第2話「プロローグ/vsダーク・ベルセルク」
【前回のあらすじ】
時は平成36年4月。首都『
謎のローブマンに札闘士同士の戦い、『
◇
〈ターンチェンジ〉
ターンプレイヤー:神崎カナタ
手札:2→3枚
控え:戦闘可能1枚 戦闘不能1枚
場:???
プレイヤー:ローブマン
手札:0枚
控え:戦闘不能2枚
場:『ダーク・ワルキューレ』
AP3000
------
——ヤバそう。
などと、ものすごく雑で他人事のような感想を抱いてしまった私。でも、いきなりこんな超常現象みたいなカードバトルロイヤルに巻き込まれて、こんだけ冷静に状況を俯瞰できているだけでも褒めてほしい。
すごい先輩風を吹かせて、そして普通に親切で頼もしい神崎くんだったが、状況は本当にまずそうだ。
カードデッキに触れたことで得た知識、それらを記憶の引き出しを開け閉めしまくってざっと閲覧して見たけれど——AP3000は普通に最上級の打点を誇っている。どうも素のステータスで言えば、AP2000が標準的なもので、その上に位置するのが2500、3000と言ったラインみたい。
その中でも、強化なしの、素のステータスに限定すれば——AP最高値は3000だと言う。
——これはやっぱ、まずいんでは!?
流石に不安になった私は、思わず神崎くんの表情を見た。大丈夫かな? 雨に震える子猫みたいになってないかな? などと、そう思ったのだけど——
「——フン、おもしろい」
なんか、笑ってた。あれかな、逆境に燃えるタイプなのかな。
「俺の
——なんか、感情方面で高めの
——ていうか。
「神崎くん、その口ぶり——まだ逆転の目があるってことなのよね?!」
私の問いに、神崎くんは「当然だ」と返して、続けてこう宣言した。
「戦闘破壊された
場:『
種別:武装カード
「ぶ、武装カード!? なにそれ?!!」
そんなのさっきの流入知識にはなかったんだけど!?
「俺が心の力で生み出したカードだ。
——ソリッドハートは心の具現。ゆえに、己の内面理解を進めれば進めるほどに、カードデッキも強化されるというわけだ」
な、なるほど。カードは作ったってことね……。そういうのもありなんだ。
納得したところでもう一発、神崎くんは控えからセンチネルをバトルエリアに召喚した。
「来い、『
宣言と共に現れたのは、脚部に黄金色のバーニア装備を施された細身の黒騎士だった。——ていうか、私が勝手に騎士だと思っていただけでさ、これロボだね!
『
AP2000
召喚された
「
——具体的には、
『
AP3000
「だが、まだワタシのセンチネル——ダーク・ワルキューレ-ヴァルハランス-の攻撃力に並んだだけだ。残念だが、それでは刃は届かない」
それもそうだ。APが3000の大台に乗ったこと自体はきっとすごいことなんだけど、それでもローブマンが一手早かった。——足りない。これだけではまだ。
……でも、神崎くんがそんなことに気づいていないはずがない——。
「フン。そんなことなどわかっている。
——俺はここで
このセンチネルは、ホバー移動であらゆる悪路をも走破する。そう、常に高い速度を維持して動けるということだ」
「いやどういうことよ」
思わずツッコむ私。昔からツッコミ気質なのだ。
「これを効果に落とし込むと、こうなる。
——このカードは、ホバー移動による高速機動により、速度に乗せて強力な攻撃を与えることができる」
「もう一押し!」
まだちょっと! わかりにくい!!
「……そうか。ならはっきり言うが、『戦闘中のみAPを500ポイント上昇させる効果』を発動することができるということだ」
始めからそう言いなさいって! でもこれなら行けそう! とりあえずは、目の前の強敵センチネルを倒せる!
「バトル! 俺は
ホバー移動で縦横無尽にフィールドを駆け巡り、ダーク・ワルキューレを翻弄し尽くしたその瞬間、
闇のワルキューレは、再び地へと堕ち伏した。
「ダーク・ワルキューレ、撃破!」
砂煙舞い散る中、それでもなお、ローブマンは静かに佇む。
「
「あるはずがない。ワタシは汝らを試す者。汝らの可能性を、可能な限り引き出さねばならぬ。
——ゆえに。次のターンに、ワタシは再起しよう」
ローブマンの発言の直後、地に伏したダーク・ワルキューレの中から、2枚のカードが溢れ出る……!
