EP3 未来を知る金庫

[未来を知る金庫]

とある金庫の中に入れた物が異常な速度で風化していくという事象が観測された。稀に見たことの無い物に替わっていることもあるという。


――――――


 小泉藍は怪異以外にも興味を持つことがある。その一つがガジェット系だった。好奇心旺盛な彼女は物珍しい物を見つけるとつい手を出してしまう癖があり、そのせいで一回も使われること無く物置に仕舞われている物も数知れず。

 そんな彼女が最近よく訪れているのが町はずれの骨董品店である「佐々木屋」だった。


「いらっしゃーい。また来たんだねー藍ちゃん」

「はい。ここには中々興味深いものが多いですから」


 店主と思わしき若い女性が藍に声をかける。かなりフレンドリーな対応なのは藍が常連だからなのか、はたまた彼女自身がそう言った性分なのか。


 藍は女性に軽く挨拶をし、店の奥へと進んでいく。しかし疑問に思うだろう。何故彼女がガジェットとは縁遠そうな骨董品店に訪れているのか。

 その答えは単純だ。この店が何でも取り扱うことをモットーとしている……それだけだった。要はこの店に置いてあるのだ。彼女が興味を示しそうな珍しい物が。


「ほう、これは……」

「おー流石藍ちゃん。それに気付くとは」


 そう言って店主の女性は藍の目の前にある傘を手に取り広げて見せた。その傘は棒の部分がやたら太く、スイッチのようなものがそこかしこに付いている。


「まずはこれだねー」


 店主がスイッチの一つを押す。すると傘の先から光が照射された。どうやら小型の懐中電灯が仕込まれているようで、店主は何度かスイッチを弄りライトのオンオフを繰り返すのだった。


「どう? これなら夜でも安心だよー」

「そうですね。他には何か機能があるのでしょうか」

「なら、これとかはどうかなー」


 店主がまた違うスイッチを押す。その瞬間、傘のやたら太い棒が開き中から色々と出て来たのだった。


「これが扇風機。暑い夏もこれで乗り越えられるね。で、こっちが文房具入れ。いつどこでペンが必要になっても大丈夫だね。そんでこれが小型クーラー。寒い冬もこれで乗り越えられるね。でこっちが」

「わかりました買いましょう」

「え? でもまだ他にも機能が……」

「それは実際に使えばわかります」


 と、藍は言う。しかし実のところ彼女が購入してから使い続けている物はそう多くは無い。買って満足してしまうか、一度使って満足してしまっていたのだ。店主もそれを知ってはいたが藍はそう言う人物なのだと割り切っていた。せっかくの常連なのだ。変に購入意欲を削ぐ必要も無いという判断だろう。

 そんなこんなでこうしてまた彼女はガジェットを手に入れては物置を肥やしていくのだ。


「おや、あの金庫は……?」


 会計をしている途中、藍は店の奥に置いてある金庫に興味を持ったのか店主にそう尋ねた。


「確か以前来た時にはありませんでしたよね」

「あーそうだっけか。でも別に面白いもんでも無いと思うよ?」


 店主の言うようにその金庫はどこから見ても至って普通のただの金庫だった。少し錆びていることからそこそこ昔の物なのだろうと予想できるだけで、それ以上の何かがあるわけでも無い。


「……そうですか」


 だが藍はそうは思っていないようだった。僅かではあるものの金庫から何かを感じ取っていたのだ。しかしいまいち確証が持てないこともあり、結局その日はそのまま帰宅したのだった。


