第26話「積滅星トラペジウムⅡ/咎有咎無スタァローグ」

/回想/


 ——ところで。剣守つるぎもりカイリの本名は蔓森つるもりカイトと言った。


“カイト、自転車に乗れるようになったのね!”


“カイト! 期末テスト総合点で学年1位か!

 よく頑張ったな!”


 それなりに裕福な家庭で育った彼は、根の優しい、穏やかな少年へと育って行った。


“カイトが好きな料理は何かしら?”

“僕は母さんが作った料理ならなんでも好きだよ”


“カイト!”

       “カイトっ”

    “カイト様!”

             “カイトくん”

  “カイト。……うふふ”


      “カイト——”



「やかましい! 鬱陶しいぞ貴様ら!!

 凡百の雑種風情がこのオレに気安く話しかけるでない!!」


 ——高校生のある日、彼は王に出会った。


 具体的に言えば、ちょうどテレビアニメが放送され始めた『Fate/Zero』……そう、月峰カザネも好きな『Fate/stay night』の前日譚である。

 そのFate/Zeroに登場する黄金の王——英雄王ギルガメッシュ。彼のその圧倒的な底知れない王気オーラに、カイト少年は魅了——というか圧倒された。


“なんだこの傲慢かつ慢心かつ冷酷かつ天上天下唯我独尊かつ黄金な王は!?

 時に宴会の席で考え方の違う相手に嫌な絡み方をしてくる困った王であるかと思えば、ひとたび認めた相手には最大限の賛辞と共に圧倒的な力を以てその王威を示す絶対王者であるかと思えば、その翌週の回には主人公兼本編ヒロインになんかびっくり仰天な発言をし始める英雄王っていうかAUOかつラスボスな王出会ったりするこの王は一体なんなんだ!?”


 カイト少年は、この時まさしく彼の運命に出会ったのだろう。

 Zeroのアニメを見終わる頃には、Fate/stay nightのコンシューマ版を購入していたし、当時の最新機種に移植版が出ると聞いて「もう買っちゃったが!?」と叫んだし、外伝ゲーム『Fate/EXTRA CCC』で英雄王がプレイアブルだったためものすごくテンションを上げていた。


 ——そして大学に進学すると、彼は髪を金髪に染め、黒いライダースを着込み、天上天下唯我独尊な態度をとり孤立しかけ、「待て落ち着け俺は残念ながら英雄王ではない。贋作者フェイカーになってはいけない」などと思い直し、『英雄王に憧れる、ちょっと態度が俺様系なイケメン』となったのだった。この辺りで無事両親とも仲直りできたという。


 とは言え、憧れを捨てなかったということは、彼の心の中には常に英雄王の幻影が存在するということでもある。

 これが何をもたらしたかと言うと、彼に黄金の前進エネルギーをもたらした。


 彼は、

「今の俺は英雄王を見る権利があるのか?」

「今の俺の選択は、英雄王の愉しみ足り得るのか?」

「俺の行動は、在り方は、英雄王が認める人類の在り方なのか?」


 そのようなことを常に自問自答し続け、そしてその凄まじい自己研鑽の果てに、三十路手前にしてベンチャー企業『ツルギモリコーポレーション』を超一流巨大企業にまで成長させていた。


 その間、わずか五年である。


 その途中で、業界ネームとして剣守カイリを名乗り始めた。カイリは本名のカイトと、英雄王が持つ最強の宝具『乖離剣エア』の『乖離』部分を併せたネーミングである。


 つまり、カイリにとって指針は常に英雄王ギルガメッシュということである。彼ならどうするか。彼なら何を思うか。そう考えた上で、——カイリはそこまで考えていた。

 彼の王は、ただの追従を認めてはくれないだろう。その時代時代で、己の心身双方で全力を真っ当できるかどうか。おそらく王はそこまでを求めるだろう。カイリはそう考えていた。ゆえにカイリは常に強くあった。肉体面、頭脳面だけでなく、心も強くあった。どんな状況でも負けない、圧倒的な存在になろうとしていた。


 だからこそ——彼は千年の時を生きる黒幕相手にも、強者の戦いを繰り広げることができていた。


/回想終わり/



 ——砂煙、否、これは硝煙か。

 剣守カイリのセンチネル『つるぎの司書-ライブラリアンSOB』の特殊能力によって、仮面の黒幕の盤面は壊滅した。


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ターンプレイヤー:剣守カイリ

手札:5枚

控え:0体/残り枠4

場:『ライブラリアンSOB』

   AP1000


//『浸蝕結界/アカシック・Zero』展開中//


プレイヤー:仮面の黒幕

手札:0枚

控え:破壊状態4体/残り枠0

場:なし


------------


 戦況は圧倒的にカイリの優勢であった。もはや仮面の黒幕に出せるカードはなく、AP1000のライブラリアンSOBの直接攻撃でゲームエンド。この状況を覆せる方法など、今回の札伐闘技では一度たりとも存在しなかった。


