第11話 本音
俺の要望に少しだけ躊躇っていた様子だったが、内海さんはいつも通りの笑顔で答えてくれた。
出会いのきっかけはマッチングアプリ。
アプリ内で何度か連絡を取り合った後、メッセアプリへと切り替え、連絡を取り合っていたそうだ。連絡を取り合ううちに、お互い会いたいという思いが合致したため、一緒に花見をしたとか……。
「お花見の時に彼、お弁当を作って来てくれたんです」
「胃袋掴む系男子」
祐希の咄嗟の突っ込みに内海さんは苦笑していた。
アニメの話で盛り上がり、一緒にいても気が楽だという点で、内海さんはその人に惹かれていったらしい。
2度目の逢瀬の際、内海さんはある決意をした上でボーリング、岩盤浴を楽しんだそうだ。
――俺があの時見かけた人……彼氏さんじゃなかったのか……。
何故かホットしている俺自身に一瞬焦りを感じたが、そんなことは感じさせまいと真顔で内海さんの話を聞いていた。
「私、実は病と闘ってる身……なんです」
「えっ?」
俺たち家族全員、同じ反応をしていた。
「ちょうど厄年だった年に、
内海さんの表情からは読み取れなかったが、俺はこの時、彼女の本当の強さの意味を知った気がした。
看護師として働いてる中でわかった病に立ち向かう強さ、『生』に対する考え方や、生き方に対する前向きな姿勢……。
俺には内海さんが格好よく見えた。
「私、年齢的にも考えると、のらりくらりと恋愛なんてしてられない、って思ってマッチングアプリも駆使したんです……。何人かと連絡を取るうちに、なんとなくこの人がいいなぁ……って思って出会ったんですけど……」
――何人と連絡取ってたんだろう……。内海さんって、どんな人がタイプなんだろう……。
俺は内海さんの話を聞きながら、話す内容とは違うことを考えていた。
「病気のことを言ったら、彼から連絡がなくなりました……へへへ」
「な……そんな
母親が涙目になりながら必死に訴えていた。
「貴女がせっかく勇気を振り絞って話したのに、何の連絡もしないなんて……」
「まぁ……向こうからすると、会ってまだそんなに日数も経ってないのに、そんな重い話されても……って思ったんでしょ。それに……私が逆の立場だったら、健康体の方がいいですもん」
――内海さんは色んな事を抱えて……苦しんで……乗り越えて来たのに……。
「……俺だったら……絶対に悲しませたりしない」
「……ん?」
「和希……お前っ……」
――お、俺……なにかまずいこと言ったかも……。
内心焦りを感じ、変に緊張していると、その空気感を変えたのは内海さんだった。
「ふふ……和くんは頼もしいね!和くんも祐くんも、彼女ができたら尽くすタイプになりそう」
「はぁ?俺が尽くすわけないじゃん!」
「和希と同意見」
「嘘~、2人からはそんな雰囲気が出てるよ!お姉さんが言うんだから間違いない!」
一気に明るい雰囲気となり、その後も他愛ない会話を楽しむことができた。
――内海さんは明るくしているけど、本当は辛かったんだろうな……。いつか、内海さんの心に寄り添えるようになりたい!
「千華恵さん、これからも都合が合えば、こうして食事をしながらお話しない?」
母親のまさかの提案に、内海さんの表情は驚いていたが、その後すぐにとびっきりの笑顔を見せながら答えた。
「是非っ!」
「……ってか、自炊すればいいじゃん」
俺の言葉を聞き、さっきまでは笑顔だったはずの内海さんの表情は瞬時に真顔となり、俺に顔を近づけながら答えた。
「へ?何言ってんの?……作れる物とかないし。そもそも、我が家に調理器具ないのにどうやって料理するの?ねぇ、ねぇ」
「わーったから……近えよ……」
――至近距離はいくらなんでもまずいって……。俺の理性が……。
「お隣同士、これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ~」
「……おうよ」
笑顔で帰って行く内海さんを見送り、長いようで短かった夕餉が終わった。
「和、どうすんの?」
片付け終えた足で部屋に戻ろうとしていると、後ろから祐希が声を掛けて来た。
「何が?」
「内海さんのことだよ」
「俺は諦めねぇよ」
「だと思った」
「俺、これからどんどんアピってく!ぐいぐい攻め続ければそのうちチャンスは来るっしょ」
「……だといいな」
俺は俺自身の気持ちと向き合う決意をした。
お隣に住むお姉さん、内海千華恵さんとの恋を実らせるために、俺ができることはどんどんしていくんだ。
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