第24話「決闘、僕らの都市/積滅星トラペジウム」
「あ、じゃあお客様方の席まとめますね♪
オーナーとお連れ様は、飲み物の他に何か注文されますか?」
「『スカーレッド・スーパー蕎麦』一つ。
カレン、お前は?」
「……あ。じゃあ『レッドパスタ・辛味噌』一つ」
「かしこまりました♪ ではすぐ用意いたしますので四人でご歓談してお待ちくださいませ♪」
——突風だった。突風の如き展開だった。
私とカナタのデートはしかし、突如暗躍チームとの顔合わせイベントへと変貌した。
ていうかそれはそれとしてですよ。
「カレン! あなた無事だったのね!? でもどうやったの? もしかして沖田先生ともグル!??」
私はカレンの両手をむんずと掴み、かなり嬉しさで涙ぐみながら質問ラッシュをした。
カレンはかなり困惑の表情を浮かべていたがしかし、観念したのか小さく頷いた。
「……そうなの。アタシと社長とせんせーはグル。社長の野望実現のために手を組んでたの」
「俺の野望みたいに言うな。人類のためだと言っとるだろうが」
『スターダスト・サイダー』を啜る合間で
口を出そうとする私だったけれど、先にカナタが割って入った。
「まるでお前たちが正義側かのような口ぶりだな。そんなにもお前たちの願いは高尚なものなのか?」
「すぐ分かれとは言わん。だが、そうだな。まあ聞いていけ。俺の願望はシンプルなものだ。
——【大穴】の下に座する願望器、そのシステムの掌握だ」
——大穴? 直後に出たワードから察するに、このクソ儀式の根幹のようなものなのだろうけど、何だっていうの?
「ちょっと待って。大穴って、この街の地下とかに儀式のシステム的なものが埋まってるってこと?」
「まあそうなるな。実際我が社で地質スキャンを行った際に発見しているし、そこに通ずるトンネルの開通工事中も絶賛進行中だ。
で、肝心の願望器だが——これは俺の推測でしかないが、超古代文明の遺した
待ってほしい。いきなり儀式の根幹情報を一気に浴びせてくるのは。
でも確かにそれらの情報は、カードデッキを手に入れた後流入してきた知識とも概ね合致する。信用に値する可能性はある。
ただ、カナタがその辺りをどう判断するか、なんだけど——
「大穴、谷底、いや……遡れば深淵か。俺も沖田も、すでに願望器と接触していると言うことだな」
「然り。だがお前たちはまだ認められたわけではない。ただその純粋さを気に入られただけに過ぎず、結局のところはこの儀式の勝利者になる他ない」
訳知り顔で会話するカナタと社長。カナタが妙な文字化けカードを手に入れたことは聞いていたけど、やっぱそこも根幹に繋がってくるんだ。
「話を続けるが、我が社の調べによるとこの儀式——札伐闘技は、流入知識とは些か状況が異なっている」
「お待たせいたしました♪ 『スカーレッド・スーパー蕎麦』と『レッドパスタ・辛味噌』お持ちしました♪」
ドスっと。赤黒い、最早地獄めいた料理が社長とカレンの前に置かれる。
それはまるでこの後の会話を示唆するかのようで。
「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「——ああ。全て揃った」
◇
——社長曰く。札伐闘技は本来、流入知識通り世界各地で行われていた。
だがしかし、それらのほぼ全てが既に、機能を停止してしまっていた。
理由は不明。確実にハッキリとしていることは、芸都の願望器だけは今も稼働し続けているという、状況を見れば当然のことだけであった。
「でだ。理由はわからないにせよ、他のエリアで誕生した勝利者が異様な事象改変のような願望を叶えるという事態はまず起こらないのが現状。
となれば、俺はこの技術を簒奪し、人類のテクノロジーとして有効活用しようと言うわけだ」
「それって、あなたが願望器を独占するってことじゃないんですか?」
「たわけ。俺はそこまで利己的ではない。と言うか流石にやれることが多すぎて身に余るわ。俺自身の幸福は今までどおり自力で掴むわ。
今回の場合は、単純に願望器を商用利用して、ついでにこの一々死者を増やすふざけた儀式を終わらせると言っているのだ」
社長の願望は、思いの外私の願いと近しいものだった。まだ完全に信じていいのかはわからない。わからないけどそれでも、いざと言う時はこの人に託す方法もあるのかもしれない——そうとさえ思えた。だから、思わず言葉が漏れる。
「それって……」
「ああ。手を組まないか?
