第3話「プロローグ/疾風の刃」

【前回のあらすじ】

 武装カードを用いた見事なコンボでローブマンを撃破した神崎カナタ。観劇後のごとく感激するカザネだったが、札伐闘技フダディエイトが死のゲームであることを目の当たりにする。

 やるかやられるかのデスゲーム、それへの向き合い方に逡巡するカザネ——その前に、新たなローブマンが現れ、大型センチネル『ダーク・ベルセルク』を召喚した。



ターンプレイヤー:ローブマン

手札:2枚

控え:戦闘不能2体 残り枠2

場:『ダーク・ベルセルク』

   AP4500


プレイヤー:月峰カザネ

手札:5枚

控え:なし 残り枠5

場:なし



 相対するは巨漢のセンチネル。巨大な斧を携えた、寡黙なる狂戦士が私を確かに睨め付ける。

 ——その、圧倒的パワー。

 ……いやその、4500?


「話が違うじゃないのよ!!!!!!!!」


 なんていうか威圧感がどうこうではなかった。おかしいじゃんだった。


「ちょっと神崎くん! あれおかしくない!? ズルじゃん4500って! 普通どんだけ高くて3000(MAX!)なんじゃないの!!?」


 いやもうただただそれだけだった。いきなり例外をぶつけられたので、まあまあブチギレていた。別に神崎くんは何も悪くないんだけど、それはそれとしてたぶん彼なら良い感じの回答を用意してくれていると、そんな風に思ったのだ。思ったので、——正直もうちょい冷静に聞きたかったんだけど——だいぶ規格外の火力について一言物申したのでした。


 で、神崎くんの回答はというと——


「驚いたな。俺も初めて見た」


 初見だった。

 嘘だろ……? じゃあホントに情報なし……?


 などという私のモノローグなど予想の範囲内だったのか、神崎くんが続けて話す。


「だが。素のステータスでこの規格外のAP、召喚条件の重さも踏まえて、なんらかの制約効果を持っていると思われる。いわゆるデメリット効果というものだ」

「デメリット……あー、すごく強い代わりに5ターンぐらい調子が上がらなくて動きとかが鈍るみたいなやつね?」

「例えの参照元はよくわからんが、概ねそうだな。強すぎる力には、それに釣り合う重りがある——ということだ」


 なるほど。そうなってくるといくらか勝ちの目も見えてくる。いきなり4500かよってなったけれど、まだ勝負はわからないってことね。


 などと気分を整え直したところに、ローブマンが割って入った。


「正解なので追加情報だ。ダーク・ベルセルクは攻撃時にワタシの手札を2枚捨てなければならない。使用後のスキルカードと同じく、いわゆる捨て札置き場というエリアに置かれる」

「お、殊勝な心掛けじゃないの。やっぱ強いだけに制約がクソ重いってわけね!」

「ちなみにダーク・ベルセルクの攻撃回数は、捨てた2枚の中の、センチネルカードの数となる」

「デメリットどこいったテメーーーーーッ!!」


 思わず叫んじゃった。増やすなよ、攻撃回数を。

 ——いや待て、待て待て。私は何か見落としている。捨てる手札の中のセンチネル数……つまり、それが0枚なら!


「月峰。捨てる効果は自分から攻撃する場合のみだ。手札にセンチネルがいない時、奴は攻撃などしない」

「え、エスパー?」


 読まれている? 私の思考が?


「読んでないぞ。わかりやすいだけだ」

「やっぱ読んでんでしょ!?」


 思わずツッコんでしまったけど、まあでもそうか。神崎くんは経験者。ならこういう状況で起こり得るケースと、その際の裁定が頭に入っていてもおかしくない。うん、やっぱり頼りになるわね!


 などというモノローグもお見通しだったようだ。


「そして、月峰には悪いがこれ以上の助言はできない」

「えぇ!? なんで!??」


 私の食い入るかのような懇願と狼狽に対してややのけぞりながら、神崎くんは続けた。


「いや、この先お前一人で戦わないといけないことだって普通にあり得る。ならば、可能な限り一人で状況を俯瞰して対処法を練ることもするべきだろ」


 ぐ、なんてグゥの音も出ない回答……!

