第4話 孤高

「あとは母さん、お願いします」


 と兄が言う。父は完全に置物である。


「えぇ、分かったわ。ねぇリライズ、ここ1年何も連絡がなかったから最近どう過ごしているのか様々な伝手を使って調べたの。」


 母、レイラが言う。

 無茶苦茶、嫌な予感がする。正直いって逃げ出したい。


「そしたら二つ名が『孤高』っていうことがわかっt―――」

(『集中コンセントレーション』)


 体感時間が一気に引き延ばされる。周りがゆっくり見え、ゆっくり聞こえる。


(マズイマズイマズイ)


 別に怒られるというわけではない。もしかしたら怒られるかもしれないがそれはないと思う。

 とりあえずマズイのは俺がパーティーを組んでいないということである。

 冒険者はA級、S級になると二つ名が付けられる。俺の場合は珍しいソロ冒険者であったため『《孤高》』という二つ名が付けられたのである。

 仲間がいるとかはいってないが、ソロ(ぼっち)ということに気づかれないよう気を使っていたのだ。


 この広い王都でもA級でソロというのは俺しかいない(他の級にならいるかもしれないがごく少数である)。

 王都にいるS級もパーティーを組んでいる。なぜならソロは非常に危険だからだ。

 ソロだと自分がケガしたからといって例え町ですぐ治る様な傷でも動けなかったらそこで終わりだからである。だが仲間がいたらそんな状況に陥っても運んでもらえるから大丈夫。


 何とかしてこの状況から抜け出す方法を考える。

影移動シャドウムーブ』、『転移テレポート』、『透過インビジブル』、『閃光フラッシュ』等は逃げるだけで根本的解決にはならない。

 混沌魔法の一つ『記憶消去メモリーデリート』は記憶を消すことができるが使った相手が馬鹿になる可能性がある。身内が馬鹿になるのは嫌である。


 結果、諦める。うん、流れに身を任せよう。


 意識をもとに戻す。


「―――な、ずっとソロでやっていたのか」


 父がなんか言っている。母が途中から何を話していたのか分からない。

 多分、今は俺がソロで冒険していたことについて話しているのだろう。

 父が話しかけてくる。


「なぁ、リライズ。6年も王都で冒険者をしているんだ。そろそろ世界を見る旅にでも出たらどうだ。世界は広いぞ。様々な発見、未知がある。」


 世界を旅ねぇ。確かに楽しいのかもしれない。しかし当然、リスクもある。外の世界にいるのがゴブリンやスライウルフとかだったら余裕だが、ドラゴンやバジリスク、ベヒーモスにリヴァイアサン。

 果てにはミジンコに魔王なんていう存在がいるのだ。迂闊に外には出れない。


「どうだ、行きたくなっただろう」


 ますます行きたくなくなったよ。そしてやはり追放しようとしてくる、許せん。


「妹とも会いたいだろう。俺達はちょくちょく出会っているが、お前は依頼でどっか行ってるときが多かったからはかれこれ数年は会ってないだろうし」


 ふむ、確かに最後に会ったのが妹が魔法都市に行くとき、4年はあってないな。久しぶりに会いたい。


「どうだ?」


 本当は旅に行きたくないが、本当に行きたくないが此処まで言われたらしょうがないな。まぁ、別に行ってみるのもありかもしれない。

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