 そして数日後。再び佐々木屋を訪れた藍は驚いていた。今までとは比べようもない程の客が佐々木屋に押し寄せていたのだ。


「これは一体……」

「あーいらっしゃい藍ちゃん。ごめんねー今こんなことになっててさー」


 店主は人込みを掻き分けて藍の元へとやってきた。


「つい数日前まではお世辞にも客の数が多いとは言えなかったはずですが……何かあったのですか?」

「手厳しいねー藍ちゃんは。まあそれは良いとして、この前藍ちゃんが気にしてた金庫があったでしょー?」

「ええ、確かにありましたね。ですがあの金庫には特に面白い要素は無かったのでは?」

「そう思っていたんだけどねー。実は凄かったんだよアレ」


 そう言って店主は金庫が良く見える場所へと藍を案内した。


「ほら、今扉を開ける人がいるから見てて」


 店主の言う通りちょうど金庫の扉を開けようとする人がいた。


「勝手に開けさせて良いのですか?」

「良いの良いの。それを売りにして客を呼んでるからね。あ、ほら開いた開いた」

「確かに扉が開きましたが……それが何か? 中の物もかなり風化してはいますが別に珍しいものではありませんよね」

「それがびっくり! あの風化している物は今さっきあの金庫に入れた物なんだよー!」

「……はい?」


 藍は「何を言っているんだこの人は」という目で店主を見る。それは普段他の人が彼女を見る目と同じものだった。


「ははん、さては信じていないなー? お、次の人が入れるみたい。見てて見てて」

「は、はぁ……」


 藍は店主の言うままに金庫の方を見続けることにした。金庫には先程とは別の人によって確かに真新しいノートが入れられた。そして扉が閉じられ、少し経った後に再び扉が開けられたのだが……そこにあったのは風化したノートだった。


「……え、何が起こって」

「どう、凄いでしょ? ってうわぁっ!?」

「あ、あれはどこで手に入れたのですか!?」


 藍は店主の肩を両手でがっしりと掴みながらそう叫ぶ。先程までの彼女の落ち着いた雰囲気は奇麗さっぱりどこかへ消え去っていた。オカルトクレイジーの本領発揮である。


「な、なんかいつもと雰囲気違うね……?」

「そんなことは無いですよ。それよりもあの金庫は何なのでしょうか。どこで手に入れたのです? どういった原理であの結果が引き起こされているのでしょうか!」

「えっと、それが良くわからないんだよね」

「よくわからない……とは?」


 興奮状態の藍とは対照的に、店主は少し低めのテンションでそう答える。


「仕入れ先の中に誰もあの金庫の事を知っている人がいなんだよねー。で色んな書類を確認してみたんだけど、そこには確かに仕入れ先に関する情報が書いてあったんだよ。不思議なこともあるもんだよね」

「ふむ……それは」


 藍は少し考え込み、頷いた。何かを結論付けたようだ。


「これは間違いありません。怪異絡みですね」


 藍の口から出たのは考え込む必要も無かったのでは無いかと思える答えだった。


「怪異……? ってあの妖怪とかそう言う?」

「ええ。あの金庫の異常性はそうとしか考えられません。入手先が不明なのも怪異系の物品にはよくあることですし」

「でも確かに言われてみるとそうとしか考えられないかー」


 藍の導き出した荒唐無稽に思える答えに店主は納得しているようだ。とは言えこのような異常性が出ている限りあの金庫がただの金庫である可能性は限りなく低いのだ。彼女がそう考えてもおかしくは無いだろう。

 そうやって二人が話し込んでいる時だった。


「ひぃっぃぃあっぁあ!?」


 突然、店内に女性の悲鳴が轟いたのだ。


「おや何事でしょうか」

「ちょ、ちょっと見てくるね」

「では私も行きましょうか」

 

 そうして二人は悲鳴を上げたであろう女性の元へと向かって行った。


「何かありましたかー?」

「ぁ……あぁ……」


 女性は床に座り込み、恐怖に引きつった顔で声にならない声を上げていた。店主が声をかけるも錯乱しているのか上手く言葉を出せずにいるようだ。しかし女性も何かを伝えたい意思はあるようで、必死に腕を上げて金庫の中を指差した。


「金庫……? え、何……これ……」


 金庫の中を見た店主は驚愕と恐怖の混じった表情を浮かべた。見てしまったのだ。金庫の中で蠢く、真っ黒な物体を。


「な、何を入れたんですか……!?」

「ぁっぅ……ぇっと」


 やっと話せるようになってきたのか、女性は戸惑いながらも少しずつ言葉を紡ぐ。


「その……ちょっと前に死んじゃったペットのハムスターを……入れました。奇麗な骨になれば……ずっと一緒にいられると思って……」

「ハムスター……?」


 それを聞いた店主は恐怖をこらえながらもう一度金庫の中を見た。見間違いを願った彼女だったが、やはり異形の物体が蠢いていることに変わりは無かった。何度見てもその光景が変わることは無いのだった。


「ハムスター……なの? あれが……?」


 恐怖に震えながらも店主は何とか言葉を発し続けた。そうしなければ自分も隣にいる女性のように錯乱してしまうと理解していたのだ。


「大丈夫ですか?」

「……ごめん、ちょっと大丈夫では無いかも」


 藍に声をかけられたことで店主は少し落ち着きを取り戻したようだ。それでも心の奥に刻まれた本能的な恐怖はそう簡単に消えることは無いようで、結局その日はそのまま店を閉めることにしたのだった。

 幸い金庫の中の物体は何かをしてこようと言う気配は無かったようで、そのまま扉を閉じることで一旦は事なきを得たのだった。


――――――


「では色々と確認しましょうか」

「ほ、本当に大丈夫ー?」


 怪異疑惑のある金庫を前にして案の定テンションが高めな小泉藍は金庫に入れる物を色々と用意して再び佐々木屋を訪れていた。と言うのも彼女は金庫について色々調べさせて欲しいと店主に頼み込んでいたのだ。

 もちろん店主も最初の内は断っていた。しかしあまりにも押しが強すぎる藍にとうとう負けを認めたのだった。


「や、やっぱりやめない……?」


 藍の後ろから金庫を見ている店主はとても不安そうな顔をしていた。あんな異常事態のあった次の日なのだから無理も無かった。しかし不幸なことにその程度で止まる程に藍の怪異への欲求は軟なものでは無い。もはや一種の災害と思って受け入れるしか無いのだった。


「何をするにも、まずはこの謎の物体を処理しないといけませんね」


 藍は金庫の扉を開けながらそう言った。金庫の扉は昨日閉じて以来そのままだったのだ。そのため当然ながら中には未だ黒い物体があり、ぐにゅぐにゅと蠢いていた。


「これが何なのかはわかりませんが……ひとまずバケツにでも入れておきましょう」


 異形の物体に向かって藍は一切躊躇せずに近づいて行く。そして持っていたゴム手袋を両手に付けるとそのまま謎の物体を手づかみでバケツに入れ始めたのだった。


「えぇっ……よく触れるねー……」


 何とも思っていないかのように淡々と作業を進める藍に、店主は恐怖を通り越してドン引きしていた。


「さて、これで片付きましたね。この液体のような何かも気になるところですがまずは……」


 謎の物体をバケツへと移動し終えた藍は持ってきていた物の中から金庫に入れる物を探し始める。ノートや本などの書物系から押し入れに仕舞っていたであろうガジェットまで、彼女はとにかく色々なものを幅広く用意していた。


「まずはこれを試してみましょうか」


 藍はそう言ってノートと本を数冊金庫の中に入れ、数秒待った後に扉を開けた。


「……やはり風化していますね」


 昨日彼女が見た物と同じように、中に入れられた物はまるで数年間野ざらしで放置されたかのように風化していたのだった。


「……」


 金庫から取り出そうと藍はノートを持ち上げるが、脆くなっていたのか紙が千切れてしまう。つまりそれはただ見た目が変わっているという訳では無く、正真正銘その物体自体の時間が経過しているということだろう。


「凄い……やはり凄いですよこれは……!」


 自分の手で入れた物体に目の前で異常な現象が起こったことで、彼女は改めてテンション高めでそう叫ぶ。


「よし、もっと色々試してみましょう」


 藍は朽ちたノート達を崩れ落ちないように慎重に取り出し、今度はゲーミングマウスやキーボードなどの電子機器を入れたのだった。そして数秒後彼女が金庫の扉を開くと、やはりそれらの物体は大きく姿を変えていた。