 私は甘かった。いや神崎くんが厳しいんじゃなくて、不本意とはいえ私は今、ヤバめのバトロワに巻き込まれているんだから、独力での戦闘経験も確かに必要! うぅ、辛いけど、がんばるわ!


「まずはドローよ、ドロー!」


 デッキの上から1枚を手札に加える。

 ——あー。その、状況的の今初めて自分のデッキの中身を見たわけなんだけど。


 これはつまり、まあまあ趣味が反映されるってことなのね!?


「まぁいいわ。やってやろうじゃないの。

 ——私は、控えにセンチネル2体を待機させ、場に『疾風の刃 ウィンド』を召喚するわ!」


 私の宣言とともに、フィールドを疾風が駆け抜ける。その風は“それ”が巻き起こしたもの。

 戦場を駆ける一陣の風——


 その具現とも言える、


 『疾風の刃 ウィンド』

 AP2000


「それが汝のセンチネルか」

「そうよ。私はなんていうか、サムライって感じのキャラが好きだからね。こうなったみたいね!」


 趣味が明るみに出た感じがあるのですごく恥ずかしい気もしたけど、なんか想像以上にカッコいいやつ出てきたので全然大丈夫だったわね。

 おっしゃ、やるわよ!

 ——などと、意気込んではみたものの。


 いやこれ、どうやって戦えば良いの!?


 ウィンドはかっこいい刀も持っていてかなり強そうな感じだけど、とはいえAPは2000。AP4500を誇るダーク・ベルセルクを打破する手段が、現段階ではない。

 心の強さでどうとかって神崎くんが言ってたけど、それは実際にそうなのかもしれない。

 私の手札、その残りはいずれもスキルカード。そのほとんどが防御や攻撃回避のカードとなっている。

 私があのデカいセンチネルにびびった結果が、もしかしたらそのままドローに影響しちゃったのかもしれない。


 ——だとしたら、気を引き締めないと!

 デッキが応えてくれるかどうかは、マジで私次第なんだから!


 ——と、私が一人で意気込んでいると、ウィンドが私の方を見ていた。え何、そういうファンサとかあんのこのゲーム?


 とか思っていると、脳裏を効果テキストがよぎった。

 ——ああ! ウィンドの特殊能力!


「行くわよ! ウィンドが場に出た時、私はカードを1枚ドローするわ! 『フォローウィンド』!」


 気合を入れてカードを引く。

 ——このカードは!


 いや、うーん、悪くないけど、たぶん


 悔しいけど、今は他のカードで凌ぐしかないか。


「今にみてなさいよ。とりあえずこのターンはこれでエンドよ!」


 ひとまず啖呵。何を持ってもまずは啖呵。口火を切って己を鼓舞する! 決して落ち着かないとかそんなじゃないわ!


〈ターンチェンジ〉


ターンプレイヤー:ローブマン

手札:2→3枚

控え:戦闘不能2体 残り枠2

場:『ダーク・ベルセルク』

   AP4500


プレイヤー:月峰カザネ

手札:4枚

控え:2体 残り枠2

場:『疾風の刃 ウィンド』

   AP2000



ターンが移る。ローブマンにもついに攻撃権が与えられる。捨て札の内——センチネルカードの数だけ、AP4500の暴威が迫る。

 こんなことで命がかかっているのがマジで嫌。せっかくおもしろそうなカードゲームなのに、なんで命をかけたがるかなぁ!?


「ワタシのターン、では始めよう。ワタシは手札2枚をダーク・ベルセルクに捧げ、その内のセンチネルカード——2枚分、ベルセルクへ攻撃権を付与する」

「——クッ、やっぱり2枚!」


 何ならデッキ全部がセンチネルカードな可能性も出てきた。デッキ構築ルールも流入知識にあったけど、


『デッキは札伐闘技開始時に自動で組まれる。

 ①:枚数は40枚。

 ②:同名カードは3枚まで。

 尚、己が精神との兼ね合いもあるため、深層意識や己の本質に近いカードほど投入可能枚数が減少する傾向がある』


 ってことしか記載がなかったのだ。

 ——つまりは、40枚全てがセンチネルのデッキな確率もメチャメチャ高い!


