第28話「THIS ILLUSION/螺旋の始まり」
——吹き荒れる嵐と雷にも似た凄まじき光。それらがようやく収まり、世界は元の静寂を取り戻していく。
そこに、浸蝕結界の姿は残っていない。カード諸共に。
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ターンプレイヤー:剣守カイリ
手札:2
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『
AP2500 → 5000
//浸蝕結界、崩壊//
プレイヤー:吉良ヒラカズ
手札:4
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『アヤカシラセン-シュテンドウジ』
AP4000
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——ついに判明した黒幕の正体。それは、カザネたちの担任教師・吉良ヒラカズだった。
社会科教師は仮の姿。その真の姿とは、千年ほど前に札伐闘技で勝利し——実質的な不死者となり、己が基準でその後の札伐闘技勝利者たちを葬ってきた裁定者であった。
「——月峰たちの様子を見るに知己のようだが、いや、俺も知っているぞ。
貴様、経済界にも政界にもいたな?」
「そうとも。警察にもいたよ。他にもいくつか席はある」
「それらは全て、札伐闘技を円滑に進めるための必要経費か?」
「——然り。手段以外に、もはや意義と意味を持ち合わせていない。それらの価値は、既に咀嚼済みだからね」
冷めた目で、空虚な笑みを浮かべつつ吉良は答えた。
「——アヤカシラセン、それがお前の真なるデッキか」
カイリは、アカシックZeroの影響が消え、書き換え前の姿に戻ったセンチネルに視線を移しながら問いを投げる。
「如何にも。いやしかし、アヤカシラセンを召喚するのは本当に久しぶりだ。800年は出してなかったんじゃないかな。しかも今回は浸蝕結界をカードごと完全に破壊されてしまった。
——素晴らしいよ、凄まじい才覚だよ
——だが、足りない」
吉良は目を鋭く細めながら一枚のスキルカードを手札から発動した。
「私は手札より、シュテンドウジを対象にスキルカード『螺旋術式-戦心隆起』を発動。
これにより、シュテンドウジのBPをこのターン中倍化させ、そして相手のセンチネル一体と強制戦闘させる」
スキルカードの起動により、大きな瓢箪を持った鬼のセンチネルはその筋肉を活性化させ——猛烈な速度でキング・ギルガメッシュへと突貫する!
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『アヤカシラセン-シュテンドウジ』
AP4000 → 8000
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「大人しくやられると思ったか!
スキルセンチネル『
奇遇だな吉良ヒラカズ! 酒呑童子には源頼光の力よ! 通常であればセンチネル一体のAPをこの戦闘中のみ1500上昇させる効果だが——敵が怪異属性を持つ場合、その上昇値を相手センチネルのAP分とすることができる!」
これにより、魔を斬り裂く刀を手にしたキング・ギルガメッシュのAPは劇的な上昇を見せる。
その値、AP13000!
戦闘は一瞬のものだった。それぞれが必殺の一撃を狙っての軌道を描いていたためである。
実際の戦闘であったならどうなっていたかわからない。だがこれは、どうあれカードゲームのフォーマットに落とし込んだ戦闘。ゆえに、どれだけ互いが捨て身の攻撃をしていたとしても、打点が上回った方が一方的に勝利する。それには変わりない。
いずれにせよ、決着はついた。
王が勝ち、鬼は敗れ——控えに伏す。
そうあるべきだった。
「————何?」
シュテンドウジは場のどこにもいない。控えにすらいない。もう盤面のどこにも存在しない。
シュテンドウジは、デッキへと還っていた。
「——『アヤカシラセン』の共通効果が発動したのだよ。彼らは遺伝子めいて相剋する螺旋の中に身を投じ、無限に循環する。彼らは破壊されても控えへ戻ることはなく、デッキに戻りシャッフルされ——そしてその処理後、私は手札から新たな『アヤカシラセン』を召喚できる」
「リソース循環デッキ……!」
「尤も、彼らは場に一体しか存在できない制約があるがね。……まあとはいえ、この状況でなら君を倒すには十分か。
——『アヤカシラセン-カシャ』を召喚!」
——それは大地を削る車輪の音色。
獄炎をその身に纏い、四つ脚と車輪が炎の轍を刻み込む。
魔炎の獣が、盤面を燃やす。炎獄の轍が、浸蝕結界を擬似展開する。
「『アヤカシラセン』は、『アヤカシラセン』の効果で召喚された場合、それぞれの固有効果を発動する。『カシャ』は、場のこのカードのAPを1000上昇させ、それ以外のAPを500下げるというものだ」
