第52話 さりげない告白
「
俺が頭を撫でるのをやめる気配を出さなかった為、レンに無理やり手を掴まれて撫でるのをやめさせられた。
そしてほのかに赤く頬を染めたレンがそっぽを向いてしまったので、真面目な話で誤魔化すことにした。
「あるにはある。だけどそれには準備が必要で、多分サキにしかできない」
「任された」
「まだ何も言ってないんだけど?」
「レンが俺にしかできないって言うんなら、俺はなんでもやるよ。ましてやそれが水萌の為になるんなら断る理由ある?」
レンが真剣に相談してくれているのに、それを断るようなことはするわけがない。
俺は確かに天邪鬼だけど、真面目に話してる相手を茶化すほどのクズではないつもりだ。
その話が水萌と関わっているなら、どこに断る理由があるのか。
「サキだよな。とりあえずありがとう。でも、やるとしても夏休み中になるだろうから、話がまとまってきたら話すんでいいか?」
「俺はレンを信じてるから大丈夫。だけど一つだけ約束してくれるか?」
「なんだ?」
「それで水萌が助かるんだとして、レンが犠牲になるんなら手は貸さない。その時はみんなで逃避行だからな?」
もちろん冗談でもなんでもない。
高校生が全てから逃げ出すことなんてできないのはわかっているけど、それでも俺は水萌とレンを巻き込んで逃げる。
レンが前にもしも俺と結婚するなら逃避行になると言っていたので、いざという時の為に今から準備が必要かもしれない。
「やめとけ。サキ次第になるけど、多分穏便に解決するから。水萌もオレもサキと一緒に居られるように」
今はレンの真剣な眼差しを信じる。
もしも嘘をついていたなら、水萌と一緒にレンを連れて逃げる。
「とにかく、その時は頼む。オレじゃ水萌を守りきることはできないみたいだから」
「ちなみに本人にそういう話ってしてるの?」
「するわけないだろ。恥ずい」
レンが少し赤く染まった頬を人差し指でかく。
だけど残念なことに、水萌は聞いている。
そして毛布で見えないのをいいことに、俺の手に嬉しさをぶつけている。
「もしも聞かれてたら普通に死ぬ」
「そうか。ちなみになんだけど、他に水萌に聞かせたくないようなことってある? 今だから言えるみたいなの」
水萌が俺の手をぺちぺちと叩いてきた。
多分『ファインプレー』と言いたいのだと思う。
「そうだな、水萌ってさ、小学二年生ぐらいだったかな、夜に──」
「
寝たフリをしていた水萌が、ものすごい速さでレンの目の前に行き、鼻と鼻が付く距離まで近づいた。
「寝たフリなんかしてる水萌が悪い」
「私がいると話が進まないでしょ?」
「わかってるなら邪魔するな」
「やだ。私も
押せばキスする距離で二人は話し合う。
なんだか見ててドキドキするが、ちょっと水萌の背中を押してみたい俺もいる。
「サキ、変なことは考えるなよ。水萌も初めてだから本気でする気はないんだ。それと、もしも初めてをしたら、見境無くなる」
「私は恋火ちゃんが初めてでもいいよ? 恋火ちゃんの初めてを貰った後に舞翔くんのも貰えば……」
「させるか」
水萌が目を閉じた一瞬でレンが少し顔を離しておでこを軽くぶつける。
「痛い!」
「あんまり変なことは考えるなよ」
「いくら舞翔くんの初めてが欲しいからって暴力はひどいよ!」
「んなこと言ってねぇだろ!」
レンの頬が一気に赤くなり、水萌の柔らかいほっぺたを引っ張る。
「いふぁいよ!」
「うるさい黙れ。やっぱりお前は寝てろ」
「ふなおにられわいいろり」
「誰が捻くれ者だ」
レンはさっき俺が水萌につねられてる時に会話ができていたことに驚いていたはずなのに、自分だってできているではないか。
まあ、俺も水萌が何言ってるかわかるけど。
なんて無駄な対抗心を燃やしているが、ちょっと仲間はずれはそろそろ嫌だ。
「それで、なんでレンは水萌の格好で来たんだ?」
「ハブられてるのが嫌だからって、いきなりぶっ込むなよ」
「にゃんれらー?」
「お前も乗っかるな」
レンが水萌のほっぺたから手を離して、水萌の頭に軽くチョップをする。
「少しでも話を先延ばししたいからオレが気になってたこと聞くぞ。水萌ってオレと会ったら駄目なんだよな? 今は普通に会ってるけど平気なのか?」
「わかんない。たまに髪と目のことでうちの人と会うことはあるけど、会話があるわけでもないから」
「だけど監視はあるだろ? 何も言われないんだ」
「それこそ、恋火ちゃんの言ってたやつが関係してるんじゃないの?」
レンの話と言うと、従順でなくなったレンの代わりに、水萌を選んだというもの。
つまりは今度は水萌を使うから、水萌のご機嫌取りをしてるということなのだろうか。
「そうなるのか。だけどそれなら時間はあるか」
「そうだね。じゃあ時間稼ぎも終わったから恋火ちゃんが私のフリをして学校に行った話をどーぞ」
「他に話題ないか?」
「諦めて。そろそろ舞翔くんが泣いちゃうから」
水萌がなぜかキラキラした目で俺の方を見る。
別に泣きはしないと思うけど、話してくれると言ったのに話してくれないとなると、悲しいのは事実だ。
「わかってるよ。話したくねぇ……」
「大丈夫。舞翔くんなら喜んでくれるだけだから」
「それはそれで嫌なんだよ。水萌が居るのも嫌な理由の一つ」
「出てる?」
「ごめん、居ないとオレが死ぬ」
水萌が嬉しそうにレンの頭を撫でた。
二人の世界過ぎて、この光景を見るのは好きだけど、毎回モヤモヤする。
「ほら、恋火ちゃんがつんでれさんするから舞翔くんが嫉妬してるよ」
「わかったよ。話せばいいんだろ。別に大した理由じゃねぇよ。ただ、オレがオレとして話すのが怖かっただけだ」
「……可愛いかよ」
「うるせぇ」
なんとなくそんな気はしてたけど、理由が可愛すぎた。
要は、俺と話がしたかったけど、面と向かって話すのが怖かったから、水萌の格好を借りたということだ。
「まあ結果的に言いたいこと言う前にオレは帰ったんだけど」
「そこもちゃんと話さなきゃだからね?」
「わかってるっての。オレが帰った理由だけど、単純に恥ずかった」
「恥ずかしい? 怒ってたわけではない?」
昼休みの間は一緒に居てくれたけど、教室に戻り帰る時には顔が赤かったと
だから怒らせてしまったと思っていたけど。
「そういう発想になるのがサキだよな。普通にさ、水萌のフリしてるのがバレて恥ずかしかったんだよ。だって、水萌のアホらしい発言を真似てた時もサキからしたらオレが言ってるって思ってたわけだろ?」
「アホとはなにさ!」
「褒めてんの」
「ならいいや」
いいのかはわからないけど、水萌がどこか誇らしげなので俺は何も言わない。
レンが水萌を可哀想な子を見るような目で見ているけど、そうさせたのはレンだと自分で言っていた気がするのだけど、それも言わないでおく。
「俺としては、何か理由があって水萌のフリをしてるのはわかってたから、そういう体で話はしてたけど」
「それもわかったから余計になんだよ。本当はあの時に謝りたかったんだけど、見た目が水萌なのをいいことに、サキの本心を聞き出そうとするし。あれは話すつもりなかったんだけだよ? 水萌として少し話した後に、正体明かして謝るつもりだった。だったんだけど……」
「俺が気づいたから話がややこしくなったと」
「オレが素直に誤れれば良かったんだよ。勝手にサキを巻き込んだくせに、自分から謝れないんだから、オレにサキを責めることはできない」
レンが寂しそうに項垂れる。
その頭を水萌が優しく撫でている。
「レンは無駄に真面目だからな」
「うるさい。そういえばサキってなんで頑なに水萌と付き合いたくなかったんだ?」
レンが本当にただの興味本位といった感じに聞いてくる。
「なんでとは?」
「水萌って見た目だけなら可愛いじゃん? サキからしたら中身だって好みだろうし、水萌と付き合わないとしても、なんであそこまで拒絶してたのかなって」
「恋火ちゃんが酷いこと言った気がするんだけど?」
「事実しか言ってないから大丈夫」
水萌がほっぺたを膨らませて抗議しているが、レンはそれに取り合わない。
「拒絶ってほどでもないけど、水萌の気持ちがあるし」
「今更だからいいよな? 水萌だってサキのことは好きだったろ?」
「そうだね。舞翔くんと恋人さんになれたら嬉しいよ。多分舞翔くんが私に告白してたらOKしてたもん」
なんだか前と言ってることが違う気がする。
だけど前も確かに恋人になるのは嬉しいと言ってはいたから、あながち間違いでもないのかもしれない。
「だけど半分は違うって言ってたろ?」
「うん。だけど舞翔くんが本気で私のことだけを好きになってくれてたらその半分を捨てて恋人さんになってたよ」
「なるほど。ちなみにその半分とは?」
「今は教えない。多分すぐにわかることだし」
水萌が俺に笑顔を向ける。
何か言いたそうだけど、何が言いたいのかはわからない。
「はぁ、ほんとに舞翔くん。とりあえず素直にどうぞ」
水萌が呆れた様子で俺に何かを促す。
「素直に」とはどういうことなのだろうか。
俺は多分隠し事なんてしていないはずだ。
隠し事なんて……
「あ、もしかして、あれ?」
「そう、それ!」
「どれだよ」
多分だけど水萌の言いたいことがわかった。
唯一レンだけがわからず、つまんなそうな顔になっている。
俺の気持ちが少しは理解できたようで良かった。
まあそんなのはよくて。
「俺って、レンのことが好きみたい」
「あっそ、友達としてだろ? 何を今更」
「いや? 普通に女の子として」
「…………………………は?」
とてつもない間の末に、レンがとても驚いた顔になった。
俺の言葉に嘘はない。
俺はレン、恋火のことが好きなようだ。
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