第13話 ダボーデート
俺たちは4人は、駅から歩いてすぐの市街地にある映画館へと向かった。
日曜日ということもあってか、映画館には人がごった返していた。
「さてさて……チケットを発券してくるから、2人はここで待ってて」
そそくさと2人でチケット券売機とは逆の方へと向かうのを見つめていると、
「予めチケット買ってくれてたみたい」
「……そうなんだ」
「観る映画、結構人気だしね」
俺たちが観ようとしているのは、あの国民的人気ゲームが初めてアニメーション映画として放映されると公開前から話題になっていた映画だ。
俺も公開前から楽しみにしていたのだが、まさかこういう形で観に来るとは思ってもいなかった。
――確かに多そう……。子どもから大人まで幅広く人気なだけあるなぁ。
チケットの発券を終えた尚弥たちが戻って来た際、映画代を支払った。俺の行動を見ていた前田さんも、慌てて財布を出してお金を払おうとしていたのだが……。
「万券しかないけど、おつりある?」
「俺はくずせないわ……」
「私も……」
「……」
――えぇっと。この雰囲気は俺が一旦前田さんの分を支払うってことだな。
「はい。前田さんの分」
俺は財布から千円を取り出し、尚弥へと手渡した。
「和希くん、ごめんね」
「別にいいよ」
「さてぼちぼち時間だし、行きますか!」
尚弥の掛け声で俺たちは上映される場所へと向かうのだった。
劇場内は案の定、年齢問わず人でいっぱいだった。
「すごいな……こんなに人が多い映画館、久しぶりだわ」
「和希くんは映画好きなの?」
ふと隣に座った前田さんから聞かれた。
――おっと……。俺は尚弥に話し掛けたんだけどなぁ……。
と思いつつも、失礼がないように返事をした。
「そうだね……。毎年公開してるアニメ映画とか、洋画も映画館でしか味わえない迫力があるなら映画館で観るかな」
「そうなんだぁ。私は映画館久々に来たかも。こうして誘われなかったら来てないよ」
俺はひと記憶を遡ってみることにした。
――『観たい映画があるんだけど、一緒にどうかな?』とメッセで送ってきたのは前田さんですけど……?誘ってなんかないのだが……。
俺はこの時既に、前田さんに対する感情すら感じなくなっていた。
――もういいや。
俺の中で何らかのスイッチが切れ変わった。
映画鑑賞後、カフェでも行こうかとなったのだが、俺は一刻も早く帰りたいとの思いが強く、3人へ思いを伝えることにした。
「俺、帰るわ」
「……なんで?」
「約束の映画は観たし、もう用はねぇだろ」
「そうだけど……」
「3人でゆっくりして。じゃ!」
俺がその場から去ろうとすると、前田さんが俺の服の裾を掴んだ。
「和希くんが帰るなら、……私も一緒に帰る。尚くんと紗江のデートを邪魔したらまずいっしょ」
――うわぁ……まじかよぉ……。何のために俺が帰る、って言ったと思ってんの?
「駅までだから」
面倒だと思いつつ、このまま放って帰るわけにもいかず、気付けば俺はそんな言葉を発していた。
「うん!」
こうして俺は尚弥たちカップルとわかれ、前田さんと並んで駅に向かって歩いていた。
「和希くん、映画のお金は今度会うときでもいいかな?」
――え?……俺、もう貴女と会うことなんてないと思うのですが……。
と心の中で呟きながら返事をした。
「もういいよ」
「けど……」
「今日をもって俺は前田さんと会わない」
「……え?」
「言葉のまんまだよ」
俺は冷たい人間だと思いつつも、いつまでもだらだらとしていれば前田さんにも失礼だ。
ショックを受けたのか、俯いたままの前田さんに、俺は冷静に言葉を続けた。
「こんな俺なんか相手にしない方がいいよ。前田さんにはもっと素敵な人と出会えるよ」
「……そんなことないよ」
か細い小さな声は人混みにかき消され、俺にはほとんど聞こえなかった。
「俺、こっちだから。それじゃあ」
俺は前田さんの方は振り向きもせずに足を進めた。
ギュッ――。
ほんの一瞬の出来事すぎて思考が追い付かなかった。
気付いたときには、俺を後ろから抱き締める前田さんの姿があった。
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