現代伝奇デュエル活劇 札伐闘技フダディエイト

澄岡京樹

序章『開幕/札伐闘技フダディエイト』

第1話「プロローグ/vsダーク・ワルキューレ」

0/

 平成36年4月16日。18時00分。

 首都『芸都げいと』郊外、戯画町。


 春の夕刻にも関わらず季節外れの暑さの中、私——月峰つきみねカザネは、


「なんなのよあの黒ローブううううう!!」


 謎の黒ローブが乗った車に追いかけられて、戯画町の坂道を駆け降りていた。


 普段から物陰は多く人通りは少ないこの街は、帰宅ルートではないので絶対に通りたくない。ないのだけれど——


 私は鞄にしまったを取り出し、謎ローブへと振り返りながら、

「もしかしてこれあなたのなんですかぁぁーーーーー!!?」

 そう叫ぶもノー返事。ものすごい勢いで迫ってくる。時速何キロよ?! いや関係ないわ車だしあっち! 私は咄嗟に対応しきれないわよ!?


 どう考えても絶体絶命。度を越した不審者の突貫で、私はあえなく死ぬのでしょう——


 ああ、どうしてこうなったんだっけ。走馬灯のようなフィルムロール・回想タイムの始まり始まり——


 とか言ってる内にはねられた。回想に浸る暇さえ与えられないなんて、全くひどいお話だこと——


 ……

 …………

 ………………あれ?


 むくり、と起き上がる。

 痛いといえば痛い。だと言うのに、五体は満足だし血すら流れていない。何? 最強の受け身を取っちゃったの私……?


 よもや霊体ではなかろうな——などと思いもしたので、念の為周辺を見回してみたけれど、やっぱり私は肉体ごとここにいて、長い黒髪も健在で(自慢なため)、そして周囲には当然、さっきの轢殺カーと、そこから降りてきた黒ローブ人間がいた。


「ちょっとあんた! 話ぐらい聞きなさいって! あんたが探してるのってこのなんか——なんか黒い箱なんでしょ!?」


 鞄から取り出したこと、なんか黒い分厚めのカードケース。

 電車の乗り換えのために『戯画駅』で降りた私の眼前に落ちていたそれ。

 落とし物だろうかと、とりあえず駅員さんに渡そうとしたその瞬間から、原因のそれ。

 マジで意味わかんないわね。

 ——で、しかもその後、どこからともなく現れた謎の黒ローブ人間に追いかけられて、で、今に至るってわけ。

 たぶんだけど、これかなりとばっちり受けたわよね私。


 そういった諸々の怒りを織り交ぜながらの問いに対し、ついに黒ローブは(見えないけど)口を開いた。


「——いかにも。……だが、だが、ああ、もう遅い。契約は交わされてしまった。お前は今の逃走劇の際、無意識のうちに力を欲してしまったのだ」

「何言ってんのあんた!?」


 なんかよくわかんないけど、コイツ全部知ってて私を追いかけてた気がする!


「ともかく——ああ、お前はもう、で始末する他ない」

 そう言ってローブマンは、同じような黒いカードケースを取り出し、それを左腕に乗せた。

 ——すると、それはまるで腕時計かのように、ローブマンの腕に絡みつき、そして蓋のような部分が展開され——中に入っていた物が少し外界に晒された。

 ——あれは、カードの束? ていうか!


「始末って何よ。そっちで勝手にあれこれ仕掛けてきてるだけじゃない! ふざけんじゃないわよ!!」

 ビシッと指差して大声で反論する。もう半分ぐらいやけっぱちなんだけど、ビビって動けなくなるよりは遥かにマシってわけよ!


「ゆえにこそ、抗うがいい。——その、カードデッキを以て」

 ローブマンは言いながらカードを上から5枚左手に移動させた。あ、わかった。トランプの手札みたいなもんね?


「抗わぬのなら、大人しく死ぬがいい。

 ドローの意思がないのなら、ワタシのターンから始めよう」

 私が呑気している内に、推定カードゲームが始まったようだけど——


「私はまず、控えにセンチネルカードを裏側で2枚待機させ、バトルエリアにセンチネルカード、『ダーク・ワルキューレ』を召喚する」


 ——瞬間、空気が軋む。ローブマンが地面に向けてカードを投擲した時は何事かと思ったけど、次の瞬間にはこの通り。


 黒い羽を生やし、鎧を纏った女騎士が、私への明確な殺意を放ちながら


「先攻ターンは攻撃を許されていない。戦う意思があるのなら、カードを以て示せ。ターンエンド」

「ターンエンド——じゃないわよ!」


 全然わかんないんだけど! 流れ的に私の番が回ってきたことだけはわかったけど! 何したらいいの?! とりあえず5枚引いて手札にしたらいいってこと!? やるわよ? なんか、5枚引くわよ!!?


