第5話 東京タワー 〜 後藤耕一 、その5 〜

 後藤耕一は幼馴染の家を訪ねていた。

 幼馴染の浩は高校を卒業後、地元の企業に就職し今も実家暮らしをしていた。

 浩は小さい頃から物を大切にする性格だったので、修学旅行で一緒に買った東京タワーの模型もきっと持っているだろうと考えたのだ。

「家まで来るなんて珍しいな」耕一と会うのは高校を卒業して以来ほとんどが居酒屋だったので、浩は不思議に思いながら言った。

「お前が持ってる東京タワーの模型を見せてもらいたくてな」耕一は単刀直入に用件を言った。

「東京タワーの模型なんて見てどうするんだ」意味がわからず浩は首を傾けた。

「ちょっと確かめたいことがあってな。とにかく見せてくれよ」

「まぁ、別にいいけど。」浩は訝しく思いつつも耕一を部屋に連れて行った。

浩の部屋は相変わらず綺麗に整頓されていて、耕一の目的の物も直ぐに目にとまった。



「お前、この東京タワー色を塗り替えた?」耕一は疑問に思ったことをそのまま口に出した。

「はぁっ、そんなことするわけねえだろ」何を言っているのか理解し難い耕一の言葉に浩の口調は強くなった。

「東京タワーって赤一色じゃなかったっけ?」耕一は疑問をぶつけた。

「東京タワーは昔から二色だろ」浩は当たり前のように答えた。

 浩の答えに耕一は衝撃を覚えた。

 浩が知っている東京タワーは二色。でも耕一が知っている東京タワーは赤一色。幼馴染でほとんどの時間を一緒に過ごして来た浩の言うことが間違っているはずはない。それなら間違っているのは耕一の記憶ということになる。



 耕一の記憶に残る赤一色の東京タワーとは一体なんだったのか。

 いくら過去を調べてもその証拠は見つからない。

 現在だけでなく、過去まで変わってしまったのだろうか。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロスト・ワールド〜少年・少女の頃に過ごした地球は消え去り、いつの間にか別の地球で過ごしていた話〜 轟 朝陽 @oasi-ikawodak

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