「なるほど、素材による差は無い……という事でしょうか。それでは次は……」


 何かを思いついたのか彼女はもう一度ノート類を入れ、金庫の扉を閉めた。そして今度は数分の間待っていた。


「藍ちゃん、どうしたのー?」

「入れていた時間によって結果が変わるのかを確かめようと思いまして」


 そう、彼女は金庫の中に物を入れていた時間が風化具合に影響を及ぼすのでは無いかと考えていたのだ。それを確かめるためにもう一度先程と同じようなノートを入れたのだった。

 それは俗に言う対照実験と言うものだった。物が違う以上は完全に同じ状態とは言えないものの、それ以外の条件を限りなく近づけていたため効果が無いことは無いのだろう。


「……変わりませんね」


 しかし彼女の期待とは裏腹に、風化具合は先程とまるで変わらなかった。それは金庫に入れていた時間が内部の物の風化具合を決める訳では無いということになる。

 その後も藍は色々と物を入れては確認をしていく作業を進めた。しかしそのどれも同じように風化するだけで、特に変化が現れたり規則性が見つかったりと言ったことは無かった。


「ここまで色々試しても大して変化が無いとなると、何と言うか少し物足りないですね。……ですが本番はこれからです」


 藍はそう言って持ってきていた物の中から一つの袋を取り出した。


「それは……?」

「昨日調達した虫です」

「……え?」


 藍の口から出た言葉を上手く認識出来無かったのか店主はしばらく天井を見て停止していた。そしてもう一度藍に開いた。


「……冗談だよね?」

「いえ、本当に虫が入っているのですが」


 残念ながら店主の聞き間違いでは無かった。藍は本当に虫を持っていた。


「心配しないでください。全て死体ですので」

「それの何が心配しなくて良いの!?」


 死体だから大丈夫だと藍は言う。しかし店主には何が大丈夫なのかわからなかったようだ。


「既に死んでいるので逃げ出すことも暴れまわることも無いですし、万が一のことがあっても苦しむことは無いでしょう」


 慈悲があるのか無いのかわからないことを言う藍。確かに金庫によって風化させられる際に苦しみを伴う可能性もあった。だがそれはそれとしてナチュラルに実験用に虫を持ってきていることが店主にとってはドン引きポイントだった。


「安心してください。誓って殺生はしていませんので。既に亡くなっている方々を集めました」

「それのどこを安心すれば……いや良いや……」


 何を言っても感覚が違い過ぎて意味が無いと理解した店主は、もう彼女の奇行に何も言わないと決めたようだった。


「昨日のあの物体もハムスターの亡骸を入れたことで現れたものでした。となれば元々生物だったものがそのまま入れられた際に発生する現象だと想像することが出来ます。なので、こうして確かめるのです」


 藍はそう言いながら袋の中から取り出した虫の死骸を金庫の中に置いて行く。


「ひとまずはこのくらいで良いでしょうか。さて、鬼が出るか蛇が出るか……!」


 これまでと同じように扉を閉じた藍は興奮冷めやらぬと言った様子だ。同じような結果ばかりで少しは落ち着きを取り戻していた彼女だったが、ここからが本番のようなものだったのだからそれも仕方の無いことだ。

 どういう理屈で生まれてくるのかわからない異形の存在が今目の前で生まれるかもしれないのだ。そんな状態で彼女が興奮を抑えられるはずが無かった。


「よし、そろそろ良いでしょう」


 今か今かと待ちわびていた藍はとうとう金庫の扉に手をかけた。そしてそのまま扉を開き、中を確認する。


「ふっ、ふふっ……予想通りです」


 少女がしてはいけないような嫌な笑みを浮かべながら藍は満足げにそう言った。金庫の中には昨日と同じように黒い物体が存在していたのだ。


「ふ、増やしちゃって大丈夫なのかな……?」

「それはわかりません」

「えっちょっとそれは困るんだけど!?」


 無責任すぎる藍の言葉に店主は思わず叫んでいた。既に一体バケツの中に存在しているのだ。下手に増やすのは不味いのでは無いかと思うのは当然だった。


「そうですね。これ以上はやめておきます。それにしても……今回のものは少し小さいですね」


 藍は金庫の中の物体を見ながらそう言う。確かに今回現れた物体は昨日の物に比べて遥かに小さかった。とは言え、何故そうなったのかを導き出せるほどの情報は今の彼女には無かった。


