第36話「決戦Ⅵ/時の華、運命の華」
——慟哭の雨が降りしきり、互いの手札を撃ち落とす。
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ターンチェンジ
ターンプレイヤー:ムガ
手札:0
控え:残枠0
場:『
AP100
・召喚時、互いの手札を全て捨てる。
・破壊される際、代わりに
プレイヤー:月峰カザネ
手札:0
控え:『タキオンブレイド-シンゲツ』AP3000
残枠3
場:『タキオンブレイド-ザンゲツ』
AP2500
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「俺のターン、ドロぉ〜〜。
——ンンーーーーーーン、良いカードを引いたなァァーーーーー、実に、ン実にィィ……イイ、カードだァ……」
どこか恍惚な笑みを浮かべながら、ムガが1枚のスキルカードを発動する。
——名を、『アビス・ドレイン』。
その効果は、相手センチネル1体のAPと効果を吸収するというもの。
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『アビス・ドレイン』
種別:スキルカード
【条件】
自分の場にアビスセンチネルが存在する場合
【効果】
相手センチネル1体のAPと効果を吸収する。
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「無論俺が吸収する対象はァー……ザンゲツくん、君だァ! で、俺の『
「————! ザンゲツ!」
カザネの叫びは最早遅く、天の孔から無数の触手がザンゲツに伸び、それらがザンゲツの力を汲み取る——。
そしてその養分は深淵を通じて『
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『タキオンブレイド-ザンゲツ』
AP2500 → 0
効果消失
『
AP100 → 2600
時空流発生。2回攻撃可能。
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ザンゲツの効果獲得により、『
AP差は一目瞭然。ゆえに、当然そのザザ鳴りの霧騎士による攻撃は躊躇いなく逡巡なく容赦なく降りかかる——!
「月峰カザネェ! お前が手札に持つカードなど高が知れている! お前のデッキが如何に進化しようとも! 精神性が如何に前へと進もうとも! その心根の 規定/基底 はそう簡単に変質することはなァい!!
——つまりお前の基本戦術は変わらない。その手札に残る打開策、それは戦闘補助に過ぎず、攻撃の回避に過ぎず、いずれにせよ、俺の戦術には未だ及ばない。
——俺は捨て札となったスキルカードを発動する!」
「捨て札——……!?」
カザネの戸惑い混じりの声に、ムガは目を見開いた笑顔で答える。
「そうとも!
俺が『
そして、捨て札より2枚のアビス・スキルカードが這い上がってくる——。
「この2枚は——アビスカードにより捨て札となった場合、それぞれゲーム中に1度だけ捨て札置き場から発動できる!
『アビス・インヴィテイション』!
『アビス・ダンジョン』!!」
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『アビス・インヴィテイション』
種別:アビス・スキルカード
【効果】
相手センチネルを深淵領域に招待することで、相手プレイヤーの使うアビス以外のカード効果をセンチネルに届かなくさせる。
『アビス・ダンジョン』
種別:アビス・スキルカード
【効果】
フィールドに深淵の迷宮を展開し、このターン、アビスカード以外のセンチネルを幽閉することで如何なる効果も発動できなくさせる。
この効果はアビス以外のセンチネルであれば場・控え・手札・デッキ・捨て札置き場全てに適用される。
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——この時カザネは理解する。
私の力では、もう勝てないと。
これはすでにただのカードゲームではなかった。深淵そのものと事実上の同化を果たしているムガにとって、最早使用カードの出力制限など崩壊しつつあったのだ。
——最低限のルールこそ守るが、既に人のタガを外れた超人的な精神集合体たるムガにとって、ゲームバランス崩壊限界点の域に達したカードの使用は、取るに足らない些事と化していた。
札闘士であったとしても、人の範疇であれば——ゲームバランス崩壊級のカードを使用することは精神負荷の観点から困難である。
ゆえに、ゆえにこそ、カザネ一人の力では——残留思念と深淵の願望器が凝縮した状態であるムガに勝つことは——最早不可能に近かった。
「
『
崩壊した笑い声が響く。
霧騎士の初めの一撃が——打点で勝ることによりザンゲツを切り裂く。そして、第二の斬撃が、控えより現れたシンゲツに殺到する!
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『
AP2600
『タキオンブレイド-シンゲツ』
AP3000
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剣戟もなく、シンゲツの一撃が深淵の霧騎士センチネルを斬り伏せる。
尋常ならばこれでカザネの勝ちである。だが、だが当然——
——
斬り裂かれた霧騎士は霧散し、そして天に穿たれた深淵の大穴へと逆さまに落ちていく。
こうしてまたも、アビスカウントが降りていく——
「ザザ鳴りの騎士は天に落ち、ゆえに永雨は逆行し、天へと還る。
降るはずの雨なき大地には何も 為/成 されず、そこにはただ——がらんどうの空白が在るばかり。
——
現れ出でよ、『
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『
AP1000
【条件】
このカードが場に存在する場合
【効果】
アビスカード以外の、場のカード全てに
空白属性を付与する。
空白属性を持つカードは、APと効果を
失い、場に存在する限りカード効果にも
選ばれない。
【条件】
このセンチネルが破壊される際
【効果】
このセンチネルを
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そして現れる人型の空洞。そこには何もなく、ただ透明の何者かが周囲の色を喰らい始める。
色が、奪われていく。
「『
……その残された手札はおそらく『Evolution』の亜種。ここぞというタイミングで強制的に発動させるだけの秘策があったのかもしれないが——念には念をだ。当然場に出た瞬間、EXスキルカードであろうともその効果は空白と化す。
……つまり、この俺様の勝ちってことだ」
ムガが手を挙げ、そして振り下ろす。無言のままに、攻撃宣言が下された。
「本当は攻撃宣言を高らかに叫びたいところだが、このまま面白みもなくお前が堕ちゆく姿を眺めるのも一興だなぁとふと思ってな。それでこうすることにしたってワケだ」
色が混ざり合って混沌の黒と化した
AP0となったシンゲツに、それを止める手立てなどなく——無慈悲にもそのまま捨て札へと落ちていった。
「空白状態のカードは例外なく捨て札となる。控えが増えなくてよかったな。
——いやまあ、これで直接攻撃が可能となったわけだが」
この局面に至り、ついにカザネは口を閉ざした。
それをただ、冷や汗を垂らしながらカナタは立ち尽くしていた。
(カザネ——俺の、俺のカードは……俺の託した『リミテッド・アビス・フォール』のカードは——引けてないのか……?)
——そう。この決戦直前にカナタがカザネに託したカードとは、『
(カザネの手札は————)
「——何……? カザネ、何故だ……? 何故、それを使わない……?!」
——今まさに、手札に持っていた。
——だが、既に
カナタの様子を見てとったムガは、その時カザネの手札を理解した。
「……ああ、そういうことか。貸したんだな、神崎カナタァ……。深淵に触れていない者にアビスのカードを——」
「——何、何を、言っている……?」
「なぁに簡単なことだよ。いや実物を見た方が早いか。——カザネぇ。そのカードのテキスト欄を彼氏クンに見せたげな」
ムガの言葉に最早従う他なく、カザネは手札のカードをカナタに見せた。
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『
深淵を知らぬ者、このカードを使うこと能わず。
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「————効果が、ない」
「そういうことォ。
そのカードさぁ、別に誰でも使えるわけじゃないんだわ。まあ普通に持ってる分にはテキストも読めるんだけどな、実際に札伐闘技で使用するってなると資格が必要なワケ。深淵に認められるか触れるかしないとダメってことな。
で、資格持ってない奴が使うとどうなるかっていうと、このようにただの紙切れになっちまうってわけだ。残念!」
「そんな——そんな、ことが……」
(あって良いはずがない、いや、やめてくれ——やめてくれ!
これでは俺の——俺の願いが叶わなくなる……!!)
カナタは心の内で慟哭した。よもや己が手助けがむしろカザネを敗北に導くことになろうとは思ってもみなかった。このようなことになるのなら、いつも通りの冷徹なまでのドライさを貫くべきだった。
カナタの中で後悔の念が渦巻く。渦巻いて、そして——
「やめろォォーーーーー!! カザネをッ! カザネから離れろォォーーーーー!!」
——だが、時は無慈悲に進みゆく。
無数の触手がカザネの肢体を貫き、腹と顔の口が。手と足が。カザネの肉体を貪っていく。
既に目に光はなく、無惨な光景がカナタの眼球に刻み込まれていくばかり。
「あ——あぁ……ああああああああっっあぁぁああぁぁぁあっぁぁぁぁぁっぁぁ————ッ!!!!!!!!」
叫び続けるカナタとは対照的に、ムガは恍惚な笑みを浮かべて涎混じりに口を歪ませ言葉を漏らす。
「タキオン——その名を冠するセンチネルはすでに進化の力をその身に定着させている……流石ではあるが——それでもお前は未熟だったよ。
俺の心は残骸の集合体に過ぎないが——クカカ……ああ、だがその残骸の中には——深淵に触れた者も、そして、進化の一端に触れた者もいる。
ツギハギだらけでも、経験が違うんだなァこれがなァァーーーーー!!
——決まる直・接・攻・撃!
残酷かつスプラッタかつ無情な幕引きだなァァーーーーー!!!
ギャァーーーーーーハハハハハハハ!!!」
身体を仰け反らせながら大爆笑するムガ。最早その目は天を仰ぐのみで、禍々しき天の大穴すら眼中にない。
ゆえにその視界には、大穴も対戦相手も映り込んでおらず、そのために——
「————EXスキルカード、発動」
決定的な瞬間を見逃していた。
「——は? EXスキル、いや、そこじゃない。
……なんでお前が生きている?」
そこには——身体を自己再生させたカザネが立っていた。
その手の中には、EXアビス・スキルカードが光り輝いている。
「カザネ——? なんで、」
「なんでって。今死にかけたからさ。【深淵の願望器】とかいうのに取り込まれかけたわけね。
——ならさ。それってもう深淵に触れたってことだよね」
「————!」
「なっ、お前……お前そこまで考えて態々その身を俺のセンチネルに喰わせたのか————ッ!!?」
「っったりまえよ!! クソ痛かったんだからマジで覚悟しろよ!!!!!」
「この……このバケモノメンタルがァァーーーーーーーーーー!!」
「言ってなさい! その全部が負け犬の遠吠えだってのよ!!
さあ行くわよ! 深淵すら照らす進化の光、その目に焼き付けなさい————!!
——『深淵浸蝕/Rising Evolution』!!!」
それは、敗北を覆す逆転の1枚。
深淵の領域すら照らし出す、ソラを目指す進化の意思が——天の大穴を焼き焦がす。
眠りから目覚めたザンゲツが、その光を一身に浴びて——その姿を新たな段階へと上昇させる!
「エボリューション召喚!
来て!
『クラス:ライジング/タキオンブレイド』——————!!!!!」
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