第8話

落合おちあい雪羅せつら side








「のぅ、悪い虫は貴様か?」



「な!?」




 そろそろ来ると思ってたが今かよ。


 しかも、どうして主人公勢じゃなくて俺の方に来てんだよ。あれか? 男だからか? やっぱり俺が男だからか!?


 いや、悩んでいる暇などない。さっさと、この即席邪神から逃げなければ。


 小汚いリュックアイテムボックスも持たずに走り去ろうとするが、ヤツの歪な手に掴まれていた俺に、動く事は叶わなかった。




「急急如───ガハッ」



「大人しく我が試練を受けよ」




 詠唱を始めると床に叩きつけられ中断させられた。クソ、逃げられる気がしない。勝つなどもってのほかだ。


 どうせ逃げられないならと、小汚いリュックアイテムボックスを掴んだ俺は、空間の裂け目に引きずり込まれた。 


 こうして、序盤ボス・・・・が巻き起こす主人公勢のキャライベントに巻き込まれた俺は、自身の慢心を呪うのだった。








小日出こひで美蘭みら(ロリ先生) side








 落合雪羅が『餓鬼王』と遭遇した頃、原作主人公勢の一人である金剛こんごう真莉まりは今世紀最大のピンチを迎えていた。




「うぅぅ、ポンポンペインですわぁ……」




 そう、尊厳の危機だ。


 いくら野生児と呼ばれる彼女であっても年頃の少女。こんなところで尊厳開放は避けたいのであろう。


 その気持ちは痛いほど分かるのだが、あまりに間抜けな姿に思わずため息を吐く美蘭だった。




「あら? 真莉まりさんが体調を崩すなんて珍しいですね。やっぱりあの世ここの空気は肌に合いませんか?」




 そりゃそうだろう。むしろ合ったら黄泉戸喫よもつへぐいをしたという事だから、一大事である。


 それはそうと、トイレは何処だったか。廃墟故にそこかしこにあるのだが、そのまま使えば何が起こるか分かった物ではないような禍々しいところばかり。


 これまで使う時は、ボクが浄化してから使っていたのだ。




「合うわけねぇですわ……。でも空気それ体調不良これとは話が別ですの、ぉぉぉぉっ」



「真莉君、ボクはあそこのトイレを浄化してくるよ。狼茄ろか君は真莉君が尊厳開放しないように見張ってあげてくれ」



「わかりました」



「アタクシを何だと思ってますの!?」




 真莉君の抗議の声を聞き流し、扉の前に立つ。


 もうこの時点で嫌な気配が感じられ、思わず気が滅入る。けれど最初に比べれば楽だと気を奮い立たせた。


 以前は扉を開ける前に全力霊撃、大丈夫そうなら扉を開けて更に霊撃、それで大丈夫そうなら今度は個室毎に霊撃と、消費する力に対してコスパが最悪だったのだ。




「積もりし穢れよ、いま一時の自由を与えん」




 しかし今は、この『火迺要慎ひのようじん』の札の力を開放すれば一度で終わる。


 念の為、浄化後に中の確認を行うがこびりついていた怨念は消え去り、ただボロいだけのトイレになっていた。


 よし、これで大丈夫だろう。


 さて、真莉君のためにも早く伝えてやるか。




「真莉くーん! こっちはオッケーだよーっ!」



「先生♪ ありがとうございますですわ!」




 ふぅ、どうやら間に合ったようだ。こちらとしても大惨事を目の当たりにしなくてホッとするな。


 そして、もう一人の生徒はと言うと……




「むぅ、どうしてあんなに早かったんですか!」




 彼女はぷくーっと膨れて異議を申し立てた。いや待て、なんでボクが怒られるんだ。


 どれ、そこのところを詳しく教えてくれないかい。




「せっかく真莉さんが可愛かったんですから、顔が青くなるまで待っててくれれば良かったんです!」



「君は鬼かい?」




 思わず言葉が漏れた。


 いや、もしかしたら鬼より恐ろしいかもしれない。このまま先へ進んで、もし会えたら確かめてみるのも良いだろう。



 「まったくもう! 先生は本当にまったくもうなんですから!」



「はいはい」




 まだごねる生徒を適当にあしらっていると、唐突に空間がヒビ割れ、黒い穴が出来た。


 何が起こってるかは分からない。しかし異常事態なのは明白だ。


 二人して武器を構えようとしたが、時既に遅かった。




「貴様らも悪い虫か!」




 怒号と共に這い出た土人形が、問答無用でボク達へ腕を伸ばす。


 運動オンチのボクは勿論、バリバリの近接職の狼茄君すら禄に抵抗できない。




「クッ……」



「汚らわしい、触らないで下さい!」




 そのままボク達は空間の裂け目へと連れ去られた。









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 ちなみに、本作主人公の落合雪羅も尊厳開放してません(笑)ちゃんとトイレを浄化してから使ってます。

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