 その後、藍は店主の事も考えてもう終わりにしようと後片付けを始めたのだが、そのタイミングで店内に二人組の男性が入って来たのだった。今日は店を開いていないため、その二人が客では無いことは藍たちにもすぐに分かったようだ。


「金庫を引き取りに来ました」

「金庫を?」


 藍は「どういうことか説明を求む」と言わんばかりの表情と雰囲気で店主の方を向いた。そうして彼女に説明を催促された店主は男性の方へと歩きながら口を開く。


「昨日の一部始終をSNSに上げていた人がいてねー。それを見たのかあの金庫を引き取ってくれるって言う連絡が来たからもう渡しちゃおうかと。このままこの店に置いておくのも怖いしさ。あ、ここにサインですね」


 店主は男性から渡された証明書にサインを書きつつ藍へと説明を行う。


「そう言う事でしたか。名残惜しいですが店主さんの判断には逆らえません。それにこの店に何か起こるのは私としても本意ではありませんし」


 藍は少し名残惜しそうに金庫の方を見るが、すぐにそれまで通り片づけを始めた。実際に言葉にしていた通り、彼女としてもこの店や店主に危険が及ぶのは本意では無かったのだ。そうして片づけをしている藍の元に二人組の片方が寄って来た。


「おや、私に何か用でしょうか」

「これは……」

「ああ、そちらですか」


 藍の目の前にまでやってきた男の視線は彼女では無く、その足元にあるバケツへと注がれていた。それからわかるように男の目的は藍では無くバケツの方だった。正確にはバケツの中身だ。

 中に入れられている物体を見ながら彼はブツブツと独り言を呟いていた。


「まさか、また生物を入れたのか……?」

「生物と言いますか、虫の亡骸なら入れましたが……それがどうかいたしましたか?」

「ああ何と言う事だ……いや良い。もう終わったことだ」


 男はそうやって意味深なことを言いながらバケツを運ぼうとした。しかしそれを藍は止める。せっかくの異形な物体をそう簡単に渡す気は無かったのだ。


「それをどちらに?」

「君は知らなくていい事だ。下手に首を突っ込むと後悔することになる」

「ですが私もそれに興味があるのです。その、少しだけでも……分けてはいただけませんか?」

「……いや、駄目だ」


 藍は上目遣いでじっと男性の目を見つめながらお願いした。自分がかなりの美少女であるという事を理解しているうえでの行動だった。実際、そんな藍のハニートラップの効果もあり男は一瞬行動を停止させていた。少なからず効果はあったのだろう。

 しかし結果は駄目だった。彼は邪念を振り落とすように首を振った後、否定の言葉を口にしたのだ。


「そうですか。わかりました」

「聞き分けが良くて助かる。……それと、今日見たことは忘れた方が良い」


 男はそれだけ言ってバケツを店外に止めてあった車に乗せ、もう一人の男と金庫を運び出し始めた。


「なんだか手際が良いねー。流石は大きな会社なだけあるよ」

「そうなのですか?」


 店主は二人を見ながらそう言った。彼女曰く金庫を引き取ると言って来たのはかなり大規模に展開している古物商の大企業とのことだった。ただ藍はそれに疑問を持ったようで、店主からその会社名を聞きスマホで調べたのだった。

 すると彼女の直感が正しかったと言うべきか、その会社はどう検索しても出てくることは無かったのだった。


 藍と店主がそれに気付いた時には既に車も男二人も金庫も店から消えており、まるで最初からそんな物など無かったと言わんばかりに全ての物的証拠が無くなっていた。

 そして数日後にはSNS上に投稿されていたはずの動画や画像なども姿を消していたのだ。明らかに何かがおかしかった。しかし藍にも店主にも、或いは他の人たちにも、その原因を知ることは出来なかった。

 もうその金庫に関する情報はどこにも残っていないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小泉藍は怪異を欲している 遠野紫 @mizu_yokan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