ちゃうちゃう

チャウチャウ犬を飼っていた事がある。

飼ってはいたが買ったわけではない。

7代くらいまで遡る凄い血統書付きの犬。

私の祖先なんて曾ジイチャンまでなると、名前どころか何をしていたのかも知らないのに。


そのチャウチャウ犬は近所で飼われていた犬であった。

飼っていたのはスナックのママで、金髪に染めたカーリーヘアと堂々とした体躯のオバチャン。

そのママがリキを連れて散歩をしていると、近所の子供から”あはは、親子で散歩している”と言われたらしい。


それから、リキは散歩に連れて行って貰えなくなった。

残念ながら仕方が無い事だろう。 

飼い主の繊細な心が傷ついたのだ。

リキは散歩に連れて行ってくれと鳴く。

グォングォンと野太い声で鳴く。

飼主は近所の迷惑を考え、時々鎖を外して自由に散歩させていた。

その頃当家で雑種の犬を飼っていたが、リキと仲が良くていつも遊びに来ていた。

私達にも懐いていて、なかなか帰ろうとしなかった。

それを知ったママは、リキを持て余していたので貰ってくれないかと言ってきた。


大人しい犬だった。

チャウチャウ犬は普通は結構気性が荒いらしい。

食用犬としてして作り出された運命を悲しんでいるような悲しそうな顔をしていた。

ただ、40キロ以上有るので散歩は大変だし、長い毛の手入れも大変だった。

数回首輪が切れて脱走したが、近所では有名だったのですぐ通報がきた。

ある時は、他家の犬の餌を全部食べ、犬小屋に潜り込んで寝ていた事もある。

取られた方の犬は震えていたという。

ある時は、じっと自動販売機の前に佇んでいたという。

金の持ち合わせが無かったのだろう。


彼はもう居ない。

暑い夏の日に日陰で硬く冷たくなっていた。

賢くはなかったし、何の役にも立たないし、手間の掛かる奴だったが愛嬌のある奴だった。


賢くないから可愛いかったのかもしれない。

犬が自分より賢くて分別があったら絶対に可愛くないだろうから。

「ご主人様のおっしゃっておられる事は非倫理的です」とか言われたら、嫌だろうね。



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