第40話「廻るデイドリーム② アッシュライク・スノウ」
——かつての
ルール改訂のようなものである。以下、現行ルールとする。
かつては、先攻プレイヤーがまず自身のターンで戦闘用カード【センチネルカード】を場に召喚していたが、現行ルールにおいては、先攻プレイヤーのターン開始前に、プレイヤー両名が手札から場にセンチネルを1体ずつ召喚している。
単純に召喚タイミングが変わったというだけであり、先攻プレイヤーが1ターン目に攻撃権を有していないことも変わらない。
——とはいえ、後攻プレイヤーのセンチネルカード1枚が既に晒されていることは、情報アドバンテージの観点において先攻プレイヤー有利の状況に見える。
だが当然として、そこにもルール改訂のメスは入っていた。
「神崎さん、知らないかもしれないので補足しておきますが、先攻第1ターンにおいて、先攻プレイヤーは何かに誘発する形でスキルカードを使用することができませんわ」
白咲カナタ——デイドリームが語ったのが更なる改訂箇所。
本来、戦闘補助を行う【スキルカード】は、一部例外を除いてほぼ全てが任意のタイミングで発動することができる。例えば、相手のカード効果の発動や、相手センチネルの攻撃への迎撃などがこれに該当する。
だが、現行ルールにおいて、先攻プレイヤーは最初のターンでは、スキルカードの自由度が大きく制限されるという形となった。
後攻プレイヤーのセンチネル開示は、むしろその重荷へのケアも兼ねられていた。
それも踏まえての第1ターン。先攻を取ったのは神崎カナタであった。
「先攻第1ターンはデッキからのドローもできない。ここも変わっていない、先攻有利へのバランス、前より良いんじゃないか?」
「減らず口を言っていられるのも今の内ですわよ」
「そうだな、他ならぬお前がな、デイドリーム」
「——ハッ! 言ってなさいな!!」
--------------------------
ターンプレイヤー:神崎カナタ
控え:0(敗北までの残り枠:5)
場:『
種別:センチネル
プレイヤー:デイドリーム
控え:0(残り枠:5)
場:『
種別:アビスセンチネル
AP1500
--------------------------
札伐闘技において、敗北条件は基本的に一つ。
戦闘可能センチネルが場に存在しなくなることである。
①:手札から後続センチネルを出せない場合
②:控え枠が全て、破壊状態の
センチネルで埋まる
上記2点が該当する。
このゲームにおいて、戦闘破壊されたセンチネルは、控えセンチネルを配置するエリアに置かれる。つまり、どう足掻いても、手札・デッキから場に出せるセンチネルは5体までとなる。場に5体目のセンチネルが存在する場合、控えの5枠目は封鎖されることも、当然プレイヤーたちは把握していた。
一部特殊な方法を用いれば、それ以上の召喚数に到達することもあるが、基本的にはこのような形となっている。
それゆえ、無闇に召喚することも、そして不用意に戦闘を行うことも、このゲームにおいては慎重にならねばならないのだが——
——それはあくまでも原則に過ぎず、
——真の強者はあらゆるリスクすら速度に変えて札伐闘技を突き進んでいた。
「俺は手札よりスキルカード『アサルト・カタパルト』を発動。これによりデッキから、場に同名カードが存在しない機械センチネル1体を控えに召喚する」
カナタの場には灰色の人型巨大機兵センチネルが1体。これとは異なる機械センチネルが、カナタの背後に出現したカタパルトより出撃する。
——するはずだった。
「させません。
——スキルカード『
電車の屋根を突き破って、高次元より投擲された槍が
「サーチ封じのカードか。……さては、お前たち衛兵はそういうカードを管理者からもらっていたりするのか?」
「さて、どうでしょう」
「お前のお花畑センスだとその槍は入らんだろ」
「煽るのがお上手ですわね」
「青筋立てる暇があるんだな。それより次のターンの筋道でも立てたらどうだ?」
「————あなたねぇ……」
鼻息が荒くなるデイドリームを眺めながら、カナタは新たなカードを発動する。
「スキルカード『メガランチャー豪烈』を発動。これにより、俺の『アッシュライク』は攻撃を行わなかった次のターン、APを倍化させる。エネルギーチャージをして超射程ビームキャノンを撃てるようになったということだ」
アッシュライクのAPは1500。そして先攻第1ターンはどの道センチネルに攻撃権は存在しない。つまり、次のターンAPは3000となる。これはノーコストで出せるセンチネルの中では破格の数値であった。
「ああ安心しろ。倍加し続けるわけではない。毎ターン、ターン終了時に一度倍化処理は解除される。お前のデカブツのようにAP30000になることはない。良かったな」
「ふん、よくご存知で。カザネから掠め取ったんですか?」
「人聞きの悪いことを言うな。俺とカザネは両思いだ」
