象の時間ネズミの時間

象の時間ネズミの時間という本がある。

新書なのにベストセラーの結構上位になった本である。

乱暴にかいつまんで言えば、同じ哺乳類でも象は60年近く生きるし、ネズミは数年程度しか生きない。

しかし、彼らの心拍数や呼吸の数に留意してみれば、象の呼吸回数とネズミの呼吸回数、そしてほとんどの哺乳類の呼吸回数・心拍回数に相関関係があると言う話。

つまり、象とネズミは違った時間に生きている。

地球の自転や公転で決められた絶対的な時間から考えれば、動物の寿命はさまざま。

だけど、その体が必要とする心拍数・呼吸数から考えれば、相対的に同じような寿命なのである。


若い頃、ヤスという友人が居た。

元気者で、酒を飲み、ヤマを曳き、酒を飲み、ボディビルをし、酒を飲み、女を泣かせ、酒を飲む、そのパワーは留まるところを知らなかった。

その愛嬌は誰からも愛される。

私の結婚式の時には、他の仲間を煽り立て共に女装し、最後には並んでパンツを見せまでした。

そして、そのパンツには お め で と う と書かれていた。

それは私の宝である。

その頃よく一緒に酒を飲んで歩いた。

魂が触れ合ったと思える時もあった。

でも、そんな事は口には出さない。


そのヤスが死んだ。

交通事故だった。

酒を飲んでの交通事故。

同乗者とどちらが運転していたか判らないほどの事故だったらしい。

通夜の時に彼の歪んだ顔を見て、生き急ぎ という言葉が頭に浮かんだ今でもその事を思い出す。


後年、象の時間ネズミの時間の本を読んだ時、ヤスの事が頭に浮かんだ。

あいつは自分の時間を生きていたんだなと。

自分はどんな時間を生きてきたのだろう。

そしてどんな時間を生きていきたいのだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る