……もしかしてお前……身体の関係……」

「そうだよ!」

「……で、そこで下手くそと言われたのか……」

「んなこと言われたってよぉ……俺だってどうしていいかわかんなかったんだよ……そういうことする前にエロ動画見て勉強はしたんだけど、実際にするのとでは違うじゃんか!……入れるときに優しさがなかったとか、俺だけが気持ちよくなっていたのが許せないとか、とにかく色々とケチつけられて……挙句の果てに振られたっ」


――生々し過ぎて俺は一体どんな反応をすればいいんだ……。ってか経験したことがない俺に言われたところで答えられるわけねぇじゃん!


「なんというか……お前と合わなかったんだな!」

「そうだね!いくら性格の相性が良くても、身体の相性が悪いと長続きしないよね!……俺……紗江とは結婚できると思ってたのに……」


――待て待て待てっ!まだ俺ら高校生だぞっ!1年だぞっ!社会の事をそこまで理解していないガキが、結婚を視野に入れてたって驚き過ぎて声も出ねぇわ!


「……」

「そんな顔せんとって!引かんとって!」


 俺がどんな表情をしていたのか自分ではわからないが、尚弥からしてみると精神的ダメージを受けるくらい、相当な表情をしていたに違いないんだろうと思った。

 

 その後も俺は永遠と尚弥の終わった恋について聞かされ、貴重な昼休みがあっという間に終わっていた。


「俺……紗江よりも可愛い彼女作るかんな!」

「切り替えが早いねぇ。……未練とかなの?」

「未練がない……とは言い切れないけど、うじうじ考えても仕方ないじゃん!」

「ちょっと待て!俺が聞かされてたのはうじうじ話じゃないんですかぁ!?」

「うじうじ話とはなんだよ!」

「だってそうじゃんか!」

「ぐぬぬぬ……。とにかく!俺は新しい恋をする!」

「どうぞご自由に~」


 俺にとっては、数少ない友人である尚弥の恋路を今後も見守りたいと思いつつも、どこか羨ましいとさえ思いながら並んで教室へと戻った。


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