第3話 新たな一歩
目覚まし時計が鳴る5分前、いつものように俺は目が覚めた。
中学を卒業し、あっという間に迎えた高校生活の始まりは、雨模様だった。
「おはよう。……初っぱなから雨とかやる気なくなる~」
「何言ってんだ。雨だろうと晴れだろうと、大人には関係ないんだぞ」
リビングには既に、スーツに着替えた父親がコーヒー片手に新聞を読んでいる姿があった。
「父ちゃん、今日は早起きなんだね」
「さすがは和希……。優れた洞察力をしている」
「ふっ、何年父ちゃんの息子してると思ってんだ」
「たかだか14年だろ」
「……もうじき15年だ」
――言ってやったぜぃ。
俺がどや顔で父親を見ていると、
「朝から何しょーもない事言ってんの……。さっさと着替えてご飯食べなさい」
呆れ顔の母親が間髪入れずに突っ込みを入れてきた。
――かーちゃん……恐るべし。
「和希、着替えるついでに祐希も起こしてきて。あの子、絶対目覚まし時計の設定してないから」
「そんなことないだろ……」
「何年あなたたちの母親やってると思ってんの?」
「うわっ!」
「ほらほら、さっさと行った行った」
俺が何かを言おうとしても、母親には一生叶わないと思いながらリビングを出た足で、祐希の部屋へと向かった。
コンコンコン――
「……」
コンコンコン――
「……」
物音すら聞こえてこない部屋へと入り、ベッドですやすや眠る祐希に向け、目覚まし時計のアラームを音量MAXで鳴らした。
「うおっ!」
「おはよ、祐」
「……和、起こすならもっと優しく起こしてよ……」
「はぁ?そもそも目覚ましを設定していないのに、わざわざ起こしに来てあげてる俺は十分優しいだろ」
「……ふあぁ。……起きる起きる」
「さっさとしねぇと、かーちゃんの雷が落ちてくんぞ」
「……うん」
――ほんと、危機感がない、っつうか……おっとりしすぎ、っつうか……。
部屋で着替えをしている間も、祐希の事が気になって仕方なかった。
着替え終え、再びリビングへ入ると、起きたてとは思えないくらいシャキ、っとしている祐希の姿があった。
「祐……スイッチ入るの早えわ」
「お褒めに預り光栄です……。和、制服似合ってんね」
「だろ!」
「マンガ出てきそうなヤンキーっぽい」
「それ誉めてんの?けなしてんの?」
「誉めてる誉めてる」
「嘘くさ……祐は私服の高校だからって、変な格好すんじゃねぇよ」
「変な格好って何さ」
「変な格好は……変な格好だろ」
「なんそれ……ははは」
「ははははは」
「もう……時間ないんだから、しゃきしゃき動く!」
賑やかなモーニングタイムを終え、家族揃って家を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
父親は医療機器メーカーの営業のための出張に――。
母親は介護福祉施設へ――。
祐希は有名進学校へ――。
俺は普通レベルの男子校へ――。
俺は、新たな社会へと馴染むために大きな一歩を踏み出した。
◇◆◇◆◇
俺が男子校を選んだ理由は2つ。
まず家から近いこと。マンションを出て、徒歩10分ほどで到着することに1番の魅力を感じた。
そしてもう1つの理由は、異性と同じ環境に嫌気を指していたこと。中学時代に思い知った俺は、異性との関わりを断ちたかったのかもしれない。
この2つが男子校を選んだ決め手だった。
新たなに始まった高校生活、一体どんなことが待ち受けているのか……緊張しながらも、楽しみの方が勝っていた。
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