第55話 理由の説明
「
「なんだよ」
「説明不足だと
「知ってる」
俺が初めての告白をフラれて動けなくなっていると、レンと
今まで馬鹿にしてきた告白だけど、本気だとこんなにも辛いのか……
「もしかして、舞翔くんに抱きついてて欲しいから?」
「は? 違うし。サキが説明途中で勝手に聞くのをやめたからだし」
「そう言ってお顔は嬉しそうだよ?」
「うるさい黙れ」
レンが俺の背中を叩いてきた。
まあフった相手にいつまでも抱きつかれているのは嫌だろう。
俺は全てを切り替えて、レンから離れ……ようとしたら、逆にレンが抱きついてきた。
「サキ、オレはサキと付き合えない」
「……」
「だけどそれは『今は』だ」
「どういうこと?」
レンが俺のことを見上げながら言う。
今は付き合いないとはどういうことなのだろうか。
「さっきも言ったけど、水萌のことが解決してないんだよ。だからそれが解決するまではオレがサキと付き合うのは駄目なんだ」
「水萌のことに集中したいから?」
「それもある。多分なんだけどさ、オレがサキと付き合うと……いいや、言ったらオレが負ける」
「じー」
後ろから水萌の擬音が聞こえたので顔をそちらに向けると、水萌が声と共にレンへジト目を向けていた。
「別にいいだろ。伝えることは伝えたんだから」
「私は何も言ってないもーん。それよりも、もう一つの理由は私?」
水萌が少しムッとした顔になる。
もう一つというか、今のも水萌の話だったと思うけど。
「そうだな。それは別に隠さないから許せ」
「まあいいけど。恋火ちゃんはほんとにいいの?」
「いいよ。負ける気ないし」
レンが余裕の笑みを水萌に向けると、水萌がほっぺたを膨らませて「むぅ」と可愛い唸り声をあげる。
「それでもう一つってなんなの?」
「サキがオレに告白してくれたのは普通に嬉しいよ。オレもサキと恋人になりたいから。だけどオレは今理由があるからって断ったろ?」
「うん。後少しで絶望の末に父さんのところへ行きたくなってたと思う」
「それはほんとにすいません」
レンが俺から離れて土下座をした。
レンのこういう律儀なところが好きだ。
だけどレンのぬくもりが無くなって寂しいのでレンの右手を握る。
「これは罰と受け取っていいのかな?」
「嫌ならやめる。だけどせめて話し終わるまでは駄目?」
「嫌じゃないけど、オレが耐えられるかわからないから早く終わらせる」
「じゃあこっちは私のー」
水萌が満面の笑みで俺の空いてる右腕に抱きついてきた。
なんだか出会った頃の水萌に戻ったみたいだ。
「水萌はやめたのか?」
「うん。舞翔くんが恥ずかしがってはくれるけど、結果的に舞翔くんは恋火ちゃんが良かったみたいだし」
「まあ水萌の第一印象と違いすぎるしな。アクセントでたまにやれば?」
「なるほど」
なんだかレンと水萌の間で不穏な会話が行われた気がする。
確かに俺は今日の少しおかしい水萌よりも、天真爛漫な無邪気な水萌の方が好きだ。
それでもレンのことが好きなのに変わりは無いけど。
「それより、オレはサキの告白を断ったわけで、そんなオレが全部解決したら恋人になろうなんて言えないだろ?」
「言ってもいいと思うけど?」
「それはオレが嫌なんだよ。サキをキープしてるみたいなものだろ? それに散々水萌とサキを付き合わせようとしてたくせに、オレが告白されたらオレがサキと付き合うってのもちょっと気が引ける」
「まじめさんだー」
「ほんとな」
まあ言いたいことはわかる。
散々、散々、散っ々俺と水萌を付き合わせようとしてたレンが、俺に告白されて即OKはレンのプライドが許さないのだろう。
そういうところも含めて好きだから俺も大概なんだろうけど。
「じゃあ全部が解決したら俺がもう一度告白すればいいの?」
「んなわけないだろ。オレはキープが嫌なんだよ。だからサキは待たなくていい」
「つまり遠回しに俺とは恋人にはないたくないと……」
「恋火ちゃんさいてー」
「サキはともかく水萌はわかってんだろ!」
レンに怒られた水萌は「わかんなーい」とレンに笑顔を向ける。
絶対にわかってる顔だ。
「ったく。全部が解決したらオレがサキに告白するってことだよ」
レンが頬を少し赤くして、そっぽを向きながら言う。
「それなら解決したら恋人じゃ駄目なの?」
「だから待たなくていいって言ったろ。その時までにサキが他の誰かを好きになっててもオレは何も言わない。そんな権利オレにはないからな」
