第10話 夕餉③
リビングへ入ると、4人掛けテーブルの定位置に祐希、母親と並んで座っており、普段父親が座る位置には予想通り内海さんが座っていた。
――やべ……父ちゃんの席ということは、俺の隣じゃねぇか……。くそっ!
俺自身、かなり緊張していたが、あたかも平静を保っている雰囲気を出しながらいつも通り自分の席へと着いた。
「お邪魔してます!」
隣に座った俺に、にこやか笑顔で話しかける内海さんは眩しかった。
「……うす」
「あらやだ~この子ったら緊張しているのかしら~」
母親の余計な一言に睨みつけるが、その隣ではクスッと笑う祐希の姿があった。
――こいつら!
そんな俺の気を知らずか、マイペースな内海さんが話しかけてきた。
「和希くんはご飯どれくらい食べる?私、よそうよ!」
「自分でやるからいいよ」
「そうよ!内海さんはお客さんなんだから、座ってるだけでいいのよ!」
「ですが……」
「気にしなくてもいいっすよ。我が家では当たり前の事なので」
祐希の言葉でようやく納得した内海さんは、遠慮しながらも家族全員分の食事の準備ができるまで待っていた。
「さて、これで全部揃ったわね!」
テーブルには母親特製のハヤシライスの他に、サラダ、コンソメスープが並べられ、彩りも綺麗な食卓となっていた。
「すごく美味しそうです!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ!……この子たちは何にも言ってくれないから……。さぁ、いただきましょう!」
「いただきますっ!」
内海さんの反応を家族全員で見ていると、見られていることに気付いた内海さんが恥ずかしそうにもぐもぐしていた。
「……お口に合うかしら」
「ふごくおいじいでふ」
――すごくおいしいです、って言ってんだろうけど、もごもごし過ぎで喋れてないな……。
その後もわいわいしながら夕餉の時間を過ごし、俺たち家族は内海さんとの会話を楽しんでいた。
内海家に調理器具が無いことを聞くと、もともと料理ができない人間の家に調理器具など要らない、との理由で購入していないと返事が返ってきた。まな板と包丁は、引っ越しの際に親戚から譲り受けた物らしい。
「普段は何を食べているの?」
「う~ん……ビールとおつまみ……ですかね」
そういえば前に内海さん家にお邪魔した時、冷蔵庫の中身がスカスカな上に、ろくでもない物しかなかったことを思い出した。
――前から思ってたけど……この人の食生活、終わってるんじゃないか!?
「たまにはしっかりとした食事をしないと……」
「……ですね」
――いや、絶対思ってないだろ!
「ねね内海さん、下のお名前は?他にも色々と聞かせて下さいな」
母親の問いかけに対し、内海さんは色々と答えてくれた。
「私、結構1人でどこでも行っちゃうんです……。前は友人と予定を合わせて出掛けてたんですけど、私ら世代になると、結婚して家庭を持つ人たちが多くなって、予定が合わせにくくなるんですよね……。したらもう1人で行くかぁ、って感じでお1人様を満喫してます」
「そうなのね……。けど、1人は寂しくないの?」
心配そうに尋ねる母親とは反対に、明るく答える内海さんの表情はキラキラと輝いて見えた。
「好きなことがたくさんあると、不思議と寂しいとか思わないんですよね」
――この人は芯の強い人なのかもしれないけど、もしかした他にも理由があるのかもしれない……。
そう思いながら話を聞いていると、突然祐希が内海さんに直球的な質問をした。
「内海さんって、付き合ってる人とかいないんですか?」
「……いないよ」
どこか切なそうに答える内海さんに、俺の胸も何故か苦しくなった。
「付き合えたらいいな、って思う人がいたんだけど……始まる前に終わったの」
――始まる前に……終わった……だと?俺と……おんなじ?
「……教えてください」
無意識に俺はそう言葉を発していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます