三ノ三 朱天組、動く
「実は先に、渡辺綱様にお願いしたのですが、にべなく拒絶されました」
居間の床に座ると、さかえはそう話しはじめた。
「ひでえな、あの綱ってやつは、心ってもんがないんだ」茨木がなぜかしたりげな口振りで言うのだった。
「その時、こちらの朱天様ならなにかしらの手立てをこうじてくださると教えてくださる人がいらっしゃいまして」
さかえは、藁にもすがりたい、というぐらいの顔つきであった。
「誰だそいつは」
茨木が訊くと、公家の家臣のようであったと教えてくれた。
「俺達もずいぶん有名になったもんだな」
「それで、お受けくださりますでしょうか?」
「まあ、内容にもよりますがね。では、お困りごとの中身をうかがいましょう」朱天がうながす。
「先ほども申しましたとおり、私の兄は大蔵省につとめております。ですが、ここ三日ほど消息を絶ってしまったのです」
「役所につめっきりということは?」
「ありません。家に帰れない場合は、かならず従者を使ってその旨をしらせてくるはずです。兄の、何人かの知人にもおたずねしたのですが、役所にはいないということで、そのかたがたも心配してくださっておりました」
「女性のところに居続けているという可能性は?」
「ありません。あの真面目な兄にかぎってそのような」
「あそうそう、従者のかたは、なにかご存じで?」
「従者は、役所で兄の上役である
「仕事が多忙と言われたのに、役所にはいない、か」
「その山田大丞にはお会いになられたので?」
「それが、お家にうかがっても、忙しくてほとんど家にも帰ってこないということでした」
「う~ん、その山田氏が何か知ってそうな雰囲気なんだがな」
「どうする」
と訊く茨木に、朱天はちょっとの間考えをめぐらす顔つきをして、
「もちろん、情報収集が先決だ。
虎丸が無言でうなずいて応じた。
「私もやろう。女のほうが聞き出しやすいということもある」
「よし、星も頼んだ。くれぐれも気をつけてな」
「では、ご依頼はお引き受けしましたので、さかえ殿はいったんお帰りください」
「では、よろしくお願いいたします」と言ってふところから巾着をとりだして、「これは些少ですが、どうか探索の資金にでもおあてください」
「あ、いやそんなお気づかいは……。そうですか、では遠慮なく」
朱天はずっしりとしたその巾着を押し頂くようしして受け取った。
それから、一日、虎丸と星がもどってきた。
「この木枯らしがふくなか、大変だったろう。まずは白湯でも飲んで落ち着いてくれ」
朱天が差し出した椀の白湯をふたりは、ふうふうしながら飲んで、しばらくすると人心地がついたようすで、
「ひととおり当たってみたけど、たいした収穫はなかった」星が首をふりながら報告した。「やはり、さかえ殿が聞いたこと以上の情報はえられなかった」
虎丸もうなずいて、同様であったようすだ。
「ううむ。山田大丞はつかまったか」
「山田は民部省に移動になるとかで、その手続きや申し送りで忙しいらしく、まったく役所から出て来んのだ。まったくつかまりそうもない」虎丸は無念そうであった。
「う~ん、その山田さんが一番なにか知ってそうなんだがな」
「普通にやったならつかまらないのなら、つかまえる工夫をすればいい」星がぽつりという。
「なにか案があるのか、星」
「ない。それを考えるのはあなた」
「まるなげかよ。まあいいや、俺が考えるよ」
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