第27話「クリムゾンアイズ/Zeroを切り裂く」
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『
AP4000
種別:アブソーブセンチネル
召喚条件:『滅星』センチネル4種類
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あの状況で——全てのセンチネルが戦闘破壊された状況で、AP4000の大型センチネルが召喚されること——それを予期していなかったわけではなかった。
だが、そのセンチネルの暴威は、これからだった。
——石塔の巨人、その背後にて輝く
「——トラペジウムの特殊効果を発動。このセンチネルの持つ四つの『
「————カレンの敗因はこれか」
「然り。彼女は傷心の身でよく戦った。
だが——あの特殊勝利攻撃は、この星罪障壁の前では逆効果だったということだ」
星罪障壁は、相手のセンチネルとスキル、その種類を問わず、あらゆる攻撃をそっくりそのまま跳ね返すバリア。それゆえに、九回目の攻撃後に勝利が確定する効果を帯びた九撃目を跳ね返せば、それは仮面の黒幕に勝利を齎す攻撃へと転じるのだ。カレンは九撃目を反射され、敗北した。
ライブラリアンSOBが反射攻撃で倒されたところで、すぐさまカイリの敗北には繋がらない。カイリの持つカードは、ライブラリアンSOBを除いた他の全てが——センチネルカードとスキルカードの性質を併せ持っている。
ゆえにライブラリアンSOBが破壊されたとしても、手札から新たなスキルセンチネルを召喚すればそれでやり過ごせる。
(——だが、やり過ごせるだけだ)
カイリはそう独白する。
ライブラリアンSOBに迫る反射攻撃。その刹那の間にて、カイリは思考を巡らせる。
(そもそもの話——なぜそのままトラペジウムで攻撃してこないのか? AP4000あれば問題なくライブラリアンSOBを破壊することは可能なはずだ。だがそれをしなかった。それはなぜか?
——簡単な話だ。
俺が迎撃手段を持っていることを察知している)
カイリの手札には、トラペジウムを突破し得るカードが存在している。だがそれは攻撃カードである。そのため星罪障壁を突破することはできない。如何なる貫通カードであろうと、そもそも反射されてしまうのではどうしようもない。加えて——
——浸蝕結界が健在というイレギュラー。
カイリがルールの穴を突き、カードの解釈を広げることで突破したかに見えた浸蝕結界だったが、仮面の黒幕もまた効果の応用によりそれを回避した。
——プレイヤーの復元効果を浸蝕結界そのものへ使用したのだ。あの復元能力はあくまでもカードテキストなのである。
これにより、『浸蝕結界/アカシックZero』は破壊状態から復元。同じプレイヤーに対して復元効果を使えなくなったことで、仮面の黒幕はカイリとの札伐闘技での敗北は許されなくなったものの、有利な戦況を維持することに成功していた。
以上の状況を確認したカイリは、おおよそのギミックを把握——迂闊な迎撃手段及び手数のフィールドへの露出は危険と判断。しかしある程度の回避策は必要——とここまでわずか0.01秒で判断し、そして手札からスキルセンチネルを一枚発動することを決定した。
「俺は手札よりスキルセンチネル『
これにより、ヘクトールの投擲すら防いだ伝承を再現し——それを以てライブラリアンSOBへの反射攻撃を防御する!」
瞬間。場には巨大な盾の形をしたビーム状のバリアが展開される!