俺はそう言っている」
正直魅力的な提案だった。
仕組みは不明だけどカレンも無事で、もしかしたらこれ以上犠牲者が出ないままこのクソ儀式を終わらせることだってできるかもしれない。私は正直この提案に縋りたい気持ちが吹き上がりそうになっていた。もうこれ以上、フダディエイトで誰かを殺したくなんてなかった。協力者がいるのなら、その人物が手を組まないかと提案してきているのなら、私はそれに乗りたいと、そう思い——
「カザネ。俺はこの提案には乗らない。信用に足る情報が足らなさすぎるからな」
そして、カナタに遮られた。
「え、カナタ——?」
「ほう。確かに推測混じりとはいえ、そこまで穿った内容でもないと思うんだが?」
社長の言葉に、カナタはフンと鼻を鳴らしてこう続ける。
「単純な話だ。
俺の願いにとって、お前がカザネを籠絡することは邪魔でしかない。ただそれだけだ」
カナタの、願い。
そういえば私もまだちゃんと聞けていない。でもそれに、その願いに、私が関わっている……?
それについて思いを巡らせたいけれど、状況がそんな悠長なことを許してはくれない。
「ならば交渉は決裂か? 月峰カザネ、お前はどうする?
ああ安心しろ。別にお前の母親を人質に取るような真似はせん。俺はあくまでもルールに則って、フダディエイトで勝ち残るスタンスだからな。実際、これまでもお前の素性を把握していたが、何も邪魔立てはしなかったわけだからな」
その上で、再度「どうする?」と。剣守カイリはその鋭い眼光で問うてくる。
——その隣で不安そうな表情を浮かべるカレン。どういう出来事があったのかわからないけれど、彼女はどこか憑き物が落ちたような、そんな雰囲気に様変わりしている。あれはもう戦いができる状態じゃない。私は、今度こそ彼女と友達になることだってできるかもしれない。
けれど、けれど私は、私は——
「……ごめんなさい、社長、カレンちゃん。
私は提案に乗れません。私はやっぱり、カナタの選択を、信じたい、です」
それでも私は、カナタを忘れることなどできなかった。
◇
“ごめんねカレンちゃん。一緒に組めなくて。
でも、無事でいてくれて、ありがとう。碌に分かり合えないままお別れだったから、悔やんでも悔やみきれなくて、ね……”
帰り際、カザネ先輩に声をかけられた。
正直もう何をどう返答したのかもそんなに覚えていない。
アタシが今更何を言ったとしても、カザネ先輩にとっては気休めにしかならないだろうから。なんて、どこかまだ素直になれなかっただけかもしれないけど……。
カザネ先輩とのフダディエイトに負けた後、深淵の力で復元されるまで、アタシは死んでいたのだろう。死後の世界というものがあるのかまではハッキリとはわからなかったけど、復元によって意識が戻ってくるまでは、なんとなく安らぎを感じていた。それが、現実に引き戻されて、それでまた、弟妹のこととか、あの死の恐怖だとかを思い出して、こわくて、怖くて恐くて、やっぱりもう何もかも、キャラも何も取り繕えなくなって、
“本当に、また会えて嬉しいよ、カレンちゃん——”
どうしてそこまでしてくれるんだろう。
どうしてアタシのために泣いてくれるんだろう。
どうして、アタシは長女なのに、この人はアタシのお姉ちゃんであるかのように抱きしめてくれるんだろう。
それで、ちょっとだけ恐怖も収まって。
また遊ぶ約束を、ついついしてしまって。
それで浮かれちゃったアタシは、嬉しさで火照った体を誤魔化すために、社長と別行動で脇道に入って、
それで、“そいつ”と出会って————
◇
『
AP9999
プレイヤー敗北により、機能停止
『
AP4000
◇
眼前には
積み上がった石の巨人、その背後に輝く四つ星。
ああ、この敵はきっと、ずっとアタシたちを試していたんだ。
そういえば社長が前に言ってたっけ。
——歴代の勝利者たちは、一体どこに消えた?
って。
「——穂村カレン。ここまでよく戦った。間引くには実に惜しい逸材だった。
君にあと少し、星を掴む意志があれば、また違った結果があったかもしれないね」
どこか優しく、でも冷酷に、ローブと仮面を付けたそいつは語る。
でももう、アタシには、仰向けで灰色の空を見つめる以外にできることなんてなかった。
——ごめんねカザネ先輩。
仲良くしようとしてくれたのに、アタシ、約束守れそうにないや。
あめのおとが、きこえる。
あめのおとしか、きこえない。
そうして
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次回、『スペシャルズ/ソード・オブ・ビブリオン』
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