「待て!!!!!!!!」

 バイクの音ともにそんな叫びが聞こえたのは、私が今にもカードを5枚引こうとする、その寸前のことであった。


 漆黒のバイクに乗った、どう見ても学ランの男子だった。デザイン的に私と同じ高校の人らしい。

 キキっとバイクを止め、勢いよくヘルメットを外すと、黒髪無造作ヘアスタイルの男子が素顔を見せた。……って、同じクラスの神崎カナタくんじゃないの。


「神崎くん、この状況わかってんの? いや私は全然わかんないんだけど」

「俺はわかる。札闘士フダディエイター特有の殺気を追ってここまで来たんだからな——いや待て。月峰おまえ、もしかして札伐闘技フダディエイトのこと何も知らないのか?」

「だからそう言ってんでしょ。さっきからフダフダフダフダ早口言葉みたいになってるわよ」


 神崎くんはあからさまに「マジか」ってげんなりした。最初からか? 最初から全部説明しないとダメか? そんな言葉を発したいであろうことを、私は今心で理解している。


「その感じじゃ、まだデッキに触れてすらいないようだな。……いい、わかった。とりあえずソイツは俺が倒すから見てろ」


 そう言って神崎くんは左腕に装着していたカードデッキから5枚引いて手札にし、あ、なんかもう1枚引いた。そしてその内2枚を射出した。

 すると、右腕に黄金のガントレットを装備した、細身の黒騎士が姿を現した。何奴!


「後攻なのでデッキから1枚引き、そして俺は控えにセンチネルカードを1枚裏側で待機させ、場にセンチネルカード『GAゴールデンアームズ 閃光の右腕ライトニング・ライト』を召喚した。

 ……って流れだが、月峰、やっぱ今から自分のデッキに手を触れてみろ」

「はぁ。じゃあまあ、ちょっとだけ」


 自分のデッキとか言われても釈然としないけれど、とりあえず蓋を開けて人差し指でそっと触れてみる。すると——


 あたまのなかにものすごい膨大な情報が流入していき私の記憶領域に『札伐闘技フダディエイト及び札闘士フダディエイター』の知識が定着した。


「は!? 願いが叶う!?!?!?!?!?!? 聖杯戦争じゃないのよ!?!?!?!?!?!?」

「開口一番それか。ゲームの知識が役立ったようで良かったじゃないか」


 なんだかよくわからないけれど、私はカードバトルによるバトルロイヤルに巻き込まれたらしい。Fate/stay night、プレイしておいて良かったわ……!


 とりあえず頭の中に入ってきた主な情報は大体こんな感じ↓


①ソリッドハート

 たった今使っているカードのこと。

 カードの束カードデッキとして纏められており、使用者の心象風景がカード1枚1枚に投影される。よくわからないけど、人によってデッキの中身が違うってことらしい。

 バトルユニットである『センチネルカード』と、手札から任意のタイミングで使うサポート枠の『スキルカード』があるみたい。思ったよりシンプルね。


札闘士フダディエイター

 カードを使う私たちのことらしい。


札伐闘技フダディエイト

 ソリッドハートを使った戦いのことらしくて、控えのカード全てを戦闘不能にして、直接攻撃に成功したプレイヤーの勝ちらしい。

 あと札闘士は札伐闘技でしか倒せないらしい。なにそれ。

 で、これで優勝? すると願いが叶うらしい。あまりにも信憑性がアレしてるけど、それを言ったらこの状況もかなり超常的なので言い出したらキリがない気がしてきたわね。


 脳内整理、おわり。



「とりあえず大体わかったわ。そのローブマンがなんか人間じゃないってこともね」


 どうも、その聖杯的な何かしらの物体から遣わされた使者とかそういう存在らしい。このバトロワを上手いこと進めるために、私みたいな新参者にチュートリアルめいた轢殺アタックを仕掛けたりするみたい。雑すぎるだろ、運営が。


「わかったならいい。とりあえず俺の札伐闘技を介して、ルールを定着させておけ。

 ——どの道、もうこの戦いからは逃れられないんだからな」


 そう言ったあと、神崎くんはローブマンの方へ向き直り、ターンを再開した。

 あ、そういえば、もう一つわかったこと——っていうか見えるようになったものがある。


GAゴールデンアームズ 閃光の右腕ライトニング・ライト

APアタックポイント2000


『ダーク・ワルキューレ』

AP2000


 あっこれがあれね、攻撃力。バトルして数値が高い方が勝って、数値が一緒なら相打ちになるっていう。


「って。神崎くん! 数値一緒じゃ引き分けじゃないの。相手には控えが2体いるから結構不利なんじゃない?」

「そのためのスキルカードだ」


 そう言って神崎くんは、手札から1枚のカードを射出した。毎回やるんだ、射出。


「俺はスキルカード『バレットナックル』を発動。この効果により、『閃光の右腕ライトニング・ライト』のAPは500上がり、加速した拳は、相手のスキルカードの発動を許さない!」

「AP2500! 上回ったわ!」

「——バトル!」


 神崎くんの宣言とともに、戦闘が始まる。

 スキルカードで火力の上がった閃光の右腕ライトニング・ライトの鉄拳がダーク・ワルキューレの体を貫く! 槍を構えたものの、なすすべなく破壊され、そしてダーク・ワルキューレは、控えの空きエリアへ堕ちていく。


