第11話 お嬢様との決闘

 青空と太陽の下。俺とシンディは学園内の決闘上で向かい合っていた。


 決闘場は教室よりずっと広く、中央には石畳の四角いフィールドがある。外側には土がならされている。


 シンディは両手を組み、グッと前に伸ばしながら、のんびりとした調子で言う。


「ディン君。準備はよろしくて?」

「こちら準備はできている。絶好調だ」


 そう答えるとシンディは楽しそうに笑う。


「では、観客席のダリーさんをガッカリさせないよう、頑張ってくださいね。もちろん、わたくしの期待にも応えてくださいまし」

「ああ、そうさせてもらおう」


 そこで二人の会話は一旦終わり、立会人のギーが以前の決闘の時のように必用なことを話し、俺とシンディも最低限必要なことに応える。


 そうして、ギーは魔法の箒に乗って高く飛び上がった。


「では、試合開始!」


 試合開始の宣言と共に、俺はシンディから飛び離れようとした。だが、それをシンディは許さない。


「距離をとろうだなんて。そんな考えは甘いのではなくて?」


 彼女は俺につきまとうように接近をしながら、呪文を唱える。


「エアブレード」


 シンディの白くしなやかな指先から風が発生し、それが剣の形になっていく。


「魔法剣士というやつか」

「ご名答。わたくしが得意とする戦闘スタイルは近接戦。魔法の刃で切り裂かれないよう注意することですわ」


 シンディは風の刃を操る。風の刃は視認が難しく、軌道を読みにくい。だが。


「バリア」


 キイイイィン……と嫌な音が鳴った。魔法の障壁が風の刃を防ぐ音。そして、俺が障壁を張り、風の刃が障壁を叩くたび、高い音が空間に響く。


「わたくしの攻撃をうまくふせいでいるようですわね。そうこなくては」

「そんなに余裕をこいている暇はあるのか?」

「な――あっ!?」


 障壁の角度を調整して風の刃を滑らせた。シンディの体が大きくそれる。


「君の攻撃は速く鋭い。だが、ハートマ先生の面の攻撃に比べれば、君の攻撃は点の攻撃だ。故に見極めればいなしやすい」


 態勢を大きく崩したシンディに対し、俺からの反撃だ。


「バリア」


 至近距離で発生したバリアに彼女の体が大きく弾かれる。これで場外まで飛ばせば決着か。と思われたが。


「まだ、まだですわぁ!」


 シンディは風の刃を石の床に突き立て、なんとか場外負けを防いだ。だが、場外負けの一歩手前だ。


「そのまま場外に出てもらう!」

「くぅ!」

「バリア!」


 俺の足元に障壁を発生させ、俺の体を弾き飛ばす。場外スレスレに立つシンディまで迫る。もう一度、さっきと同じことをすれば確実にシンディを場外負けにできる。が、そう簡単に勝ちをゆずってくれる彼女ではない。


「やらせませんのよ!」


 彼女は風の刃で反撃してくるが、そうすればそうするほど、俺には彼女の攻撃を逸らしてカウンターを打ち込むチャンスがやって来る。彼女が反撃をしてこないのであれば、単に彼女を弾き飛ばせばいい。状況は俺の有利だ。


「ディン君。わたくし、楽しいですわ!」

「そうかい? 今の状況は俺に有利なようだが」

「だからこそ、ですわ!」


 魔法の障壁と風の刃の攻防を繰り返しながら、俺たちは言葉を交わす。


「追い詰められるほど、わたくしの実力が試される!」

「悪いが、このまま負けてもらう」

「そうはいきません!」


 シンディは勝気に笑う。


「勝負はここからですわ!」

「――バリア!」


 瞬間、爆発的に風の刃の出力が上がった。魔力を大量に注ぎ込んだ一撃は俺の障壁を楽に叩き割るだろう。次の一瞬には攻撃が来る。咄嗟に判断し、俺も発生させている障壁に大量の魔力を注ぎ込んだ。


 キキイイイイイイィィンンと音が響く。そして、不味いことに俺が魔力を注ぎ込むのが一瞬遅れた分、不利なのが分かった。


「ディン君、分かりまして? このままいくとあなたのバリアは破壊されましてよ」

「ああ、分かってる」


 もうほとんど猶予はない。ならどうするか。緊急回避だ。


「バリア!」


 足元に発生させた障壁を蹴って俺の体を弾いた。上空へ。


「――上!?」


 人の目は上下の急な動きには弱いんだがな。どうもシンディは瞬時に自らを光から隠す影に気付いたようだ。流石だな。


「ああ、上だ!」


 シンディは俺を見上げている。


「ですが、上空に逃げ場はありませんわよ!」

「それはどうかな」

「なら、試してみましょう」


 そう言ってシンディは人差し指を俺に向ける。


「エアショット」

「バリア」


 俺はバリアを使って攻撃を防ぐ――のではなく回避する。空中で発生させた障壁を蹴り、シンディが放った風の弾丸を回避した。一瞬で大きく跳躍して斜め下方へ。


 人の目は上下の急な動きに弱い。シンディは今の一瞬で俺の姿を見失った。先程のように俺の位置を教えるヒントはない。そのため、彼女の反応は遅れることになる。


「バリア」

「――なっ!」


 足元に発生させたバリアを蹴って加速する。俺のボディタックルがシンディの体を弾いた。そして、彼女の体は場外にはじき出される。


 俺は、場外で尻もちをついたままのシンディに言う。


「俺の勝ちだ。シンディ」

「……どうやら、そのようですわね。ディン君。流石ですわ」


 直後、決闘の立会人が、勝者である俺の名前を宣言する。会場に喝采が起き、俺はシンディに手を差し伸べた。

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