これにより星罪障壁による反射攻撃を防ぎきり、ライブラリアンSOBは盤面に止まることに成功した。
「——ふむ。あくまでも剣の司書を場に留め置くか。よかろう、私も星の歴史を愛する者として、その選択に敬意を表しよう」
「勝手に言ってろ。ターン終了時、ライブラリアンSOBの効果で捨て札状態となったスキルカード全てをデッキに戻す。
——そう、当然、センチネルカードとして射出したカードもスキルカードの性質を持つため回収されるわけだ」
そしてデッキへと戻っていくスキルセンチネルたち。半永久的に循環するリソース。これこそが剣守カイリの持つ【
そもそも、本来なら先ほどの攻撃で勝負が決することがほとんどであり——この先の展開を目にした者は現在に至るまで誰一人として存在しなかった。
「俺はこれでターンエンド。
やってみせろよ黒幕。手札0枚、そこからの巻き返しをな」
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ターンチェンジ
ターンプレイヤー:仮面の黒幕
手札:0→1
控え:なし/残り枠4
場:『積滅星トラペジウム』
AP4000
星罪障壁:3/4
//『浸蝕結界/アカシックZero』展開中//
プレイヤー:剣守カイリ
手札:3
控え:なし/残り枠4
場:『ライブラリアンSOB』
AP1000
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「圧倒的vs圧倒的の限界バトルすぎない……?」
「言い回しは意味不明だが言いたいことはよくわかるぞカザネ。この戦い、単純なカードパワーで言えばおそらくトップクラスだ」
あまりの高速環境な攻防に言葉を失いかけるカザネと、その上であくまでも冷静に——いずれはこの内のどちらかと戦わなければならないと、デッキの弱点を探しているカナタ。
観戦者であろうと札闘士である以上、こうして盤外でさえも戦いは既に始まっているとさえ言えた。
——とはいえ、カザネとて最早戦いの素人というわけでもなく——
「——でもこれなら、私にも勝ちの芽はある」
おそらくカザネ本人さえ無意識の内に、盤面全てを俯瞰した上で、彼女はそう口にしていた。
◇
「——私のターン、ドロー。
剣守カイリ、君は言ったね。ここからの巻き返しと。
当然できるとも、浸蝕結界の効果を起動!」
起動宣言とともに、再び——黒幕の手札が書き換わる。
「私は手札よりスキルカード——『CLEAR FLAME-空の器-』を発動。これにより、私はデッキから——効果を持たないAP0のセンチネルを5枚まで手札に加える」
一見、意図不明のカード。本来ならなんらかのコンボパーツである手札増強カード。だが、このデッキであればそのドロー枚数は本来の挙動よりおぞましいものと化す。
「……次の貴様のターンとはいえ、6枚の手札が新たな必殺コンボに変換され得るということか」
「——些か時間はかかってしまうが、今はこれが確実なのでね。トラペジウムを突破できなければ、その時点で君の敗北が確定すると断言しよう。ゆえに——
——ゆえに、私はこれでターンエンドだ」
——カイリを舐めているわけではない。それはすでにわかりきっていたことである。
ここで迂闊にトラペジウムが攻撃を行った場合、カイリは更なる迎撃札を使用して二つ目の星罪障壁を削り取っていた。
既に四連星の内一つが光を失っている。ここで残数を2にできていれば、カイリのデッキパワーと本人の技量でトラペジウム撃破は現実的なものとなっていた。
だがそれを、かつての勝利者である仮面の黒幕が気づかないはずもなく——結果として、このターンは確実な勝利のための溜めに使用したのだった。
慎重かつ堅実——そして確殺の構え。その全てが揃った難敵。それを前にカイリは——
「——ゆえにこそ、俺はこのドローで勝ちを引く……ッ!」
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ターンプレイヤー:剣守カイリ
手札:3→4
控え:なし/残り枠4
場:『ライブラリアンSOB』
AP1000
//『浸蝕結界/アカシックZero』展開中//
プレイヤー:仮面の黒幕
手札:5
控え:なし/残り枠4
場:『積滅星トラペジウム』
AP4000
星罪障壁3/4
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カイリとて理解していた。
——このターンで盤面を捲り切らなければ敗北すると。
だが先刻までの手札では一手足りなかった。星罪障壁全てを破壊するに留まり、トラペジウム撃破までには至らなかった。しかしそれは先刻までのこと。
この時点で手札にいなかったということは、デッキ構築段階から逆算して——このターンのドローで、必要なカードへアクセスする手段は十分にあった。
——そしてそのカードは、今まさに彼の手中に収まった。
「俺はライブラリアンSOBの特殊能力を起動。手札の枚数——つまり四枚、デッキトップを捲り……その中のセンチネルカードのAP合計を自由に振り分け、相手センチネルへ射出する!」
瞬時に剣状のエネルギー体4本に再構成されるSOBたち。