「合わせて1500の開きか。まあ良い、なんとでもなるさ。——ターンエンド」
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ターンチェンジ
ターンプレイヤー:吉良ヒラカズ
手札:3→4枚
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『アヤカシラセン-カシャ』
AP3500 → 4500
プレイヤー:剣守カイリ
手札:1枚
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『キング・ギルガメッシュ』
AP5000 → 4500
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——カードゲームにおいて、リソースとは命に近しいものである。
これが尽きない限りはまだ勝ちの目は残り、逆にこれが尽きた時こそが終幕の引き金となり得る。
手札や盤面をはじめとしたカード一枚一枚がそのままリソースとなるカードゲームにおいて、それらをいかに維持するかが勝敗に大きく寄与することは言うまでもないことだが、仮にそれらが無限に循環し続けることができるのだとすれば——それだけ勝利への道筋が克明なものとなるのは明白である。
——そして、それをほぼ完全に可能としたのが、【アヤカシラセン】であった。
「さて。同じAPを持つセンチネル同士が戦えばどうなるか、知らない君ではないね」
「当然だ。相打ちとなり双方控えへ破壊状態で置かれる。本来ならな」
次に訪れる展開を踏まえた回答をし、カイリは次ターンの段取りを練り上げる。
「剣守カイリ。そこまでわかっていながらまだ次のターンが来ると思っているというのは——実に心踊る状況だ。わかっていると思うが、」
「相打ちであろうともアヤカシラセンならば即座に後続を召喚できる。そうだろう? そしてそれで俺に直接攻撃する。わかっているさ、そんなことはな」
「だとしたら君は一体——そうか、私のターンでも動くか!」
瞬間、キング・ギルガメッシュが再び嵐を巻き起こす!
「破壊効果は互いのターンに発動できる! 獄炎のアヤカシよ、時空斬撃により消え去るがいい——!」
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そして、音もなく斬り裂かれる火炎のアヤカシラセン。当然効果が発動してデッキへと戻るが、王には傷一つ与えること能わず、ただ手数を晒し、後続へと繋げるのみ。
「……いやはや、なんともはや。容赦がないね剣守カイリ。だが、それでいい。進化に至れなかった私を超える者こそが、果てを見出す逸材となる。私はそれを望んでいる。だから、ああ——故にこそ。
——この一撃で落ちぬことを祈るよ」
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ターンプレイヤー:吉良ヒラカズ
手札:3枚
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『アヤカシラセン-マガイタチ』
AP3000
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そこには、禍々しい漆黒の竜巻をいくつも随伴させた、漆黒の影じみたイタチのようなセンチネルが現れていた。
「マガイタチはカマイタチに非ず、我が心象が生み出した必殺のアヤカシ。
その特殊効果により空間を斬り裂き、相手センチネルをそこへ封じ込める」
「何——!?」
マガイタチの巻き起こした斬撃により空間の亀裂が生じ——王がそこへ吸い込まれていく!
「……これで詰みだと言いたいね。さらに手札からスキルカード『螺旋術式-疾風迅雷』を発動。このターン、アヤカシラセンは魔なる力で加速し、君のスキルカードを受け付けない。
——今度こそ、終わりだ」
マガイタチが吠え立て、周囲の暗黒旋風が一斉にカイリめがけて斬りかかる!
手札はあるが、それではマガイタチを止めることはできない。ゆえに——ゆえにカイリはその斬撃を全て甘んじて受け、そして——
「——EXスキルカード、発動」
「————何?」
敗北という道理を捻じ曲げていた。
「——浸蝕結界、変質発動。
俺の技術では結界そのものは作れなんだが、だが、この状況ならこれが答えだ」
——『浸化-アビス・インベイション-』——
人工の深淵が今、盤上に解き放たれた。
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次回、『disillusion/冥界王』
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