 カナタの持つ『■化-リミテッド・アビスフォール-』は敗北を一度だけ無効にできるカードであるが、あのカードも手札に加わっていなければ発動することは不可能である。

 人の身である限り、例え不死の札闘士となろうとも、ルールの範疇を大きく逸脱したカードの生成はまず不可能に近い。


 特異な精神性ゆえに蘇生のカードを得た沖田シゲミツという例もあるが、彼が手にした『浸蝕結界』のカードはあくまでも【深淵の願望器】からの借り物に過ぎない。


 また、あのプレイヤー蘇生効果も、厳密に言えば——

 基本的に、センチネル以外を破壊する状況をカードプールであるがゆえの、絶対的な権限であると言えるのだ。


 そしてそれを、いつかは沖田とも戦わねばならないことを理解しているカイリが知らぬはずもなく————


「名も言わん黒幕よ。お前もまた、深淵の力で逃げ延びることが可能なことなど目に見えている。ゆえに俺は、


 そしてカイリは、手札より奇妙なカードを発動した。


「俺は手札より、

 ——を発動」


 その手には、『SOBソード・オブ・ビブリオンラグナロク』と記されたカードが掲げられていた。


「俺の持つカードは、ライブラリアンSOB以外全て——

 戦闘能力を有するスキルカードならば、スキルカードに対しても攻撃が行える。

 


「——ふむ。浸蝕結界を破壊できるカードは確かに存在しない。出力で他のカードに勝る結界は、通常ならば破壊できない。

 だが——例え屁理屈であろうと、君の心が『破壊可能』と納得したのならば、そうだな。結界の破壊は


 ——カイリの解釈開示に対して仮面の黒幕が了承を返したことで、『SOB-ラグナロク』が起動する。


「最終戦争の名を冠する伝承剣よ、今その戦いの記録を具現化し、この戦場に黄昏を齎せ!

 効果発動! これにより、お互いに場のセンチネルを一体ずつ選び——!」


 それはラグナロクを生き延びた者たちの再現か。お互いのフィールド、その中心に巨大な樹木が出現し、ライブラリアンSOBはその中へと避難する。

 本来この効果は仮面の黒幕にも適用される。だが、。耐えるも何もなかったのだ。


 ——そして黄昏は終わり、フィールドに剣の司書が、舞い戻る。


 今度こそ、決着の時が迫ろうとしていた。


「——詰みだ。ライブラリアンSOBで、プレイヤーに直接攻撃。

 ——『ノウレッジ・スレッジハンマー』!」


 ライブラリアンSOBの持つ杖、その先端に鈍器のような厚みの本が数冊吸着していき、巨大なハンマーの様な姿になる。それを両手で掴み、振りかぶり——黒幕へ向けてトドメの一撃を炸裂させる!


 ——迸る衝撃。だが。


「————何?」


 その攻撃は、


「咎人よ。星に焦がれ、天へ向かい石の塔を積み上げ続けた咎人たちよ。今その罪ごと滅びる時だ。

 心の進化に至らぬまま、それでも天を目指すのならば、四連星トラペジウムの試練を受けよ。

 そしてそれらを超えたのならば、汝らが築き上げたその石塔が、如何に罪深きものであるかを知るが良い。


 ——剣守カイリ。君が伝承を剣と変えるのならば、私は星に刻まれし記録を改竄アレンジし、組み替えてカスタマイズして、虚構の伝承として君の前へ産み落とそう。


 ——私が発動したのは『残火の滅星ほろぼし』の隠された効果。

 滅星全てが破壊状態の時、私の敗北が確定する寸前に発動する効果。

 その効果名を、『咎有咎無トガアリトガナシスタァローグ』。


 その効果により、四連星を結合させる——!」



 ——アブソーブ召喚。


 それは特定のセンチネル複数体を吸収、あるいは合成させて生み出す脅威のセンチネル。


 それは何も穂村カレンの専売特許ではない。

 星の記録を投影したデッキを持つ仮面の黒幕にとっても、馴染み深い召喚法であった。


 そしてそれは完全顕現する。

 四つの滅星ほろぼしを鎖で繋いだ石の巨人。穂村カレンの特殊勝利攻撃を、何らかの方法で攻略した凄まじき巨人。

 その名は——


「アブソーブ召喚。

 今こそ顕現せよ——『積滅星つみほろぼしトラペジウム』——!」


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次回『クリムゾンアイズ/Zeroを切り裂く』

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