レンがまっすぐ俺の目を見ながら言う。
ここで「俺と誰かが付き合った方がいいの?」なんて茶化しはいらない。
レンの真剣な眼差しを見ればそういう話でないのはわかるから。
「確認だけいい?」
「なんだ?」
「レンは俺が他の誰かを好きになったらどう思う?」
「普通に悲しいけど、仕方ないって思うよ。断ったのはオレだし。だけど、わがままを言うなら、オレを選んで欲しい……なんて思ったりしなくもないと言うか」
レンが言いながら耳まで真っ赤になる。
なんだこの可愛い生物は。
「恋火ちゃんってずるいよね」
「ずるい。こんなの他の誰も目に入らないだろ」
「私も?」
「水萌のことはちゃんと見てるよ」
「やったー」
水萌が腕に抱きつく力を強める。
やっぱり水萌にこうして抱きつかれるのは普通に嬉しいけど、レンに感じる感情までいかない。
可愛いけど微笑ましいというのが一番しっくりくる。
「言っとくけど、水萌は対象外だからな」
「対象外って、好きになる?」
「そう。水萌を好きになるのはいいけど、付き合うのはオレが告白する時まで待ってもらうから」
「恋火ちゃんのいじわる!」
水萌がレンにほっぺたを膨らませながらジト目を向ける。
「うるさい。お前だってオレがサキと付き合わせようとしてた時に逃げてたんだから文句は言わせない」
「それは舞翔くんが恋火ちゃんのことを好きだったからだもん。私だってほんとは舞翔くんに好きになって欲しかったんだもん。恋火ちゃんは舞翔くんから好きになってもらったのに言い訳ばっかりしてずるいんだよ!」
「知るか。結局諦められなくて自分を殺してまで色々やってたのは誰だよ」
「あれは私悪くないもん。それに、好きなのを認めないで勝手に諦めてた恋火ちゃんにだけは言われたくない」
いつもの姉妹喧嘩が始まってしまった。
なんで俺は毎回間に挟まれているのだろうか。
正確には間に挟まれてないことはあったけど、なんだか見慣れるぐらいにはこの喧嘩を見ている。
どうせすぐに仲直りするのだからわざわざ喧嘩なんてしなければいいのに。
「あ、すごい関係ないこと思い出した」
喧嘩でずっと忘れていたことを思い出した。
あの時は水萌とレンではなく、二人と俺の喧嘩? だったけど。
「名残惜しいけど離す」
「そんな泣きそうな顔するなし」
「水萌もちょっと離してくれる?」
「やだ!」
「お願い。後で病人(?) の水萌の為にお粥作って食べさせるから」
「それだけ……?」
水萌が上目遣いで俺にねだるような目を向ける。
「俺が食べさせる程度のことじゃ納得できないよな。調子に乗ってすいません……」
「ち、違うよ? ちょっとイタズラしたくなっただけで、舞翔くんのあーんなら風邪なんてすぐに治っちゃうもん。だけどね、その、舞翔くんからぎゅーってされたらもっと早く治るかなって思って、だから……!?」
水萌が早口で説明してくれるが、別にわかっている。
俺も水萌がいじらしくて、ちょっとイタズラしたくなっただけだ。
だけど、しゅんとなっていく水萌を見てたら抱きしめたくなったので抱きしめた。
俺は悪くない。
「これで治る?」
「……ひゃい」
「うわぁ、オレを好きとか言っといて目の前で浮気だよ。こりゃあオレが告白する頃には他の女になびいてんな」
「レンにも同じことするから安心して」
「すいません調子乗りました」
水萌だけにこんなことしたら、レンの言う通り不義理だと思ったのだが、レンに土下座されたのでやめておく。
またの機会に持ち越しだ。
「諦めてない気配。それより何を思い出したんだよ」
「あ、思い出しのを忘れてた。ちょっとまってて、それと水萌をお願い」
水萌は顔を真っ赤にして固まってしまった。
風邪が治ると言っていたけど、もしかしたらぶり返したのかもしれない。
とりあえず落ちていた毛布を水萌にかけて対処はレンに任せる。
女の子同士の方がいいこともあるだろうし。
「あの水萌をここまで。さすがサキ」
「やっぱりベッドに寝かす?」
「だいじょぶだいじょぶ。むしろサキにお姫様抱っこなんてされたら今日一日顔を合わせてくれなくなるかもよ」
「それは嫌だな。まあ大丈夫ならいいや、鞄取ってくる」
俺はそう言って隅に置いておいた鞄を取りに行った。
ずっと忘れていた『あれ』を取りに。
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