第6話 心情の変化
「和、内海さんに惚れてんだろ」
祐希に言われた一言に、俺は納得できずにしばらく過ごしていた。
――そもそもの話、何で俺が惚れてるってわかるんだ?恋なんて面倒だと思ってた俺が、恋してるだと?一体何なんだよ!訳わかんねぇ!
俺はこの感情の答えが知りたくなり、確かめるために尚弥に相談してみることにした。
「なぁ、人を好きになるってどんな気持ちになるんだ」
「ゲホッ、ゲホッ……」
休み時間、コーラを飲んでいる最中に俺が変なことを聞いたせいなのか、尚弥はかなりむせ混んでいた。
「いきなり何だよ~ケホッケホッケホッ」
「悪い……いや……ちょっと気になったんで聞いてみた」
「なんつぅか……胸が苦しくなるんだよ」
「胸が……苦しくか……」
「その人の事が頭から離れなかったり、会いたい、って思うんだよ。少なくとも、俺はそんな感じかな……。にしても、和希が恋を語るとは~」
「うぜっ……ふざけんのか?」
「ふざけてねぇよ!ただ……俺は嬉しくて……」
ウソ泣きするように指で目元をさすりさがら尚弥は続けた。
「まぁ、確かめるためにやぁ、1回俺らと一緒に遊びに行くしかないぜ!」
「……しゃ~ねぇな」
「そこで会う女の子たちの中に、和希のハートを射止める子がいるかもな!」
「……」
「え?スルーかよっ!」
こうして俺は、尚弥主催の他校生交流会<合コン>に参加する運びとなった。
「日程とか場所が決まったら連絡すっから!」
「っつかよ、お前は今までに何回も遊びに行ってるけど、この人、っていう感じの人には会ってないん?」
「……和希くんよ……そんな素敵な出会いがありゃ、俺が企画するわけないっしょ……」
――あぁ……出会えてないんだ……。
「ぎゃははは、尚弥のキャラは女の子には非モテなんだよ!」
「そうそう……お前はがっつき過ぎなんだって!」
ヤジを飛ばすのは前回一緒に参加したとういう面々だ。
「うっせ。お前らはいいですよねぇ。ちゃっかり連絡先もゲットしちゃって、挙句今度はデートですもんね~」
「そういじけんなって!」
「そうそう!次こそはきっといい出会いがあるって!」
「……尚弥、がんば!」
「お前には言われたかねぇよ!」
ヘッドロックをする尚弥を落ち着かせながら、俺は内心期待していた。
――俺が内海さんに惚れてるなんてあり得ねぇよ!
◇◆◇◆◇
その日の夕方——。
食卓を囲みながら一家団欒の時間を過ごしていた。
「そう言えば和希、お隣の内海さんにお世話になったんだって?」
「え……今更?」
唐突な母親の問いかけに、唐揚げを頬張りながら俺は答えた。
「祐希からこの間聞いたのを今思い出したの!」
「母ちゃん……思い出すまでに時間かかり過ぎだよ……歳のせいなんじゃない」
「あら、失礼ね!……お父さんも何か言ってよ~」
「あぁ……うん、そうだな……内海さんって、どんな人なんだ?」
「……的外れすぎて草」
「ふはははははは、確かに草!」
俺は笑いながらも、父親が聞いてきたことに対して律儀に答えることにした。
「内海さんはね……」
親戚の人から一時的にマンション住まいを許され、現在は1人暮らしを謳歌している人。ゲームしたり漫画読んだり、色んなことを全力で楽しんでいる人。野球も好きで、プロ野球チームの応援をしに、野球場まで行くらしい。しかも、1人で。
内海さん事情を話し終えると、父親がぼそりと呟いた。
「野球かぁ……話が合うかもしれんな」
「あぁ……話、合うと思うよ」
「マンションに1人って……今度一緒に夕飯でもどうかしらね」
「いいんじゃない」
横目でチラリと見てくる祐希の口元はニヤリとしており、俺は睨みつけた。
――こいつ、絶対何か企んでやがる!くそぉ……。
「確かに……」
「今度お会いしたら声、掛けてみようかしら」
「いいんでない」
「……」
俺は黙々とご飯を食べ進め、1番早くに食べ終えた。
「ご馳走様でした!」
勢いよく立ち上がり、自分が使っていた食器を手にキッチンの洗い場まで運んだ。その足で自分の部屋へと戻った。
「あの子、どうしたのかしら……」
「さぁ~」
母親と和希の声は最後まで聞こえなかったが、どうせ俺の態度で何か言ってるんだろう、と思いながら部屋の扉を閉めた。
机の上に置いていたスマホの通知ランプが点滅していたため、画面をスワイプして確認すると、尚弥からメッセが届いていた。
『前に言ってた他校生交流会の日程が決まったから伝えとく!5月27日(土)11時に駅前集合!』
俺は返事を打ちながら、尚弥の交友関係が気になっていた。
KAZU:『りょ!連絡ありがと』
尚:『今回は桂女子学園とだ』
KAZU:『ってか、どういう繋がりなの?』
尚:『マッチングアプリだけど!』
KAZU:『俺らでもできんの?』
尚:『おうよ!お前もやるか?』
KAZU:『今はいいかな』
尚:『なんだよつまんねぇな!』
KAZU:『うっせー』
尚:『とりま、当日は楽しもうぜ!』
KAZU:『おけおけ』
――マッチングアプリね……。
俺は尚弥とのメッセをし終わったあと、高校生でもできるマッチングアプリを検索してみた。
――確かに未成年でもできるのか……。
「ふ~ん」
スマホを持ったまま俺はベッドへもたれかかった。
スマホの画面には、アプリのインストール画面が映し出されていたが、俺はインストールすることなく画面を閉じた。
――今はいいかな……。
そう思った時、ふと頭に浮かんだのは、内海さんが大きな欠伸をした状態でインターホン画面に映っていた姿だった。
――は?え?……えぇっ!?
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