「あれって……センチネルカード!?」
「正解だ、月峰カザネ。——ワタシはまだ、負けていない。控えに戦闘可能カードが存在しない時にダーク・ワルキューレが破壊された場合、控えに存在する、ダーク・ワルキューレを除く戦闘不能カードを、手札に戻すことができる。
戦いは続く。人の歴史は血と共にある。この戦闘遊戯も、同じことだ」
そんな、これじゃ次のターンにはまたセンチネルを呼び出されて時間稼ぎされちゃうかも——いや、ただの時間稼ぎじゃない……相手のドロー次第では、それこそ逆転のカードだって引かれちゃうかもしれない。
札伐闘技を見ている内に、朧げながらもカードゲームの構造が見えてきた私は、この後神崎くんが発するターンエンド宣言が如何に重いものなのかを、既にわかりつつあった。
——彼をじっと見つめる。どこを見ているのかわからない。その目は一体どこを見つめているのか。
ともかくとして、彼はついに口を開いた。
「
「何——?」
ローブマンが、固まる。
——それは、戦いの決着を悟ったも同義であった。
「闘争の歴史など興味がない。俺はそこに、何の感情も持ち合わせない。お前には悪いが、この札伐闘技での流血は——次の一手で終わりにするぞ」
神崎くんの指揮の元、
——狙う先はローブマン。直接攻撃だ。
「——しまいだ。
——『リーサル・ハンマーナックル』……!」
加速と共に突き出される、閃光の右腕。その一撃は、ローブマンを吹き飛ばした!
「——見事、だ。此度の、札闘士よ」
そう呟きながら、ローブマンはボロ雑巾の如き風貌になりながら、道を派手に転がっていった。
かくして、戦いは終わった。
勝者は、神崎くんだ!
「えー! すごいすごい! でもなんか今のヤバくなかった? ローブマン、さっきの私よりも轢殺って感じだったんだけど」
半ば冗談で言ったつもりだった。しかし、
「当然だ。札闘士は札伐闘技でしか倒せない。それは言い換えれば——札伐闘技を以てしか死ねないということに他ならない」
「——え、えぇ……?」
今かなり聞き捨てならない発言があった気がする。これ絶対もうちょっと深掘りしないといけないやつだと思う。
だから私は問いただそうとして——
「月峰カザネ。汝の試練は、終わっていない。
話の続きは、ワタシを倒してからにしろ。
このワタシの、【ダーク・ベルセルク】デッキを倒してからに、な」
新たに現れたローブマンとの、避けられない札伐闘技を前に、阻まれた。
「——月峰。話ぐらいなら聞いてやる。
だからまずは——」
「わかってるわよ! ——ああもう、確かに元はといえば私がなんか追われてるんだった! 試練? やってやるわよこんちくしょー! アンタなんか後攻で一気に捲って大勝利してやるんだから!!」
私は一気呵成に捲し立てた!
たぶんこんな感じの勢いで戦えば、なんかすごいハイテンポで勝てる気がする!!
「おい月峰。こういうゲームは基本的には先攻がやや有利とされている。わかっているのかそこんところ」
「は? そうなの、いやでも、えー、マジ?」
「マジだ」
「マジかー……」
「ワタシの先攻を確認。召喚シークエンスに移行する」
なんか言ってる間にガチで先攻取りやがったわよアイツ! あーもう私がカードゲーム初心者だからちくしょう!
「ワタシは、手札のセンチネルカード2枚を戦闘不能状態で控えに起き、大いなる力の具現をここに呼び出す」
「は?! 自傷行為!? どういうつもりよアンタ! ハンデのつもり!?」
そんなわけない気がしているけど、なんか今回のローブマンは私のことを舐め腐っている雰囲気があるので、なんか知らんけどスゲームカついているのだった。
「そうではない。これよりワタシが召喚するセンチネルは、その高い戦闘力ゆえに、大きなコストが必要なのだ。ゆえにこそ力の具現化——。
今こそ出でよ——『ダーク・ベルセルク』!」
——直後、つんざく轟音が鳴り響き、空気すら軋んだのか——そこいら中で金切音が大コーラス。
このパワーは、ダーク・ワルキューレを超えている……!?
かくしてそれは目覚め出でる。
大いなる代償と引き換えに、その強靭なる力が、その名の通り『
獣の衣をその身に纏い、漆黒の巨漢が姿を表す!
『ダーク・ベルセルク』
AP4500
構える巨斧には、私の姿が映っていた。
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次回「プロローグ/疾風の刃」
絶対見てくれよな!
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