第38話 トゥービーコンティニュー
「うち、再度登場!」
「おかえり?」
授業が終わり休み時間になると、またもや変人さんがやって来た。
ちなみに
「
「意味がわからない。それよりそろそろあなたが誰かを教えて欲しいんだけど?」
「お、うちに興味津々? 仕方ないなー、うちの生誕した日から時系列に沿って話そうではないか」
「長いから却下。いいから名前と目的だけ言え。もっと言うなら目的だけ言え」
変人さんのペースに乗っていたら話が進まない。
でも、今までの俺ならこんなに人と話すことなんてしなかっただろうから、少しは相手に寄り添えるようになれたのかもしれない。
まあ水萌の紹介というのが一番の理由なんだろうけど、そもそも変人さんに不快感がないのも理由の一つだ。
(それはそうと水萌さん。俺の手を握るのをやめてください)
水萌は緊張からなのか、ずっと俺の手を握っている。
力はそんなに込もっていないけど、だからこそドキドキする。
そして変人さんの「興味津々?」に反応するように力を込めるのはやめて欲しい。
レンのせいで勘違いしそうになるけど、おそらくただの嫉妬だ。友達としての。
「桐崎くんはあれだね、結論を大事にして過程を見ないタイプだ。あ、だからって桐崎くんが家庭を大事にしない人だとは思わないよ?」
「……」
「お、そろそろ本題に入らないと本気で怒られる?」
俺が無言で返すと変人さんがそれでも余裕な表情で聞いてくる。
別に怒りはしないけど、時間の無駄なので早く本題に入って欲しいという意味は込めていた。
「時間は有限だもんね。いいでしょう、うちの名前を教えよう」
「めっちゃハードル上がってるからな?」
「そんな脅しには屈しない。うちはハードルの下をリンボーするタイプなのだ」
飛べないハードルをわざと上げてその下を通るなんて頭がいい……のか?
よくわからないけど、もう余計なことは言わないでおく。
「うちは
「そう、じゃあ文月さん」
「完璧」
提案された全てを無視したのに、文月さんはむしろ嬉しそうに親指を立ててサムズアップをする。
「よし、じゃあまいまいにはよりよりと呼ぶ権利を授けよう」
「まいまいって誰だし。それからあなたは文月さんだから」
「きりきりまいは強情なんだから」
桐崎
まあわかってるから説明できるんだけど。
「それで結局文月さんは俺になんの用なの?」
「脱線に脱線に脱線し過ぎたね。キーマくんはいい感じに突っ込んでくれるから嬉しくて」
「人をカレーみたいに言うのやめてくれる?」
「やっぱり完璧。うちに想像通り、
文月さんが一人で勝手に何かに納得したように首を上下させる。
「いいからそろそろ目的話して」
「これは失礼。うちという数話に一度名前が出てくるような存在は長居したら駄目だね」
言ってる意味が最初からわからないけど、文月さんみたいな人はたとえ数話に一度の登場でもインパクトが強過ぎて頭から離れなそうだ。
「まずなんだけどね、森谷さんの噂を流したのはうちなんだけど、それはいいとして」
「よくないね。お前が元凶か」
文月さん自身、何か言われるのはわかっていたなだろうから、ちゃんと一区切りしている。
意外と真面目なのかもしれない。
「元凶とは失礼だね。確かに森谷さんを見た時に『理想の子だ』って思って、森谷さんは勉強ができて運動もできる、人付き合いも完璧の『理想の女の子』を造り上げたけど」
「元凶じゃねぇか。お前のせいで水萌がどれだけ苦しんでるのか知らないのか?」
「ほんとに苦しんだ?」
文月さんが不思議そうに聞いてくる。
「水萌の本心なんて本人にしかわからないだろ」
「あ、隣に居ても聞かないんだ」
「お前は今までの人生を全てあけすけなく全てほんとに語れるのか?」
文月さんは先ほど自分の人生を生まれてから全て語ると言っていた。
それが冗談なのはわかっているけど、誰しも自分のことを全て語ることなんてできない。
だから水萌に無理やり話せなんていいたくはない。
「桐崎くんはあれだね、過保護だね」
「お前が無遠慮なんだろ」
「でもさ、うち的には森谷さんって噂のせいで苦しんだとは思わないんだよね」
「なぜかな」
俺も文句は言ったけど、水萌は噂では苦しんでいないと思う。
何せ授業中に当てられても、周りの奴が「森谷さんにそんな簡単な問題聞く必要あります?」とかなんとか言って、水萌は人前で問題を答えたことはない。
体育の時も、全て「体調不良だから」ということで、運動ができないことがバレてない。
だから水萌が学校で苦しむとしたら、目立つ見た目の方だ。
「もしかしてフォローしてたのって」
「うちだよ? 別に森谷さんを苦しめたいわけじゃないからね。うちにはうちの目的があって、その為には森谷さんの協力が必要だったのさ」
協力とは言っているけど、水萌は別に了承してないから勝手な押し付けだ。
でも、一応は水萌を守っていたわけだから頭ごなしに文句も言えない。
「桐崎くんは優しいね。普段からそんなだったらモテモテだよ?」
「別にモテたくない」
「大切な妹さえいればいいって?」
「まあそうかな」
俺には水萌とレンさえいれば他に友達も何もいらないと本気で思っている。
水萌とは一応義妹の設定で、その水萌の妹? がレンだから、俺には妹だけいれば満足だ。
まあその妹は、文月さんが変なことを言う度に俺の手を握る力が強まって俺を困らせているのだけど。
「それよりその目的ってなんなんだよ。それが俺のところに来た理由なんだろ?」
「違うよ? うちの目的、野望と言ってもいいけど、それはトップシークレットだから教えられないのだよ」
「じゃあいい。それでなんで俺のところに来た?」
「それはあれかな? 興味がないフリをして、ほんとは聞いて欲しいうちから情報を引き出そうとしてる?」
「別に」
文月さんが言いたくないならわざわざ聞くこともしない。
元々興味もないし、どうせ話が長くなるだけだから。
「もう少しうちに興味を持とうよ。もしかしたらサブヒロインに昇格するかもしれないんだよ?」
「意味がわからない。文月さんは結局サブヒロイン? と、名前のあるモブのどっちになりたいの?」
「それはもちろん傍観者」
真面目に聞こうとした俺が馬鹿だった。
「呆れないで! うちは至って真面目だから」
「そう。じゃあ遠くで傍観しといて」
「それは誰かに暴力をふるえってこと?」
「その『暴漢』じゃないから。ちなみに寒さに備えなくていいから」
「うちのボケを先に潰された。貴様何奴!」
なんだか嫌な予感がしてきた。
それも二つ。
「では、おふざけもこのくらいにして、そろそろうちの野望についてお話を……しようと思ったのですが、お時間のようです」
「わざとでしょ」
文月さんとの意味のわからない会話で、またも休み時間が終わる。
なんで一つのことを聞く為に三時間もまたがなければいけないのか。
俺が文月さんを睨んでいると、「トゥービーコンティニュー」と言って自分の席に戻って行った。
「ほんとになんなの?」
(お兄ちゃんの浮気者)
「……水萌、帰ったら色々と話があるから」
水萌がいきなり耳打ちしてきたので、帰ったらさっきまでのことを含めてお説教することを遠回しに伝えると「浮気者」と、再度耳打ちとジト目を向けられた。
(うん、お説教は文月さんにするべきだよな)
拗ねた水萌が自分の席に戻るのを見つめながら、嬉しそうにニヤニヤしている文月さんへのお説教を心に決めた。
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