「では戦闘だ。ダーク・ベルセルクで、ウィンドを攻撃。『第一絶望・メイルシュトローム・メガスイング』……!」


 攻撃宣言と共に、闇のベルセルクが巨斧を力一杯に振りかぶった! それだけでものすごい風圧が襲いかかり、斧の回転による暴風は、まるで渦潮メイルシュトロームの様だ。


「——ていうかさぁ! 風属性ってこっちのカードなんですけどぉ! 専売特許を奪うなっての!」

「知らないな。これこそがダーク・ベルセルクの力の証。それゆえ文句は受け付けない」

「言ってろ! スキルカード発動!

 ——『ブレイドダンス-竜巻舞-』!」


 すかさず私はスキルカードスキカを発動! これによって、ウィンドは竜巻の様な回転を見せ、何なら空中できりもみ回転さえ見せ、控えのセンチネルと入れ替わった!


「来て! 『そよ風の刃 ブリーズ』!」


 私の声に呼応して、控えから飛び出したのはオレンジ髪の、小柄なサムライ。ところでこの子達は別にチョンマゲではない。


「主力を引かせて身代わりを出すか。だが、ああ、だがしかし! 消耗戦には変わりがない! どうするつもりだ月峰カザネ?」

「んなことはわかってんのよ! ブリーズはその軽やかな動きで、あらゆる破壊を一度回避する!」

「だが無駄だ。第二の太刀が! そよ風ごと絶つ!

 『第二絶望セカンド・ディサピア』!」


 迫る連撃! ただ荒ぶるだけではないのがベルセルク。その圧倒的な暴威の中にも、確かな技巧が垣間見える。


 一撃目を見事に避けきったブリーズ。けれど、彼が地面に着地する前に、ベルセルクが体を捻り——第二撃が直撃する!


「ブリーズ、破壊。さて、次の生け贄はどちらだ?」


 冷徹な声でローブマンが問いを投げる。

 生け贄? 冗談じゃないわ!


「私はウィンドを場に出すわ! 見てなさいよ! 次のターン、最強ドローを見せてやるわ!!!」


 ローブマンの手札は1枚。次のターンさえ凌げれば、逆にかなりの時間が稼げる。まだいけるわよこれは!


 ——なんて思惑は、ものの見事に粉微塵となった。


「ワタシは控えにて眠るセンチネルカード『ダーク・ディーラー』の効果を発動する」

「戦闘不能センチネルの効果を発動ですって!?」


 こいつ無法か!? これゲームなら、こんなふざけたチュートリアルないわよ! これ絶対全国大会優勝デッキとかでしょ! SNS潜ってるから素人の私でもなんとなく知ってるわよ! なんか初心者向けにいきなり強い感じのデッキが売られていることなんて!


「ワタシのデッキはダーク・ベルセルクに特化したデッキだ。……ゆえにこそ、その真価を発揮することに全霊をかける——!

 ダーク・ディーラーは、手札を全て捨て、その後2枚ドローする効果を持つ。『暗黒宝札』!」


 これで再び、ローブマンの手札が2枚となった。このままじゃ、じわじわ手札リソースを減らして勝機を伺う私の天才プランが実行できないわ!


「そして。手札に来たスキルカード『闇の反響-ダーク・エコー-』を発動。この効果により、

 ——

「インチキ効果すぎるでしょ!!!!!!!!」

 

 持ってやがったスキルカード! クソッ! 多少は入れてんのかよォ!


 ——もはや絶望とかそんなもんじゃなかった。ていうか始めからそうだった。人間、一定以上のストレスがかかると逆に感情が昂ってくるのかもしれない。少なくとも私はそうらしい。それでやたらテンション高かったのね。


 しかしまずい。これは、不味い。

 もう四の五の言っていられない。プランがどうとかどうでも良い。


 ——まずは、この状況を切り抜ける!


「行くぞ、第三撃。——『第三絶望・大惨劇ディサピア・キュービック』!」


 迫り来る圧倒的暴威。——なら、臆せず迎え撃つ!


「スキルカード発動!

 『キリステ・クロスカウンター』——!!」


 発動宣言により、ウィンドは居合斬りの構えをとる。どう足掻いても彼我の差は歴然。4500と2000とでは倍以上の差がある。ここでなんらかのボーナスモードダブルアップ・チャンスが発生したとしても、それでも尚、上回らない。


 ——それでも、やれることはある。

 ウィンドは、超かっこいいサムライなんだから!


 暴風と疾風が刺し違える。二つの嵐は止み、フィールドには静寂が訪れる。

 勝負の結果は——


「何——?」


 ——相打ちだ。


 共に斃れ、崩れ落ちるセンチネルたち。その現象こそ、先刻のクロスカウンターによるものだった。


「『キリステ・クロスカウンター』の効果。それは、自分バトルエリアのサムライを、というもの。確殺だけれど、負担も大きい。私だって極力使いたくはないわ」


 それでもやるしかなかった。ここを逃せば勝機はなかった。そう思えたのだ。


 最初の二撃で使用しなかったのは、次のターン、確実に相手の手札を抉りたかったから。でもそういうペースだと甘いってことなのかもね。かなりガチだわ、このゲーム!


「ともあれ——ダーク・ベルセルク、相殺!」


 いずれにせよ、これで難所は凌ぎ切った。次のドローに私は賭けたい。だから頼むから、これ以上は暴れないでほし


「ワタシは、控えに眠る『ダーク・コーラス』の効果を発動」

「————っ!」


 そんな! まだ何か手を!?

 これ以上は本当にプランが瓦解する……!


「ダーク・コーラスが地獄より奏でる闇の楽曲により、戦闘不能となったダーク・ベルセルクを蘇らせる」

「冗談じゃないわよ——」

「だが無条件に等しい蘇生効果ゆえ、デメリットもまた存在する。

 ——


 ——終わりだ。幾重にも巡らせた戦術が、ことごとく攻略されていく。蘇生したことで攻撃権がリセットされただけでなく、ダーク・ベルセルクの制約効果すら消滅した。

 効果無効は本来ならデメリットであったはず。けれど、ダーク・ベルセルクを主軸に据えたデッキは、それを逆に利用した。


 ——デメリットの踏み倒し。


 デメリット効果持ちのセンチネルに、『効果打ち消しデメリット』効果をかぶせることで——まるで負の数に負の数をかけて正の数へと反転させるかのようなコンボをかましてきた。敵ながら見事と言うほかない。言ってる場合か。

 でももう、後は——


「私は、控えから『荒ぶる刃 ゲイル』を召喚——」


 荒れた頭髪に荒れた服。ギザギザの刀は刃こぼれによるものか。APこそ2500あるものの、このカードが戦闘を行ったあと、私は手札全てをデッキに戻し、それより1枚少ない枚数ドローしなければならない。破壊回避カードを使う手もあるけど、それでもこのデメリット効果は発動してしまう。

 今よりも少ない手数で相手取れるのだろうか? 今手札を減らせば引けるカードは1枚きり。


 どうすれば良い? 私は今、何を選べば良い——?


「そのステータス。デメリットアタッカーだな。だが、ああ、それでは足りぬ。ダーク・ベルセルクには到底及ばぬ。ゆえにこそ、試練の終焉を噛み締めると良い。次のターンが、消灯の時だ」


 第四の絶望が迫る。

 最早この戦いに意味はない。そうとさえ思いかけたその刹那。


 ——え。


 私の眼前に立つゲイルが、私へと顔を向け、確かに目でこう言った。


 ——オレに賭けろ——と。


 何それ、何よそれ。笑いそう。

 私のアルターエゴ、勇猛すぎ。


 でもこれってつまり、私はまだ——心のどこかでってこと。


 なら、応えなくっちゃね!


「私はスキルカード『ブレイドダンス-ノレン・マタドール』を発動!

 この効果で、ゲイルは相手の攻撃を回避する!」


 闘牛士めいた軽やかな動きで攻撃を回避するゲイル。

 けれどその背後では向かい風が吹き荒れるデメリット効果が発動する


「私は手札を2枚デッキに戻し、捨てた枚数より1枚少ない枚数——つまりカード1枚をドローする!」


 まだよ。私はまだ、負けちゃいない!


「無駄な足掻きだ。だが、それでも興味深い。見せてみろ月峰カザネ。お前の、魂の輝きを!」


 吹き荒れる向かい風アゲインスト・ウィンドを越えて、私は未来を掴み取る——!


「来いッ!

 私の切り札マイティウィンド————……ッ!!」


 かくしてそれは、手中に現る。私の心が生み出した、私すらまだ知らない逆転の切り札。それは——


「————Evolution……?」


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次回「Evolution/シルバー・タキオン」

絶対見てくれよな!!

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