「どうだか。どうにも私にはすれ違っているように思えますけど」
「カザネがそうだとでも?」
「あなたがです、神崎カナタ」
言いながらデイドリームは新たなスキルカードを発動する。
「スキルカード『因果縫合』を発動。
これによって、あなたの『アッシュライク』と私の『クラスパイダー』は運命共同体となりました」
その宣言どおり、灰色の機兵と、逆さま彼岸花型の蜘蛛めいたセンチネルとの間に糸のようなオーラが発生して、両者の体に両端を縫い込ませる。
「これにより、どちらかのセンチネルが破壊されれば、もう片方のセンチネルも同時に破壊されます。迂闊な真似は、しないように」
「また毛色の違うカードを……。毛糸遊びはやめてほしいんだがな」
「煽りのレパートリー、尽きかけてませんか?」
「尽きかけているのはお前の戦略だ。攻撃権もなく、そもそもセンチネルを直接破壊するスキルカードも乏しいカードプールで、わざわざ俺の先攻第1ターンにそんなスキルカードを使ってくる意味がわからん。何を考えている?」
問いかけるカナタに、デイドリームは新たなスキルカードを以て返答とした。
「スキルカード『反転式/
これにより、私の『クラスパイダー』を破壊して、新たな
——刹那。クラスパイダーが爆炎に包まれるや否や、それは糸を辿ってアッシュライクをも炎上させる。
これこそが『因果縫合』の効果処理であった。
「……なるほど。本来は自身のセンチネルを破壊して新たなセンチネルをサーチする効果のようだが——」
「ええ。こうすればあなたのセンチネルもついでに破壊できるというわけです。……もっとも、そちらの機兵もただではやられないようですけれど」
デイドリームが、爆散するアッシュライクに視線を移す。そこには謎の雪めいた粒子を散布する筐体が置かれていた。
——
--------------------------
『
種別:武装カード
(破壊状態センチネルとしても扱う)
効果:ジャミング粒子を散布することで、センチネルの戦闘時に、相手センチネルの効果発動を無効にする。ただし永続効果は発動済みなため無効にならない。
--------------------------
「厄介な効果ですが、その程度の妨害では私の展開は止まりませんわ。
——サーチ処理終了後、クラスパイダーの効果を発動。
クラスパイダーは破壊された場合、デッキよりクラスパイダーを2体まで控えか場に召喚する!
来なさい、分裂せし彼岸花たち!」
瞬時に現れる2体のクラスパイダー。
それは、あらゆる破壊に反応して分裂・増殖するセンチネル。その分デイドリームの場は埋まるが、次ターンでの展開を加味すればむしろお釣りが来るという判断なのだろう。
だが当然、比較的自由度の高い条件での増殖効果であるため——代償もまた存在する。
「神崎さん。あなたのターンに好き勝手増殖したお礼と言ってはなんですが——あなたも同名センチネルを2体までデッキから呼び出すことができますよ。
2体以上出す場合は同名であることが条件なだけで、それ以外は特に何も定められておりません。お好きなセンチネルをお出しくださいな」
——罠である。と。カナタは察していた。
デイドリームの笑みが蠱惑的かつ挑発的かつあからさまに芝居がかっていたからということ以上に——
——そもそも熟練の札闘士、あるいはカードゲーマーであれば、わざわざ相手に展開を許す、それもあらゆる選択を相手に委ねるカードを何の打算もなしに使うこと自体稀であることを、神崎カナタは察していた。
つまり、ここで無闇に展開することは悪手であると、カナタはそう判断した。
——とはいえ。カナタとてこのチャンスを完全に放棄するほど無欲でもなく、与えられた機会は上手く活用する算段でもあった。ゆえに——
「ならば俺は1枚だけ場に出そう。
——『
--------------------------
『
種別:センチネル
AP4500
効果:自分の場のセンチネル3体を破壊することで召喚が可能。戦闘時、相手の控えセンチネル全てのAPをマイナス1000し、0以下になった場合そのセンチネルを破壊する。
--------------------------
現れたのは超巨大機械センチネル。普通に召喚するのには莫大なコストを必要とするため、精々1枚の投入が関の山と言ったタイプのヘヴィ・センチネルであるそれは、このようなコスト踏み倒し召喚が可能な状況であれば——最適解の一つとなり得る。
「しかしまあ、これ以上先攻でやれることもない。妨害も喰らったしな。超大型センチネルを立てるサブプランは成立したから俺はこれでターンを終了しよう」
この最適解はあくまでも妥協案であると、そう強調してカナタはターンをデイドリームに移譲した。
——そして、これがカナタvsデイドリームの、ラストターンとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます