第7話 いざ合コンへ

 最近の俺は何かがおかしい。

 ふとした瞬間に思い浮かぶ人がいて、その人のことが頭から離れない。

 これが所謂『恋』なのか?!

 俺はそれを確かめるため、友人である尚弥主催、他校生交流会(通称:合コン)へ参加することにした。


 待ち合わせ予定時間の10分前——。

 既に幹事である尚弥は到着しており、他にも男が3人いた。


「おっす和希!」

「……うす。こちらは……?」

「こいつらは俺の中学のダチと、同じ高校のクラスが違う奴ら」

「お初~」

「よろしくね」


――尚弥は交友関係が広すぎる……。にしても、みんな気合入ってるなぁ……。そんな中でも断トツ気合が入ってんのは尚弥だけどな……。


「んじゃ揃ったことだし、行きますか!」

「どこ行くの?」

「向こうのリクエストで、ボーリングになった!」

「おっ!いいじゃ~ん。俺、ボーリング好きだよ」

「動きやすい恰好しててよかったぁ」


――ボーリングね……。いつぶりだろう……。ストライクとれっかなぁ……。


 俺は、友達と遊びに行く感覚で楽しみになっていた。

 到着したROUND1の入り口には、女の子5人組がスマホを見ながら立っていた。


「あの子たちじゃないか?」

「うひょ!」

「かわいいじゃん♪」

「今回こそ俺は彼女をゲットする!」

「……」


 意気込みからして違えば、前のめり姿勢な4人に対し、俺は若干引き気味だった。

 尚弥がアプリで知り合った子に声を掛けに行き、俺たちを呼ぶまでほんの数秒。俺自身も女の子を遠目で見ていたが、心がときめく感覚はなかった。


――初対面では何も感じないのかもな……。ん?いや待てよ……、内海さんのときは……違ったんじゃねぇか?


 そんな事を考えていると、尚弥が俺に声を掛けてきた。


「和希!何ぼけっとしてんだ?ほら行くぞ!」

「あっ……うん」


 深く考えることをやめ、俺は尚弥に続いた。

 幹事が受付で申し込みをしていると、俺の隣にピタリと1人の女の人が来た。

 こげ茶色の髪に、ウェーブがかったロングヘア、スキニーデニムに長めのレース素材のシャツの下には黒のTシャツを着ていた女性は、俺のすぐ隣に立ち身体を寄せて来た。


「私、前田里桜まえだりお今日はよろしくね」


――いきなり距離近くねぇか?……ってか……香水のにおいがきつい……。


「一ノ瀬和希、……よろしく」

「和希くん、って呼んでもいい?」

「……ご自由に」


 にこりと笑顔を見せた前田さんは、そのまま友人たちの元へと戻って行った。尚弥の中学のダチがいそいそと近づいてきたかと思うと、俺に小声で呟いた。


「さっきの子、絶対に君狙いだよ!これはワンチャンあるね!」


――ワンチャンってなんだよ……。ってか、俺……あの人に興味ねぇし!


 手続きを終えた俺たちは靴を履き替え、玉を選び、案内されたレーンへと向かった。俺たちは合わせて10人いるため、尚弥の独断と偏見で6:4に分かれることにした。俺は尚弥と一緒に4人の方へと割り振られ、そこにはさっき声を掛けてきた前田さんも一緒だった。


「尚くん、ストライク狙ってね♡」

「勿論っしょ♡」


 尚弥はお目当ての女の子にデレデレしており、女の子もそれをわかった上で絡んでいるのが見て取れた。


――普通に弄ばれてるんじゃね……尚弥って案外チョロいのかも……。


 そう思っていると、俺の隣に座り、下から顔を覗き込んでくる前田さんの姿が目に入った。


「和希くんもストライク狙うの?」

「……俺はべつに……うまくないから楽しむだけでいいよ」

「そっか……けど、私、和希くんのこと応援するね♡」

「……あ、どうも……」


 こうして始まったボーリングだったが、俺はどこか上の空で玉を投げていた。


「和希くんうまい♡」

「あいつにあんな特技があっただなんて……」

「尚くんも負けてないよ♡」

紗江さえちゃんの応援があればもっと頑張れるよ♡」


――なんかすっげぇ帰りたくなってきた……。6人グループの方もなんか上手いこと引っ付いてるし、俺だけぼっちな気がするけど、それもそれでいいな。むしろ……こいつらと一緒にいても何も思わねぇわ……。


 俺が投げ終わり、席へ戻ると前田さんが必ずといっていいほど身体を密着させてくる。ちゃっかり俺の太ももに手を添え、男としては柔らかい身体が密着することでムラムラするかもしれなが、俺は欲情どころか、迷惑にさえ思えていた。

 ふと周りを見渡してみると、2つレーンを挟んだ奧に見覚えのある姿があった。


――はっ?……なんであの人が居るんだ……。それも……男連れっ?!


 俺の中で沸々と湧き上がる負の感情に戸惑いながらも、俺は目が離せなかった。


――その人は一体誰なんですか?いつから来ていたんですか?俺に気付いていますか?どうしてそんなに笑顔なんですか?そいつと居て楽しいんですか?距離近くないですか?


「和希くん!……ねぇ和希んってば!」


 前田さんが呼ぶ声に、俺ははっとした。


「ごめん……何?」

「和希くん、次で最後のゲームだよ!」

「お……おぅ」


 最後に投げた玉は虚しくもガターとなり、最終成績は尚弥に次ぐ2位だったが、そんなことは気にならないくらい、別の事で頭がいっぱいだった。


 俺はその後、カラオケに行こうという誘いを断り、1人で自宅へと帰ったのだった。




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