第11話
◆
「ねぇ、お腹すかないかい?」
「これでも食ってろ」
偶然、食える食料を見つけた時の言葉だ。
しかも未だに背中にいる。一体いつ離れてくれるのだろうか。
マジで命が危ないので、どっか行ってほしい。ついでに死んでくれ。……あっ。
「あの〜、小日出さん?」
「ん? なんだい?」
へつらうように問い掛ければ、謎肉をモッシャモッシャと貪りながら、キョトンと首を傾げる彼女。
その姿を見て怒りは無さそうだと安心する。どうやら、地雷を踏まない限りは読心術は発動しないらしい。
いや、地雷多くね?
「いや、その、せめて一緒に戦ってほしいなと」
誤魔化しを兼ねた本音である。
敵はだんだん強くなってるし、凶悪なトラップも沢山ある。そんな状況で文字通りのお荷物を抱える余裕など、俺にはないのだ。
するとロr……小日出は残念そうな顔になる。
「むぅ、流石にボクも
おい、そこの
一人暮らしすると分かるけど、家事って結構大変なんだぞ。その上、子供の面倒まで見るとなれば発狂しかねん。俺ならするね。
「いや、今の状況は専業主婦じゃなくて専業ニートだろ。働け社会人」
「誰がニートかっ! こちとら現役教師ですが!」
「その現役教師が、現役男子高校生に寄生してんのはどうなんだよ。この反面教師!」
「なにおう! そもそも女の子が抱き着いているんだから少しくらい喜んだらどうだい?」
「リュック越しで嬉しい訳ないだろ。そもそも絶壁じゃあ何も感じねぇわ」
「やっぱ殺す!」
そう言いながらも、小日出さんは……いや、もう「さん」いらねぇや。小日出は思うところがあったのか、しっかりと骸骨を攻撃してくれるようになった。
俺に背負われたままでな。
◆
「お二人ともぉ、どこですのぉ」
うぅ、寂しいですわ。
「このままではいけませんわ。何とかしませんと」
そうだ、二人と一緒にいた時の事を思い出そう。そうすれば寂しさも紛れ、もしかしたら彼女達の居場所のヒントが出てくるかもしれない。
「一石二鳥とは、まさにこの事。さっすがアタクシ天才ですわね」
良くなった気分そのままに、二人の事を思い出す。居場所のヒントになるなら、やはり
まずは
あの方は優しく明るい素敵な方ですもの。すぐに寂しさなんて忘れられますわ。
︙
︙
︙
︙
︙
そう、あれは腐りかけの肉を食べてしまい、美蘭先生だけ体調を崩してトイレに籠もった時の事でしたわ。
「二人きりになりましたね」
「? ええ、そうですわね」
「実は真莉さんにナイショのお話を
「ん? アタクシが話すんですの?」
一体なにを話せってんですの?
しっかし、やたらとイイ笑顔をしてますわね。親友に思うことではないかもしれませんが、ぶっちゃけ胡散くせぇーですわ。
とは言え、こちらが本気で嫌がることはしないのでしょうし、もしかすると楽しい事かもしれませんわ。
若干ワクワクしながら口を開くと、こちらが何かを言う前に彼女は服を脱がせ始めた。もちろんアタクシの。
「狼茄さん!? 何をなさってますの!?」
「え? ですから聞くんですよ」
「で、ではアタクシの服を脱がせる必要は……」
「ふふっ、誰が口から聞くなんて言いましたか?」
「え?」
「聞くと言っても、その魅力的な体に聞くんです。真莉さんの弱点を、ね」
「!?!?!?!?」
そうでした、この方は同性愛者の変態でしたわ! それも超弩級の。普段の擬態が完璧すぎて偶に忘れてしまうんですわよね。
そして、そんな時は狙ったかの様に襲われるんですわ。これまでは何とかやり過ごせましたが、今回は本気度が違う気がします。
あの血走らせた目は、とても親友であるアタクシに向けるものでは無く、すでに獲物へ向ける目ですわ!
「さぁ真莉さん。二人でめくるめく熱い時間を過ごしましょう」
「おおおおおおおお待ちになって下さいまし! 何度も言ってますがアタクシはノーマルですわぁぁぁぁぁぁっ!」
「それは女の子の素晴らしさを知らないだけです。一回だけ、なんでしたら先っちょだけでも経験すれば人生変わりますから!」
「ぜぇってぇに嫌ですわ!」
ちくしょう、力はアタクシの方が強かった筈なのに押し負けてきやがりました。もしやこれが
つーかそんなのどうでもいいから、誰か助けて下さいましぃぃぃぃぃぃっ!
「やぁ待たせたね、回復魔術で完全回復し……って何やってるの!?」
恐怖で滲んだ涙のせいでよく見えないが、先生がいるであろう方向へ顔を向け、全力で思いの丈を叫ぶ。
「ぜん゙ぜい゙、だずげでぐだざい゙ま゙じぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙」
「あら? 先生もご一緒にどうです?」
「やらないよ!? というか真莉君も嫌がってるから止めてあげなさい」
「むぅ、分かりました」
こうして、ギリッギリでアタクシの貞操は守られましたわ。
︙
︙
︙
︙
︙
ろ、狼茄さんの事は後の方がよさそうですわね。
さぁ、気を取り直して美蘭先生の事を考えましょう。
あの方は見た目にそぐわぬ大きな器と真っ直ぐな心を持った素晴らしい方です。きっと寂しさなんて直ぐに忘れられますわ!
︙
︙
︙
︙
︙
そう、あれはアタクシが見つけた料理を不用意に食べようとした時の事でしたわ。
「待つんだ真莉君」
「な、なんですの?」
ポンポンベリーハングリーのアタクシに食事を止めさせるとは、流石は先生。とんでもねぇ圧ですわ。
「ソレは、いやココで見つけたモノは基本的に食べてはいけない。帰れなくなるからね」
「帰れなくなるとは
「ここはあの世だからね、
むふー。仕方ない、ここは教師として可愛い生徒に教えを授けてあげるとしようか。
いいかい? 結論から言うとあの世のモノを食べるとこの世に帰れなくなるという事なんだが、これは古事記に(べらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべら)」
「こ、これは自分に関わる事だから聞かなきゃですわね」
「そうですね、オタク語りの先生はやはりお可愛いです♪」
「あなた、正気ですの……」
うっ、難しい話を聞きすぎて頭が痛くなってきましたわぁ。
思わず膝をつき、頭を抱えて蹲る。知恵熱がやべぇですわね。
「先生、美蘭先生」
「なんだい狼茄君、ここからがいいとこなんだが」
「真莉さんが倒れてます」
「え!? 真莉くーん、死ぬな! 死んじゃダメだ!!」
「し、死んでねぇですわぁ……(ガクッ)」
そうしてアタクシの意識は闇に呑まれましたわ。
︙
︙
︙
︙
︙
「…………偶には一人もいいかも知れませんわね。あのお二人なら敵に遅れを取ることもないでしょうし」
思わず、そんなことを呟く真莉であった。
─────────────────────
専業主婦の皆さんごめんなさいm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます