第29話「disillusion/冥界王」

——『浸化-アビス・インベイション-』——


 種別:EXスキルセンチネルカード

 条件:以下の①②を共に満たす時

    ①召喚されたキング・ギルガメッシュが、

    相手によってバトルエリアを離れた状態

    ②自身が敗北する時

 効果:敗北を無効にし、

    このカードをセンチネルとして場に出す。


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 禍々しき漆黒のアヤカシが放つ暗黒旋風斬撃。それを受けたカイリは、一度は間違いなく切断され、札伐闘技に敗北していた。


 ——だが。ツルギモリコーポレーションにて生成に成功した人工カードにより、その敗北は一度だけ覆される。


 現れ出でるは冥界を統べる者。

 彼の王の側面の一つ。


「来たれ、冥界神、その力の側面!

maSter Of aByssソードオーナー・オブ・ビブリオン-冥界王 アビス・ギルガメス』——!」


 フィールドに巨大な穴が開き、そこから深淵——否、冥界へと続く道が現れる。


「冥界下りの逸話の再現かね?」

「いや、この力はただただ一端を再現したに過ぎない。このターンの敗北を覆し、そして最後の切り札を召喚した俺は——


 ——復元は一時的なものに過ぎないのか、カイリの肉体はすでに一部が塵と消えつつあった。


「——君は。

 では何か? 剣守カイリ、最早君の取る択は——敗北か、もしくは事実上の相打ち——そのどちらかだというのか?」


「そんな……」

 カザネが思わず声を漏らす。

 だが、カイリの目に曇りは一つもなく、カザネはそこに何かを感じた。


「——さてな。まだ手はある。

 俺の敗北さえ消えてしまえば——俺が次のターンで勝てば、?」


「ふむ。一か八かというわけだね。ではその底を見せてもらおうか。私はこれでターンエンド。来たまえ、剣守カイリ」


 ——ターンが、移る。


 今度こそ、この札伐闘技における正真正銘ラストターン。デッキトップに指を乗せ、カイリは覚悟を乗せてドローする。


「——俺の、ターン……!」


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ターンプレイヤー:剣守カイリ

手札:0→1枚

控え:破壊状態1体/残り枠3

場:『maSter Of aByssソードオーナー・オブ・ビブリオン-冥界王 アビス・ギルガメス』

   AP5000

   効果:王がいる場所こそが冥界ゆえに、

      魂の行き先もまた、王の元なり。


プレイヤー:吉良ヒラカズ

手札:3枚

控え:破壊状態1/残り枠3

場:『アヤカシラセン-マガイタチ』

   AP3000

   効果:召喚時、相手センチネルを

      次元の狭間に封じ込める。

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「——それで。打つ手はあるのかい?」


 砂煙舞う札伐の戦場にて、最強と最強の戦いに決着がつこうとしていた。


「——当然だ」


 瞬間、アビス・ギルガメスが戦闘態勢へと移行する。

 黒と金とが入り混じった鎧を身に纏った冥界の王は、杖のような物を掲げ、そしてそれを振り下ろす——


「冥界王の攻撃——それは、」

「させんよ。——スキルカード『螺旋術式-破砕速攻』!

 これにより、マガイタチを破壊することで、君のアビス・ギルガメスには戦闘不能になってもらう!」


 スキルカードの後押しを受けたマガイタチが、自爆覚悟の電光石火を開始する——!


 ——だが。

 そのスキルカードの効力は、処理前に塵と消えた。


「何——いや、アビス・ギルガメスの能力か」

「そうだ。冥界王が場にいる限り、このフィールドは冥界の属性を帯びる。簡易的な浸蝕結界だな。

 そしてそれにより、。死の世界に、それ以上の死は存在せぬゆえな」

「なるほど。それで破壊効果を付与する『破砕速攻』が無効化されたわけか。

 だがそれではこちらのマガイタチを戦闘破壊することも叶うまい!」


 反論するヒラカズに対して、カイリは「どうかな?」とだけ返し、そしてついにアビス・ギルガメスの攻撃がマガイタチへと到達する!


 爆風が、再び擬似冥界に吹き荒れる!


「破壊されない今、何が起きると言うんだね————何?」


 そこには、

 そしてその魂は、アビス・ギルガメスの周囲を回遊していた。


「冥界王に戦闘で破壊されたセンチネルは、当然破壊されず——その魂だけが冥界王の元へ引き寄せられる。

 これでお前のサイクルコンボも封じたわけだな」


「————! よもや、私がここまで追い詰められるとはね……」


「その見栄張りもここまでだ。

 戦闘可能センチネルが存在しない以上、お前のフィールドはガラ空き。冥界王の直接攻撃条件は満たされた。

 行くぞ——最後の決着の時だ……ッ!!」


 今度は大剣を構えたアビス・ギルガメスが、凄まじい速度と剣圧を以て吉良ヒラカズへと突撃する。最早なすすべもなく、ただただルールのままに、その斬撃をその身に受けて————


「————EXスキルカード、発動。


 深淵の力、かつて我が身に浴びし大いなる力。

 今この時、我が敗北を覆し、その力を我が魂へ与へ給え——!


 ————『深化アビス・フォール』————」


 ——彼もまた、


「このカードの効果により、私の敗北を無効にし、そして既に破壊されたセンチネル一体を選び——深淵の力を与えて強化復活させる」


「記録——そうか。アカシックZero適応中時のことか……!」


「御名答!

 ゆえに——今こそ甦れ。

 『咎滅星トガホロボシアビス・ブラックホール』」


 土塊から再び形を為す石塔の巨人。その姿はところどころ欠け落ちており、そこを黒い塵が補っている形となっている。

 星々も最早輝いてはおらず、だが、それぞれが巨大なブラックホールと化してフィールド全域を飲み込まんと虚空を現出させていた。


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咎滅星トガホロボシアビス・ブラックホール』

 AP9999

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「アビス・ブラックホールの特殊能力を発動!

 フィールド上のカードを全て、このカード諸共ブラックホールの重力圏に巻き込み、超重力の凝縮体へと変貌する!」

「破壊効果ではないのか!?」

「いいや違うね! これはあくまで吸収! そして新生なのだよ……!」


 なおも引き起こされる巨大ブラックホールの胎動。

 それは最早止めようがないのか、無慈悲にもフィールドを飲み込み始めていた。

 だが——


「——まだだ」

「何?」

「俺は手札から『SOBソード・オブ・ビブリオン-エンキドゥ』を発動——!

 これにより、王の友がその身を槍と変えて、王のAPを倍化させ——攻撃権を追加獲得する!」


 巨大な光の槍を携え、アビス・ギルガメスは投擲の構えを取る。その威光の前に、フィールド全域のあらゆるカードは動きを鈍める——!


「SOBが発動した時に冥界王が場にいた場合!

 相手プレイヤーはあらゆるカード効果を発動できない!」

「ここまでとは————……!」


 つんざく轟音と共に、巨槍が——石塔の巨人ごと吉良ヒラカズを貫き穿つ。


「——が、は。

 ……素晴らしい、素晴らしい力だ。

 此度、ついに最強の座は塗り替えられた。

 だが——だが、ああ。私は、この幕引きを、私の追い求めた執着とは終ぞ、終ぞ思えぬままだよ——」


 極光に巻き込まれ、吉良ヒラカズは消滅した。

 ここに、元凶は滅び去った。

 札伐闘技を永きに渡って支配し、暗躍し続けてきた黒幕は、今まさに、現代の最強札闘士の手によって滅び去った。


 今度こそ、戦いは終わったのだ。


 


 ——だが、すでに。

 人工アビスカードを使用したことで、剣守カイリの精神は砕け散っていた。


「————、——————。——」


 ——その胸には、


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第四章、了。

第五章『決戦/札伐闘技フダディエイト』に続く。

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