「——よく見ておけ。破壊されたセンチネルは控えへ戻る。そして控えは全部で5枠。いくら手札にセンチネルがあろうとも、すでに5体倒されていればそれでも敗北だ。考えなしにセンチネルを場に出すのは控えておけよ」


 神崎くん、控えめに言ってメッチャええ人やな……そう思った。


「俺はこれでターンエンド。そしてこのタイミングで、バレットナックルの効果も終了する」


〈ターンチェンジ〉


神崎カナタ 手札3枚

控え 戦闘可能1枚

場 『GAゴールデンアームズ 閃光の右腕ライトニング・ライト

AP2000


ローブマン 手札2枚

控え 戦闘可能2枚 破壊状態1枚

場 なし



「いける。いけるわよ神崎くん! このまま一気に押し切っちゃいましょ!」

「いや、どうかな……」


 呑気な私とは対照的に、神崎くんは自分の手札とフィールド全域を交互に見ていた。高度な戦術を感じる……!


「中々のものだ、神崎カナタ。……だが、まだだ。まだそれでは札伐闘技の深奥へは至れない。星の触覚たるワタシを超えてみせよ。——ワタシのターン、カードをドロー」


 またしても意味深なことを言い、ローブマンはデッキからカードを引いたドローした

 ローブ越しだから表情は全く見えない。だけど——


 ——今一瞬、笑いが聴こえた、そんな気がした。


「ワタシは手札よりスキルカード『闇よりの凱旋』を発動。これにより、控えのセンチネル1体を戦闘不能状態にすることで——ダーク・ワルキューレを戦線復帰させる!」


 裏側のままのセンチネルカードが闇に沈み、その闇の中から、倒したはずのダーク・ワルキューレが這い出てくる。


「闇より舞い戻れ、ダーク・ワルキューレ!」

「そこだ! スキルカード発動! 『リスト・グレネード』! これにより、閃光の右腕ライトニング・ライト以下のAPを持つセンチネル1体を破壊する! 再び堕ちろ!」


 スキルカード発動宣言により、閃光の右腕ライトニング・ライトの右手首からグレネードが射出される! 狙いはもちろん、ダーク・ワルキューレ! ——なのに!


「甘い。スキルカード『闇の霧-ダーク・ミスト-』を発動。これにより、我がダークモンスターへの攻撃を、控えの戦闘可能センチネルに差し替える」

「——! 幻惑の霧か」


 瞬間。バトルフィールドを黒い闇のような霧が覆い、リストグレネードの攻撃対象がズラされてしまった。

 ——本命への攻撃の不発。素人の私でもわかる。わざわざ復活させるだけの労力、そして破壊からの回避カードの使用。この状況で、ダーク・ワルキューレにそこまでこだわる理由が、敵にはある。

 ——これは、来る!


「ここでワタシはダーク・ワルキューレの特殊能力を発動する。名を『ヴァルハランス』。戦いを終えた戦士の力を、彼女の槍に集約する。そのAP上昇値は、1体につき500ポイント」

「——!」

「えーーーーーっ!? 500って……じゃあ2体だから1000アップ!!?」


 ヤバい気がする。だって抜かりないもん、ダーク・ワルキューレを狙ってくるのを承知で、控えセンチネルを身代わりにするカードばっか使ってんだもん。元から神崎くんのセンチネルを後手から捲るつもりだったんだわ!


『ダーク・ワルキューレ』

AP3000


GAゴールデンアームズ 閃光の右腕ライトニング・ライト

AP2000


「バトル、破壊対象は閃光の右腕ライトニング・ライト

 ダーク・ワルキューレよ、その漆黒の槍で刺し貫け——『トワイライト・ランセア』!」


 思いきり引き絞られ、ねじられたダーク・ワルキューレの体が、一気にその緊張を解き、今まさに漆黒の槍が力強く投擲される————……!


「神崎くん! 何か手はないの!?」

「無駄だ。ワタシはさらにスキルカード『闇の封印-ダーク・シール-』を発動。これにより、このカードの発動前後の敵スキルを全て無効にする!」

「南無三——!」


 槍が閃光の右腕ライトニング・ライトを刺し貫く。鎧が中身ごと砕けていくのが垣間見え、そのまま爆風があたりを包み込んだ。


「終わりだ。神崎カナタ。この戦闘儀式の始まりを待たずして死ぬが良い」


 鬼気迫る攻防、瞬時に切り替わる優劣。なるほど、カードゲームが流行るわけだわ。私、ちょっと興味出てきたかも。などとワクワクしたかった。


「こんな状況じゃなければねーーーーー!!」


 どうなる私、どうなる神崎。続きはWebに丸投げしたい。それでも番は回ってくる。私、これからどうなっちゃうのーーーーー!!?


------

次回『プロローグ/vsダーク・ベルセルク』

絶対見てくれよな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る