AP3000はあくまでもカードにこめた精神エネルギーでしかなく、それらの固有効果こそが彼らの持つ本来の力。射出の際はあくまでもエネルギーの射出に他ならず、そしてただのエネルギーであるが故に、エネルギーをシェアしつつ、ステータスを振り直すことが可能となる。
一の剣——SOB-シグルド AP4000
二の剣——SOB-ベオウルフ AP4000
三の剣——SOB-ジークフリート AP4000
空の剣——SOB-ササキコジロウ AP0000
合計AP12000
——APが0となった刀とて無意味ではない。そこにあった3000の力がAP4000の三連撃——いや、同時の三太刀に続くのだから。
「星罪の壁よ、今こそ斬り裂かれよ!! ライブラリアンSOBの特殊攻撃——『ワイドスクリーン・ソードレイン』!!!」
「——トラペジウムの特殊効果により、星罪障壁を全て起動させる。受け止めよ、星の光で!」
伝承の剣と盾がぶつかり合う。壮絶な炸裂と爆散の果てに、石塔の巨人は、ついにその防御能力を失った。
しかし、そのAPは依然として4000。生半な火力で突破できる領域になど、もとより存在していない。
だがそれを踏まえた上でカイリは——
「——行くぞ、ダメ押しのもう一発だ」
——先刻までは、一手足りないと分析していたのだ。
「スキルセンチネル『SOB-ダビデ』を発動。
これにより、このターン4回以上戦闘破壊されていないAP3000以上のセンチネル一体を——破壊する」
——そのための、四つの剣。
——そのための、障壁破壊。
——そして放たれる五発目の投石。
それは、石塔の巨人を一撃で沈黙させた。
「積滅星トラペジウム、撃破!」
爆散していく石造りの巨人。バベルの塔めいたそれの崩壊により、盤面は新たなフェイズへシフトする——。
「やむを得ん。私は手札よりフィールドに、『クリアダスト-アイン』を召喚する」
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『クリアダスト-アイン』
AP0
テキスト:無色透明の塵が凝縮して生まれ落ちた生命体。力はないが、その潜在能力は計り知れない。
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——本来ならなんらかのコンボパーツであろうセンチネル。だが今は、ただの壁としてただただ佇む。
——その上で、四枚、次のターンで五枚。必殺コンボの変換カードが温存されている。
であれば、カイリの取る択は、彼の脳内で既にただ一つとなっていた。
「——そうは問屋が卸さんのだ!
俺は、ライブラリアンSOBを破壊状態にすることでこのEXスキルセンチネルを手札から召喚する——
原初は混じり、そして分たれ、かくして彼の王は君臨する。
——来れ、黄金の王!
『
それは雷か、火炎か、はたまた陽光か。
黄金色の光を纏いし、剣の書庫——その真の主人が今まさに降臨する。
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『
AP2500
種別:EXスキルセンチネル
召喚条件:ライブラリアンSOBの破壊
効果:ゲーム開始時の時間軸から、現在のフィールドに存在するカード一枚を破壊し、このセンチネルのAPを倍化する。
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——開示されたカード情報、そこに記されていた効果は、常軌を逸していた。
「黄金王は人類最古の叙事詩に刻まれし存在。よって——あらゆるカードより先に効果を発動できる」
瞬間、黄金王の身体から凄まじい濃度のオーラが迸り——、浸蝕結界が、切断される。
「斬撃効果の名は——『時空斬撃/
そして、浸蝕結界が破壊されたことにより、その効力が失われ、仮面の黒幕のカード全てが書き換わる前の姿へと戻っていく。
同時に、黄金王の時空斬撃——その衝撃で、仮面の男の姿が顕になる。
「……カナタ、あれ——」
「……なるほど、初めから筒抜けだったということか」
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ターンプレイヤー:剣守カイリ
手札:2
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『
AP2500 → 5000
//浸蝕結界、崩壊//
プレイヤー:吉良ヒラカズ
手札:4
控え:破壊状態1/残り枠3
場:『アヤカシラセン-シュテンドウジ』
AP4000
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「——いやはや、素晴らしいね、此度の戦いは。
千年ぶりに滾ってきたよ、柄にもなくね」
男の名は吉良ヒラカズ。
カザネたちの担任教師という姿は、現代を生きるためのロールプレイに過ぎず、その真の姿は、千年の時を生きる、札伐闘技の勝利者である。
この時点を以て、ついに全ての役者は揃った。
ここからが真の戦い、その始まりなのだった——
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次回、『THIS ILLUSION/螺旋の始まり』
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